EUの恫喝に臆せず決断を下した英国政府の勇気

2017年01月18日 06:00

昨日予期した通り、英国保守党のメイ首相が遂に英国政府がBrexitを本格的に始動することを宣言した。(以下、特に断らない限り基本的にこのBBCの記事を参照元及び英文箇所の引用元とする。)

此の期に及んでEUが譲歩するとも思えないが、EUが当初示した意志を曲げず、英国に対して一切譲歩しないというのであれば、EUの単一市場(European single market)から離脱し、「英国の国益に叶うような移民管理を実現する」(our immigration system serves the national interest)という方針であるという。

これに対して、英国の「自由民主党(Liberal Democrats)」(党名は同じ「自由民主党」でも、日本のそれとは異なり、名前に忠実にリベラル左派寄りの政党である)の現党首Tim Farron氏が以下のように政府を批判した。

“Hard Brexit was never on the ballot paper. Ripping us out of the single market was not something proposed to the British people. This is a theft of democracy.”

(邦訳)国民投票の際には、EUからの離脱(Brexit)が単一市場からの離脱(Hard Brexit)をも伴うなどとは通知されていなかった。英国民は単一市場から締め出されることに同意したわけではない。これは民主的合意の窃盗である。

いつもながら、リベラル派の批判というのは実に奇妙である。Farron氏は国民投票の結果そのものを覆そうと奔走し、リスボン条約50条を発動することに対し反対票を投じると宣言していたような人だが、そんな人が「theft of democracy」などとどの口で言えるのだろうか。最初から国民の意思などには関係なく自分たちの国際主義に基づく正義を国民に押し付けたいだけなのであれば、党名を「The Liberal Elitists」にでも変えた方が良い。

またメイ首相のスピーチにおける言葉遣いは意味深長である。メイ氏はEU27カ国に対し、

We will continue to be reliable partners, willing allies and close friends.

我々は信頼できるパートナー、自発的協力し合う者同士、また親友であり続けるでしょう。

と述べたが、この「close friends(親友)」という表現が実に興味深い。というのも、それ以前にメイ氏は『EUは英国のEU離脱に対して「懲罰的反応」をとるべきではない』と警告し(warned against a “punitive” reaction to Brexit)、そんなことをすれば欧州諸国は自ら自国に悲惨な損害をもたらすことになる上、かつそれは友としての行いとは言えない(it would bring “calamitous self-harm for the countries of Europe and it would not be the act of a friend”)と発言しているからだ。

つまりこれらを総合すると、英国はEU諸国が「友」として英国との事実上の自由貿易関係を継続することを期待はするものの、もしこのまま「懲罰的」態度をとり続けるのであれば、それはもう「友」としての行為とはいえないので、それ相応の対応を英国側も取るだろうという非常に緊張感を伴う最後通牒的な「警告」をしている、という解釈ができるということである。

「そんなの友達がすることじゃない」という批判は実に子供の喧嘩のようだと思われるかもしれないが、「政治的なるものの概念」が「友と敵の区別」を中心とするというカール・シュミットの指摘の意義を考える時、特に国際政治という文脈におけるこの一見何でもなさそうなレトリックは、実は英国側の強い不満と政治的決意をこれ以上ないほどはっきりと示しているとも読める。

だが、ガーディアン紙によればEU側はメイ首相のスピーチの「明快さ」を評価するものの、「メイ首相の選んだ道は英国を他の欧州諸国以上に傷つけることになるだろう(the course she had chosen would hurt Britain more than the remaining EU member states)」と相変わらず恫喝的な姿勢を崩していない。

従って今後は英国とEUが益々露骨に泥仕合を始めることになりそうではあるが、その間に英国及びEUはそれぞれ今後アメリカや日本、中国、ロシア等のEU域外の経済大国ないし政治的に重要な国家とどのような関係を結び、どのような戦略でお互いに対抗していくのかという点が注視されるべきだろう。英国の勇気ある決断は、欧州と共に沈みゆく一方であった英国を再生へと導く一歩となることができるだろうか。

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