トランプ氏、CNNに「静かにせよ、偽ニュース」

2017年01月13日 06:00

このトランプ氏の会見映像は、歴史に残る喜劇である。

映像を見ていただけばわかるが、トランプ氏はBuzzFeedという、英語圏で主にリベラル系の若者に人気のあるニュースサイトを、デマ情報を多く含む「偽ニュースサイト(Fake News)」であると一刀両断にした後、同様にCNNに対しても厳しい批判を行い、またそれに刺激されトランプ氏の発言に対して反論ないし質問しようとしたCNNの記者に対し、「あなた、勝手に喋らないで、あなたに質問権は与えません。あなた(が悪いの)ではなく、あなたの所属している組織(CNN)は最悪なのです。」と述べた後、それでも大声で喋り続ける記者に対し、「お静かに、失敬です。あなたに質問権は与えません。あなた方(CNN)は偽ニュースじゃないか(You are Fake News)」と、厳しい表情で窘めた。

ことの発端は、CNNが報じた「二項に及ぶ概要(two-page synopsis)」と呼ばれる、トランプ氏とロシアの関係についての「機密文書」(classified documents)に含まれたトランプ氏の信用を傷つけかねない情報をロシア側が保有しているという主張(allegations)に関する梗概である。CNNは複数の米国政府関係者(multiple US officials)がこの主張を直接知っており、現大統領のオバマ氏及び次期大統領のトランプ氏に対しこの主張に関しての情報を含む梗概が渡されたと報道したのだ。

この報道の後にBuzzFeed Newsではその主張の内容が記された資料(dossier)とされるものを公開し、トランプ氏が事実上ロシア側に「弱み」を握られていたので、トランプ氏はロシアに都合の良いように「西欧世界を分断する役割を演じるよう仕向けられ」、この目的の為のロシアによるトランプ氏援助は実に5年以上に渡っているなどという内容をさも「真実」であるかの如く報じた。

トランプ氏はこれに対してFake NewsであるとTwitterなどでも怒りを表明し、遂に公の場でBuzzFeed NewsとCNNの両方を”Fake News” と断じて一切無視するという強行姿勢に出た、ということである。

情報の出所は英国の諜報機関所属の元スパイだと言われているが、この文章の内容の真偽を判定する立場に私は無い。とはいえ、リベラル勢が最近トランプ氏のロシアとの関係についてあれこれと詮索をはじめ改めてトランプ氏の大統領としての不適格性を示そうと躍起になっているということだけは明らかだ。

尤もトランプ氏自身、ロシアがハッキングという手段で米大統領選に介入した可能性を指摘するなど、ロシアが何らかの関わりを持ったこと自体は否定していない。だが、さすがにロシアの傀儡であるとまで言われれば、その情報源が虚偽であるのであれば、トランプ氏本人にとってはそれが虚偽であることは明らかなので憤慨するのも無理はない。また仮令虚偽ではないにせよ、BuzzFeedが流した文章を裏付ける証拠などは全くない。単に怪しげな文章がそこにあるだけで、それだけでは何も裏付けることはできない。単にトランプ氏の個人的信用を失墜させるという効果しかないだろう。

それにしても次期大統領にここまではっきりと嫌悪感を示されてしまったことは、トランプ氏をこれまでバカにしていたリベラルメディアのひとつであるCNN側にとっても大きな痛手である。さすがにトランプ氏に公衆の面前でFake News扱いされてしまった事態にはCNNも狼狽したのか、自社ページでこんな弁解文を公開している。

CNN’s decision to publish carefully sourced reporting about the operations of our government is vastly different than Buzzfeed’s decision to publish unsubstantiated memos.

(邦訳)CNNの、わが政府の活動に関して慎重に情報源の確かな報道をするという決意は、裏の取れていないメモ書きを公表すると決断したBuzzfeedのそれとは大きく異なるものであります。

We made it clear that we were not publishing any of the details of the 35-page document because we have not corroborated the report’s allegations. Given that members of the Trump transition team have so vocally criticized our reporting, we encourage them to identify, specifically, what they believe to be inaccurate.

(邦訳)我々は、報告書の内容がまだ裏付けられていないことを鑑み、35頁に及ぶ文書の詳細については一切公表しないと明言しました。次期トランプ政権側の複数メンバーがこれほどまでにメディア上で我々の報道を批判している以上、我々としては彼らに対し、具体的にどの部分が不正確であると信じるのかを明示されることを推奨いたします。

つまり、さすがにこの件に関してはCNNもまずいと感じ、とりあえず目下のところはBuzzfeedとは距離を置きたいということらしい。そうして自分たちはBuzzfeedほど卑劣なことはしていない、我々の報道はそこまで低質ではないと頑張っている。だが、トランプ氏がCNNをこれほど強く非難したのは単にこの件のみがきっかけとなっているわけではないだろう。これまでの数々の積み重ねが、トランプ次期大統領をして公衆の面前でCNNをFake Newsだと言わしめ、かつそれを目撃した少なからぬ人々をして拍手させしめたのである。(映像の中で拍手しているのはトランプ氏に対してよりも記者の「勇気」に対してしている者が多いのかもしれないが、見る映像によって音量やタイミングが微妙に変わっているので判然としない。だが、YouTubeにおける記者会見映像へのコメント欄には明白にトランプ氏の記者に対する「叱責」を支持する声が多い。)

リベラルメディアは去年からトランプ氏を「脱真実(Post-Truth)」時代の大統領などと揶揄し、Post-Truthという言葉はなんと2016年のOxford DictionariesのWord of the Yearに選ばれるほどであったが、以下のPost-Truthの定義に当てはまるのは嘘をついてもほとんど誰にも深刻な批判をされないリベラルメディアで生じている現象であり、それに対抗する保守メディアの方が逆に生き残りの為に否が応でも誰も否定できない事実に基づいた報道をせざるを得ないが故にobjective factsを強調する向きがあるのは皮肉である。

(Post-Truth is an adjective)relating to or denoting circumstances in which objective facts are less influential in shaping public opinion than appeals to emotion and personal belief
(Post-Truthとは)客観的事実よりも感情や個人的信条に訴えかける言明の方が公論を形成する上でより強い影響力を有する状況のことを指す
 トランプ氏が実際に誤まった情報を拡散することに貢献したBuzzfeedを非難したことや、他の人の質問を妨げて自社の立場を弁解する機会を要求する記者に対し「失敬」だと注意し無視したことが「報道の自由に対する権力的圧力」であると批判され、「さすがはPost-Truth時代の次期大統領」などと人身攻撃さえ受ける一方で、真偽の不確かな情報に基づいて「トランプ氏の大統領としての適格性を再考」することを促すリベラルメディアが「真実の守護者」であるかのように振る舞う中で、事実よりは特定の倫理観に基づき「権力を批判」するリベラル派の正当性は自壊しつつある。見事に自分に跳ね返ってくるブーメランをリベラル派に投げさせたトランプ氏は、この意味では現代社会に大きな貢献をしてくれたのかもしれない。
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