止まらない韓流ポピュリズムと日本政治の今後

2017年01月14日 06:00

国際派の代表格とも言える元国連事務総長も、一政治家となればポピュリスト化せざるを得ない韓国の現状

元国連事務総長ともなれば、過去の業績に関する毀誉褒貶はさておき基本的な国際感覚の素養はあるのだろうという期待が、日本の知識層の間にも多少はあっただろう。

だが、潘基文氏が今韓国国民に訴えていることは何であろうか。中央日報(日本語版)によれば、潘氏は国民に対しては『「慰安婦像」の撤去が条件なのであれば、10億円を返還し2015年の「日韓合意」を破棄すべき』、などと、レトリックにしては少々過激な発言を用いて人気取りをしているように見える。

韓国内でもソウル大学国際大学院長などは「日韓合意」を破棄するなどということはあってはならないという冷静かつ貴重な少数意見を提出されている。だが、同時に「日本は10億円の拠出と少女像の移転を直接結び付けないようにすべきだ」という指摘をすることを忘れてもいない。つまり、逆に言えば韓国側としては「少女像」を何らかの形で維持するというのは譲れない点だということだろう。

尤も、陳昌洙氏のように「重要なのは12・28合意を忠実に履行しながら状況の悪化を防ぐこと」という視点から潘氏の発言の「行き過ぎ」に自制を促す声も出ており、韓国内のエリート層の意見が完全に「合意破棄」ないし「少女像の移動反対」一色で染まっているわけではない。だが、最も穏健な意見でも「ウィーン条約」に抵触する可能性のある領域からの撤去を主張するに留まり、「少女像」をどこかに設置すること自体にまで反対する意見は見られない。

つまり、今日の韓国人にとって「慰安婦」は議論の余地を残す「問題」ですらなく確立された「史実」なのだ。『日本は「元慰安婦のおばあちゃん」の傷が癒えるまで永久に謝罪すべきだ』、『日本は「過去の過ち」を永久に記憶せねばならない』というのが韓国の日常的言説空間に溶け込んだ決して疑われることのない「真実」、あるいは控えめに言っても「100%正当な主張」なのであり、彼らにとっての関心は日本がそれらの主張を受け入れるか否かという一点のみに尽きる。

また現状の韓国内の政治的ニュースは朴槿恵大統領のスキャンダルに関連する話題でほとんど独占されており、日本や慰安婦関係のニュースはそれほど多くない。私の個人的知り合いである韓国人によれば、今の韓国人は朴槿恵政権批判に熱中しており、「慰安婦問題」は実はほとんど話題にさえなっていないと言う。

むしろ今はただより強固な反日政策を展開できる「真に民族の誇りに忠誠心のある」政権をつくることに注力する一方で、日本においても「リベラル」政権が台頭するのを待とうではないかというのが韓国世論の自然な動向だろう。

一旦「国際社会」の理解を得てしまった万国のリベラル派に擁護されている「戦争における性犯罪と戦う」という「平和希求的」な「人道主義」的主張を彼らが曲げることなど、現状ではおよそ考えられない。韓国の「民意」は、日本のそれよりも遥かに強硬である上、「国際社会の非難」という外圧もほとんど働かないどころか、逆に国際社会では「韓流反日主義」を強化することに繋がるような「リベラル」な言説が大勢を形成しているからだ。

その上で、今韓国世論の注目を集めているのはむしろ経済の悪化であり、中国の脅威であり、国内政治の腐敗であり、北朝鮮の核ミサイルに対する対抗手段である。特に経済の悪化は韓国社会に深刻な歪みを生んでおり、その中にあって弱者に対する救済を十分に行うことのできなかった朴槿恵政権に対する怒りが醸成され、セウォル号転覆事故以来急激に高まっていた反朴政権の機運が、個人的スキャンダルの暴露という起爆剤で一気に爆発したまま爆後処理がまだ済んでいないというのが現状だ。

爆後処理を行うには、まず国民の怒りを鎮めなければならない。かつ今回の怒りは非常に強いので、これまでのように反日政策を実施するだけでは収まりそうもない。従って潘氏は反日政策を当然の如く盛り込みつつ、経済的にもやや左傾化した政策を主張せざるを得ないだろう。つまり、今の韓国はトランプ氏級のポピュリスト(民主主義推進派という意味ではなく、単に大衆の支持を集める人、という意味)でなければ治めきれないということだ。この状況では韓国側の対日姿勢は硬化することこそあれ軟化することはしばらくないだろう。

「日本大使召還」から既に一週間。「西側」の反応は?

