1月ベージュブックは労働市場の逼迫を指摘、ドル高懸念は後退気味

2017年01月20日 06:00

yasuda170119

米連邦準備制度理事会(FRB)が18日に公表したベージュブック(2016年11月後半から2017年1月9日までカバー)によると、米経済は引き続き拡大(continued to expand)したが「緩慢(modest)」にとどまった。

(経済全般のセクション、訳)
ボストン地区連銀がまとめた今回のベージュブックでは、経済活動が「緩慢(modest)」に拡大し続けたと総括し、自動車を除く小売では「拡大(expanded)」を報告したものの、ホリデー商戦の結果が「失望的(disappointing)」でいくつかの地区連銀からはオンライン部門の成長がしわ寄せになったと報告した。
→前回の「緩慢(modest)あるいはゆるやか(moderate)」から下方修正した。米7~9月期国内総生産(GDP)確報値が2年ぶりの高成長を記録したものの、大豆の特殊要因が大きいほか、全米小売業協会(NRF)の結果では前年超えだったとはいえ百貨店などでホリデー商戦の減速を確認したため、表現を変更したと考えられる。

製造業活動は「ほとんどの地区連銀(most Districts)」で増収を報告し、複数の地区連銀は落ち込みが激しかった2016年の初めから「好転(turnaround)」したとの指摘も聞かれる。2地区連銀は石炭生産での「弱含み(weakness)」を伝えたものの、その他の地区連銀からは石炭、石油、ガスの部門で「改善(improvement)」が確認された。
→軒並み上振れした12月の連銀製造業景況指数と、整合的だ。

労働市場の成長ペースは全地区連銀において「まちまち(varying)」だったが、「大半(majority)」は労働市場が「逼迫している(tight)」と報告した。住宅建設並びに販売活動は全般的に「まちまち(mixed)」で、サンフランシスコ連銀は全地区連銀のうち強い成長を伝えた。金融市場は「安定的(stable)」。全米の企業並びに産業は、2017年の成長について「楽観的(optimistic)」で、前回の「概して前向き(positive)」かつ「6地区連銀がゆるやかな成長を予想した」から上方修正された。
→後述。

(雇用と賃金、訳)
労働市場をめぐって、総括の表現に加え「逼迫あるいは引き締まってきた(tight to tightening)」との見方を示した。雇用の増加ペースは「わずかから、ゆるやか(slight to moderate)」で、賃金は「控え目(modest)なペースで上昇」したという。2地区連銀でレイオフを報告したが、その他の地区連銀は雇用の純増を指摘した。特殊技能職の獲得は広範にわたって困難で、複数の地区連銀はさほど技能が必要でない職でも採用に問題が生じたと報告している。賃金は最低賃金の引き上げを背景に数地区連銀で「わずかながら(a bit)」上昇し、賃上げ圧力は「高まった(wage pressures had increased)」。多くの地区連銀は、賃上げ圧力の上昇と安定したペースでの採用増加を見込み、労働市場が2017年にかけ「引き締まり続ける(continue to tighten)」と予想した。
米12月雇用統計こそ前月より鈍化したものの、平均時給が加速したように労働市場での逼迫を反映した内容となっている。

賃上げペース、拡大を報告も生産・非管理職部門は管理職を含めた全体以下にとどまる。

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(作成:My Big Apple NY)

(物価のセクション、訳)
物価上昇圧力は「幾分増大した(intensified somewhat)」。12地区連銀中で8地区連銀が「控え目なペース(modest pace)」での上昇を報告し、その他は「わずかな(slightly)」で、アトランタ地区連銀だけは「横ばい(flat)」ペースだったと指摘する。仕入れ価格の上昇は販売価格より広範囲にわたり、石炭や天然ガス、一部の建築材など製造業関連の素材で値上げを確認した。
小売業者の販売価格は「まちまち(mixed)」で、全体的には「横ばい(flat)」、あるいはホリデー商戦の値引き合戦で「非常に低い水準へ下落した(very low level)」という。農業部門での価格は全般的に「横ばい(flat)、あるいは非常に低い水準(very low level)」だった。住宅価格は「安定的あるいは小幅に上昇(stable or up modestly)」した。複数の地区連銀で、複数の産業から仕入れ価格と販売価格において「小幅なペースでのさらなる値上げ(further modest increase)」を予想した。
ドル高局面を迎えるものの、少しばかりとはいえ物価上昇圧力を指摘した。米12月消費者物価指数がコアと全体ともに2%乗せを達成したように、原油価格上昇の影響が見て取れる。問題はサービス部門に波及するかどうかで、米12月CPIではまちまちだった。

(全体のキーワード評価)
今回、ボストン地区連銀は従来の表記から変更した。総括に労働市場と物価を並べるにとどめ、その他に各地区連銀の報告のサマリーを紹介する。総括を含めたキーワードの登場回数は、以下の通り。今回、米大統領選を消化したとはいえ、トランプ政権の経済政策への不安感から「不透明」との言葉は前回の3回の倍以上となった。なお前回までは個人消費、製造業、不動産、雇用、インフレなど分野ごとに分かれ地区連銀のサマリーではなかったため、今回との比較は連続性がない。

「増加した(increase)」→22回>前回は23回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→6回<前回は12回
「緩やか(moderate)」→9回<前回は10回
「緩慢、控え目など(modest)」→17回=前回は17回
「弱い(weak)」→4回=前回は4回「底堅い(solid)」→0回<前回は1回
「安定的(stable)」→4回>前回は1回
「不透明性(uncertain)」→7回>前回は3回

(ドル高をめぐる表記)
ドル高をめぐるネガティブな表記は、総括はなしで地区連銀2行が1回ずつ指摘し2回登場した。前回に続きダラス連銀にセントルイス連銀が加わったものの、前回のクリーブランド連銀とリッチモンド連銀は外れている。前回は総括で3回登場、2016年7~9月分公表のベージュブックがゼロだったことを踏まえると、ドル指数が2003年以来の水準へ上昇する過程でのドル高懸念をにじませていた。地区連銀は前述した3行で、5回言及していた。

・セントルイス、1回「製造業はドル高のほか、貿易摩擦や通商制限のほか経済減速に懸念を寄せた」
・ダラス、1回「見通しはポジティブだが、数社はドル高が輸出の向い風になると指摘した」

(中国)
中国というキーフレーズが登場した回数は4回連続でゼロとなった。2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時の11回から徐々に減少し、1年経過した2016年9月分で漸くゼロへ戻した格好だ。

――今回のベージュブックでは労働市場の逼迫との文言が数多く登場し、賃上げペースの高まりにも言及してきました。おかげで、FF先物市場でみた3月14~15日開催のFOMCでの利上げ織り込み度は34.6%と前日の29.6%から上昇しています。市場関係者の間では年内利上げに対し6月と12月の2回というのが有力ですが、ハト派で知られるブレイナードFRB理事ですら財政出動での景気加速リスクを言及している点は留意しておくべきでしょう。

(カバー写真:Ezio Armando/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年1月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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