オバマ政権が意に反し残した希望は、実を結ぶのか

2017年01月16日 06:00

yasuda obama

バロンズ誌、今週のカバーはマーケットの重鎮によるラウンドテーブルを掲げる。半期に一度行われる協議で投資アイデアを紹介するラウンドテーブルは9日にニューヨークにあるハーバード・クラブで開催され、中国人民元に始まり欧州銀行問題、トランプ次期大統領をめぐる政策について意見が交わされた。参加者は新債券王と呼ばれ2016年1月時点からトランプ次期大統領の誕生を予言していたダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック氏のほかゴールドマン・サックスのアビー・コーエン・シニア投資ストラテジスト、T・ロウ・プライスのブライアン・ロジャース会長、ガベリ・ファンドのマリオ・ガベリ最高投資責任者(CIO)などが名を連ねる。

参加者はポピュリズムとマイナス金利の影響で欧州には悲観的な予想に傾く一方、欧州中央銀行(ECB)が市場予想より早くマイナス金利から脱する可能性を指摘した。日本をめぐっては、再び日の出づる国として復活すると予想し株式の面で期待を寄せる。トランプ新政権をめぐってはインフラ投資拡大や税制改革、規制緩和の3本柱をめぐりカギを握るのは新大統領ではなくポール・ライアン下院議長だと指摘。同議長の協力なくして予算は成立しないだけに、ライアン議長の発言には注意が必要だろう。米成長率は2017年に2〜2.5%と予想し、米連邦公開市場委員会(FOMC)の見通しをレンジ内に収めた。米株は、1桁の上昇率にとどまると見込む。中国に対しては、共産党大会を前に習近平主席が経済と通貨を安定化させる上で2つの選択肢を、すなわち1)金融引き締め策→リセッション突入、2)資本流出を阻止→国内総生産(GDP)比で年間40%もの信用拡大を招き、インフレ急伸を引き起こす——とした上で双方を少しずつ活用する合わせ技を講じると見込む。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はオバマ米大統領の存在が帰せずして残した”希望”がどのような結果をもたらすを考察する。抄訳は、以下の通り。

退任するオバマ米大統領がもたらした、希望の皮肉な勝利—The Ironic Triumph of Hope as Obama Leaves Office.

”希望(hope)”と言えば、2008年のオバマ米大統領が民主党大統領候補時代に使ったキャッチフレーズだ。そのオバマ米大統領がホワイトハウスを去るなかで、金融市場をはじめ米12月中小企業楽観度指数米12月消費者信頼感指数などは過去最高あるいは急伸する勢いだ。

インベスターズ・インテリジェンスの調査でも、直近の結果で強気派は58.6%と2014年7月以来で最高を遂げた前週の60.2%にほど近い。弱気派に至っては18.3%と2015年8月以来で最低を更新した。調整を予想する回答も23.1%と、2014年6月以来の最低だった前々週から2.5%ポイント上昇しているとはいえ低水準を維持している。こうした市場の見方は、ドイツ銀行のハウス・ビューの要約でまとめられている。ドイツ銀行はトランプ次期大統領が経済、金融、安全保障をめぐり第2次大戦時代の体制を根底から覆し、米国第一主義を実行していくと予想。保護主義に傾く懸念が横たわるが、世界貿易に混乱を与えるとは想定していない。むしろトランプ新政権の政策は米国のゲーム・チェンジャーとなり、財政刺激と広範囲にわたる規制緩和が米経済を活性化させ成長、インフレ、政策金利など長期的均衡点を引き上げていくと考え、非常に楽観的だ。

まるで、マーケットは1929年に発表された”幸せな日々が再び此処に(Happy days here again)”のリズムに乗っているかのようだ。しかし、BCAリサーチは、トランプ次期大統領が11日に行った記者会見が「保護主義マーケット・トレンドにおいて引き延ばしになっていた米株の調整を引き起こす材料となりかねない」と予想する。米株はテクニカル的な買われ過ぎの水準まで上昇してきたため、健全な調整となりうるという。

マーケットがインフラ投資拡大などといった3本柱への期待を織り込む一方、税制改革は時間が掛かるのが常で年末に漸く発動されよう。規制緩和やインフラ投資拡大と合わせ、経済にインパクトを与えるのは2018年になってからではないか。

