「トランプ氏の大使館移転案は中東和平に貢献せず」

世界に12億人以上の信者を有する世界最大のキリスト教派、ローマ・カトリック教会の総本山バチカン市国で14日、パレスチナ自治政府の大使館が正式にオープンした。自治政府のアッバス議長は、「バチカンで大使館が開いたということは、ローマ法王がパレスチナ人を愛し、平和を愛している証拠だ」と述べ、ローマ法王フランシスコに感謝の辞を表明している。両者は今回を入れて5回、会合している。

パレスチナ人@ウィーン

▲踊りだしたパレスチナの人々(2012年11月29日、ウィーン国連内にて撮影)

それに先立ち、アッバス議長はフランシスコ法王と約20分間、会談した。パレスチナのTV放送によると、パリで15日開催の中東和平会議の行方やテロ対策で意見の交換が行われたという。

一方、バチカンの声明文によると、パレスチナとイスラエルの双方は多くの犠牲者が出る武力闘争を停止し、中東の恒常的な和平実現のため持続的な解決を模索すべきだという点で一致。そして国際社会に対しては、「中東の関係国間の信頼を拡大し、平和実現のために貢献すべきだ」とアピールしている。

アッバス議長に随伴してローマ入りしたパレスチナ自治政府高官は両首脳会談前に、「次期米大統領トランプ氏の駐イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移転する案に対し、ローマ法王が明確な見解を表明することを期待している」と述べていることから、同議長はフランシスコ法王にイスラエルの米大使館の移転についてバチカンの支持を要請したものとみられる。

実際、アッバス議長はイタリアのANSA通信に対し、「トランプ氏の米大使館のエルサレム移転案は中東の和平に貢献しない。2国家共存案の終焉を意味するだけだ。パレスチナは東エルサレムを首都とした独立国家を要求する」と述べている。

バチカン放送によれば、フランシスコ法王とアッバス議長との会談では、エルサレムがアブラハムから派生したユダヤ教、イスラム教、キリスト教の3宗派にとって重要な聖地であることを確認している。

バチカンは2016年1月、パレスチナを正式に国家と認知している。バチカンはパレスチナとイスラエルの2国家共存案を支持している。ちなみに、パレスチナを国家と認知している国は目下、130カ国以上になった。国連は2012年、オブザーバー国の立場を与えている。多くの欧米諸国はパレスチナの国家承認は、パレスチナとイスラエル間の和平合意後に、という立場を崩していない。

なお、フランシスコ法王は2014年6月8日、ユダヤ教代表のイスラエルのシモン・ペレス大統領(昨年9月28日死去)、そしてイスラム教代表のアッバス議長を招き、バチカン内の庭園で中東和平実現のための祈祷会を開催している。「信仰の祖」アブラハムから派生したユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3宗派代表が和平の為に共に祈祷を捧げた、ということで大きく報道されたことはまだ記憶に新しい。

フランシスコ法王は祈祷会の最後に、「憎悪と暴力の悪循環を突破するためには“兄弟”という言葉がある。顔を天に向け、われわれの共通の父親を見つけることができれば、われわれは兄弟だと分かるのではないか」と述べている。この法王の発言はイスラエルとパレスチナが今最も必要としている内容ではないだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。