人工知能が著作権に生み出す悪夢

ヒップホップでは、過去の楽曲から数秒を切り出し繰り返し、その上にラップを載せるサンプリングという技法が用いられる。「著作権侵害」と元の楽曲の作曲者から訴訟が提起されることが続き、元の作曲者が勝訴した事例も出た。何秒以上使ったら侵害という明確な基準があるわけではないが、ウィキペディアによれば、その後、メジャーレーベルから発表されるサンプリング作品のほとんどは正規にライセンスされたものとなったそうである。サンプリングされたらライセンス料(使用料)が得られる仕組みができたわけだ。

科学技術振興機構は、助成先の大阪大学が、ユーザの脳波反応に基づいてユーザ好みの曲を自動的に作曲する人工知能を開発したと報道発表した。音域はせいぜい2オクターブ、10秒の曲なら30個か50個くらい音符を並べるだけ、気持ちよく聞こえる音の並べ方や組み合わせも協和音として知られているから、人工知能がトライするにはよい対象だった。1000文字のショートショートを好みに合わせて自動生成よりずっと簡単である。

さて、ここからが悪夢。

1000人を対象にそれぞれが好む曲を10秒ずつ自動生成する。それを、つなぎ目でずれても気にしないで、単純につないで500秒の曲を20曲作り出す。この20曲をネットで、たとえばmusieのような無料インディーズサイトに、適当な作曲者名を付けて公開する。後は、毎月の新譜をひたすらウォッチして、20曲と同じ音の組み合わせを見つけたら、その作曲者名ですかさず著作権侵害訴訟を起こす。勝訴したら使用料が入る。実験対象者1000人を1万人に、10万人に増やせれば、ますます勝訴の可能性は高まる。

2010年には、上海万博のテーマソングが岡本真夜の曲にそっくりと騒ぎが起きた。古くは、著名な作曲者同士が争った「記念樹事件」もあった。AIの発展で、今度は機械(実際には代理人である自称作曲者)と人の間で著作権侵害訴訟が起きるかもしれない。

この記事は悪夢が起きないようにするため。もし実際に利益を得ようとしたら、自称作曲者から莫大なアイデア料をいただくつもりだ(笑)。