またトランプ新政権と共和党が医療保険制度改革(オバマケア)撤廃に注力すれば、経済政策が後ろ倒しされかねない。しかもトランプ次期大統領は経済政策に心血を注ぐより、ゴールデン・グローブで功労者に輝いたメリル・ストリープが放つ批判、アーノルド・シュワルツェネッガー前カリフォルニア州知事へのツイッター口撃に時間を割いている。

ロシアとの関係について報道したCNNやバズフィードには、偽ニュース掲載者と名指しで批判。

cnn-trump

(出所:Twitter)

ホイジントン・インベストメント・マネジメントの四半期レポートで、ヴァン・ホイジントン氏とレイシー・ハント氏は金融危機最中に実施された2009年の景気刺激策を取り上げ「時期尚早に予想された見通しは外れ、経済は加速せず、米国は過去70年間で最も小幅な成長拡大を経験しインフレは低水準にとどまった」と振り返る。その上で、経済協力開発機構(OECD)の経済開発検討委員会の議長を務めた経歴を持つウィリアム・R・ホワイト氏の言葉を引用し、基礎分析上の失敗とは、経済が複雑で適応するシステムではなく理解可能かつ制御可能なものと仮定することだと指摘する。

ホイジントン氏とハント氏は、減税で財政赤字が膨らめば裏目に出てしまい、債務が成長に一段と悪影響を与えかねない。インフラ投資拡大は先延ばしにされ、実施の保証はなくなる。米企業のレパトリへの税率を下げたところで工場建設をはじめ設備投資を促進させるか不透明で、むしろドル高を招き米国の競争性が損なわれそうだ

エネルギー分野その他での規制緩和は、供給側にプラスを与えるだろう。しかし、こうした効果は関税や輸入規制による貿易赤字抑制策で相殺されてしまうだろう。貿易赤字の改善は海外勢の米国貯蓄を減らしてしまうはずだ。米国では消費の減少あるいは投資の縮小につながる。「願いことには気をつけろ(careful about what you wish for)」の一例と言えよう。

逆張り派で知られるマクロ・メイブンスのステファニー・ポンボイ氏は、想定通りことが進まなかった場合の”トランポノチュニティ=Trumportunities”を挙げる。ドル高と金利上昇は経済の鈍化を招くと考え、同氏は52週で最低付近にあるVIXが示すように抑えられてきたボラティリティの上昇を予想。ジャンク債の利回りの上昇に合わせS&P500が下落し、特にジャンク債は向こう2年間で4,340億ドルの償還を予定するだけに注意喚起する。米株をめぐっては一般消費財のアンダーパフォーマンスを見込み、銀行株への期待も単なる期待を基盤にして高まったに過ぎないと切り捨てた。FOMCの利上げ回数も、予想値である3回に届くか疑問を投げかける。逆にポンボイ氏は米国債を選好、ホイジントン氏とハント氏も米30年債利回りにつき現在3%近いところ年末に2%を予想していた。

ポンボイ氏はトランプ新政権が貿易戦争をもたらす可能性をにらみ、ドル強気派とも袂を分かつ。勝者には、エマージング市場の債券と株式を挙げた。2016年に同氏はロシア株とルーブルを挙げ、両者はそれぞれ55%高、16%高を達成し予想が的中した格好だ。しかし今年は1984年や2000年につけた安値に近い水準で推移するノルウェー・クローネに注目する。

中国について、ポンボイ氏は人民元を金相場に連動させることで安定化を図ると予想した。大胆な政策に見えるが、人民元をドルに対抗する国際通貨の座に押し上げるために中国は必要な手段を講じると見込んでいるためだ。2016年に起こった数々の番狂わせを踏まえれば、大胆な政策を見逃す手はないだろう。


アップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは今回もトランプ新政権に物申すトーンに終始しました。ラウンドテーブルでも過度な楽観論は確認しておらず、足元の米株上げ止まりが示すようにトランプ氏の米大統領就任式を前にユーフォリアがしぼみつつあるかのようです。個人的にはトヨタやフォードをはじめメキシコ工場新設に関する非難は、クシュナー氏やエクソン・モービルのティラーソン氏など人選に対する批判の矛先をそらす意味もあったのではないかと思料。しかし、就任後も同様な対応が続けば完成品の値上げによる消費者への負担増大が取り沙汰されるリスクは否定できません。国境調整につき小売業者が猛反発し、一部企業の幹部も疑問を投げかける理由はその効果にあり、トランプノミクス実施前に膨らんだ期待にはガス抜きが必要でしょう。

(カバー写真:The White House/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年1月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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