陛下を政治利用する反天皇主義者の企みと危険

2017年01月20日 22:00


天皇陛下の退位などを検討する有識者会議は、来週、23日に論点整理を公表するらしい。各論併記だが、特別法の制定による一代限りの退位を推す方向になるという。

この問題に限らず、皇室問題に関しては、それぞれの立場の人が自分の意見に有利なように、不必要にタブーをつくってしまっている。その結果、国民は十分に判断材料を得られないまま週刊誌的な情緒的議論に流されるままになっている。

そこで、先日、池田信夫、新田哲史両氏と『言論アリーナ:「生前退位」と天皇のタブー』をみなさんに提供したが、一昨日発売の夕刊フジでも、記事を書いたので、それにさらに大幅に加筆して提供しておきたい。

21世紀になってスペイン、オランダ、ベルギー、さらにはバチカンでも高齢の国王や教皇が退位されたが、超長寿命化のなかで自然なことだ。摂政という制度もあるが、長期にわたって継続するのは望ましくないと思う。

女系女性天皇の問題の場合には、ヨーロッパの王室で、女性が国王になる可能性を広げる傾向があるといっても、日本の皇室の皇位継承原則の根本否定になるので、男系で誰もいないということでないとにわかに真似られない。

だが、生前の譲位は日本の皇室の伝統に反するというわけではなく、むしろ、上皇という制度をやめたのは、廃位させられたようなケースを除いて譲位はないヨーロッパの王室を参考にしてそうしただけのことであり、国際的な流れに合わしていいと思う。

その意味で、いわゆる生前退位制度をもうけることは、賛成である。ただ、それを一般化するとなれば、かなり慎重な検討をすべきだ。

そこで、本来は時間をかけて慎重に合意形成を図り、皇室典範を改正すべきで、現在の天皇のご希望だからといって急いで制度を変えるという性質のものではない。

天皇 皇太子

宮内庁サイトより(編集部)

それに、世界へのアピール、経済的配慮、そして、健康に不安がある雅子妃殿下への配慮など考えれば、2019年の秋か年末に交代し、即位礼は東京五輪が終わった翌年に華々しく行うというあたりを目標にすればよいと思う。それならば、もう少し慎重に合意形成をして皇室典範改正につなぐこともできる。

経済的配慮などおそれおおいという人もきっといるだろうが、明治時代に即位礼について議論したときでも、経済的配慮は非常に重視されており、むしろ、そういう配慮をすることこそが、仁徳天皇以来の皇室の伝統である。

公務の大幅な削減や、摂政制度も、長期にわたるのは問題が多いが、皇室典範の本格改正ができるまで暫定的にという知恵もありうるのである。

私は、お言葉の発表された夜にBS放送のテレビ番組で解説をしたが、陛下の言葉が素晴らしく感動的だったが、立派すぎて国民がご希望通りにしなくてはというムードになってしまったら、陛下が渾身の力で守ろうとされている象徴天皇制の趣旨に反するので心配だといった。しかし、どうも、その危惧があたってしまっているようだ。

とくに、日ごろ皇室を軽視する、さらにいえば、天皇制の廃止をもくろんでいるような人たちが「陛下のご希望通りになぜ政府はしない」というのは下心を感じる。

そもそも、新憲法になる前の、明治憲法でも、それ以前でも日本の天皇は、西洋や中国にありがちな独裁者ではない。天皇が早めの退位を望まれても、臣下が、お止めしたなどということはいくらでもある。

また、昭和天皇は昭和21年の「人間宣言」の別名がある新年勅語について、それは、天皇が現人神でもはやないとしたのでなく、五箇条のご誓文に現れたような万機公論に決すべしと言うのが日本の皇室の伝統だと仰っている。

陛下の希望通りにという人たちの一部は、陛下は憲法改正を望まれていないとか、この政策に反対されているはずとか、訪韓して謝罪されたがっているとか、皇位継承についても陛下のご希望をお聞きしてその通りにしろとかエスカレートしている。

また、女系天皇論者の主張では、実質的に、将来の皇位継承を男系女系を問わず今上陛下の子孫に限ることになってしまうが、そんなことは、長い皇室の歴史でもなかったことで、少なくとも今上陛下の御在世中にそんなことを決めたら、将来、歴史のなかで好意的に評価されることはありえない。

かりに誰かの子孫以外に限るとすれば、せいぜい、日本の皇室にとって中興の祖というべき明治天皇くらいしかあるまい。

まして、天皇と内閣を対立的にみて、陛下を自分の陣営に引き込んで政治を動かすような試みは憲政の危機だ。

タイでも新国王が憲法改正に異議を唱えて緊迫している。君主が自分の希望を実現して欲しいと強くいったり、君主がそういうつもりでなく、あくまで自分の希望はこうだが、あとは、みんなで相談してよきにはからえと仰っているのに、陛下の希望がこうだからこうするなどといったら、君主はその決断に政治的責任をもたねばならなくなる。これは、君主制にとって極めて大きいリスクをもたらす。

君主のご学友なというのが、不規則なかたちで陛下の意向はああだこうだと勝手にいうのも危ない。君主の意向は首相や正規の顧問会議(日本で言えば皇室会議)のメンバーなどとの頻繁で充実した対話のなかで反映されるのが本筋というのが一般論だ。

陛下のご希望を象徴天皇制の本旨にしたがって受け止め、国会と政府が様々な配慮を総合的に判断して慎重に決めるという線は建前の上でも実質的にも崩さないようにしないと悔いを残すと思う。

つまり、陛下の希望をふまえて自由に多方面から議論して、なるほど、陛下の仰るとおりだと政府も国会も判断し国民もそれを支持すればそれはそれでよし、逆に、やっぱり不都合が多いとなれば、おそれながら、従前、どおりの原則でお願いしますということにするのが象徴天皇制の本旨であろうし、陛下のお言葉もそういう趣旨で書かれている。

それなら、現在、有識者会議で検討されている制度をどう思うかといえば、国民が陛下の早期退位を実現させてあげたらという人間的な側面での希望のなかで、一代限りの特別法での処置も次善の策としてはありかとは思う。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学大学院教授

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