こんな状況の中、国際的にはトランプ氏の対外政策論が北朝鮮や中国を活気づけている中で日韓関係が冷却していることに対し、The Economistなどの英語圏経済紙などはかなり露骨に苛立ち混じりの懸念を示している。無論Economistの論調は日本に批判的で、さも日本は西側の白人社会同様にもっと傲慢になるべきであり、韓国と同じレベルで民族主義的主張のぶつけ合いを続けるのではなく、さっさと(西洋諸国にとっては何の)役にも立たない問題を謝罪なり何なりできる限り早期の解決に繋がる手段で片付けて、対中包囲網の形成に一役買ってくれとでも言わんばかりの押し付けがましさを醸し出している。これこそが極度にリベラルな正義感に満ち溢れたイデオロギー的「リベラル」派の背後に控える、より合理性を重んずる通常の「穏健」リベラル派の本音であろう。

実際、「国民感情」や「日本人としての誇り」等といった文化的要素を排して経済的に最も合理的な選択をするなら、慰安婦のみならずあらゆる文化的問題はなるべく政治化させないのが最も得策である。日本を含む東アジアを便利な市場としか見ていない外国人が、東アジアで最も話の通じそうな日本に「合理性」を求めるのも当然ではある。

というのも、欧米人の立場で見ればいくら中国が日本を上回る経済大国に成長したといっても、独裁体制を崩さない政情不安定要素の多い中国にそれほど強く柔軟性を要求することはできない。言うまでもなく北朝鮮は論外であるし、韓国も決して柔軟とは言い難い上、東アジアのリーダーになれるほどの国力自体中国や日本に一段劣る。となれば、欧米側としては少なくとも今の段階では腐っても西欧文明を最も早くかつ最も深く受容しており、極東では政治的に最も柔軟かつ国力のある日本に東アジアのまとめ役を買って出て欲しいと期待するのも無理はないからだ。

今後日本はどう動くべきか?

とはいえ、日本にとっても民族的プライドを経済の為に犠牲にすることは決して容易ではない。政権がそのような方向に走れば「売国」という批判は必ずつきまとうし、受益者が社会の上層及び外資系に限られていれば尚更その批判は強まる。また、日本人ないし日系人が海外の一部地域で深刻な韓国系住民からの「差別」的嫌がらせに晒されているという報告まである以上、それが切実な真実である限り韓国側に譲歩し過ぎることによる「弊害」も考慮せざるを得ない。他方で、国内で穏健社会主義的な福祉優先をとるのも経済合理性に反しているという点では同じなので、やはり外国、日本の場合は特にアメリカの不興を買うだろう。あるいは、「福祉」の中身次第では国内から批判が噴出するという可能性もある。

福祉国家もダメ、民族主義もダメ、改憲(9条改正)もダメ、新自由主義もイマイチとなれば、現実的に日本が取りうる政策というのは非常に限られてくる。まず、アメリカや国際社会が日本に求める「先進性」をある程度実現する必要からは逃れられないので、経済活性化の為に労働関連法の緩和は避けられない。特に雇用の流動化は一層進めざるを得ないだろう。

だが、その際には電通の一件で話題になった「日本的雇用」の悪しき慣行とされる部分だけが温存されることのないように、公教育のレベルから抜本的に改革し国民生活レベルでの「合理性」を高めねばならない。そうすることで、「にくいしくつう」(もしくは「憎いし苦痛」、第一次安倍政権の標語「美しい国」の逆読み)と揶揄される「日本的新自由主義」の呪いから国民を解放し、国際標準の労働環境で、労働者が自ら希望する場合に限り純粋に自己利益の為に欧米基準よりも働くことができるという程度の「規制緩和」を実現し、「資本家のレトリックに騙されて搾取労働に身を委ねているに過ぎない」という日本(の左翼的)的労働観が「思想教育」によってではなく現実の実体験の中で実質的に改善されていくように労働文化のレベルから改革していかねばならない。

その上で、経済的脱落者の救済や高齢者福祉を「国税」以外の財源から賄う仕組みを整え、対外的には歴史問題などの「文化」や「イデオロギー」次元の問題に関しては2015年の「日韓合意」の例に習う形で隣国の要求を見かけ上通す一方で、領土問題などの現実的次元では強硬姿勢に出ることでバランスをとる。

今の枠組みで日本が現実的に取りうる改善策はこのくらいまでだろう。日本ほどの経済規模を持つ国なら、本来であれば「自衛隊」を正式に新日本軍と認め、海外の平和維持活動にも積極的に参加することで新市場を開拓するという道も考えられるのだが、その道は今は完全に閉ざされているし、そもそも文化障壁に手こずって東アジア市場も十分に開拓できていない。とはいえ、対韓(及び対中)政策という点では歴史問題に決着をつけて一気に改憲まで進むというのもひとつの手である。

最後に、日本でもかなり人気があると言われているアメリカのドラマシリーズ “House of Cards” の主人公、Frank Underwoodの台詞を紹介して締めくくりたい。

If you don’t like how the table is set, turn over the table

(意訳)既定の枠組みが気にいらない時はどうするか – その枠組みごとぶっ壊すんだ

日本の政治家にこれを現実の政策、特に外交レベルで実践できる人がもしいれば実に頼もしいものだ。

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