トランプ氏とオバマ氏の就任演説比較から見えるもの

2017年01月22日 06:30

さて別稿で述べた通り、一見平和的な理想を求める純真なイデオロギーに基づく立派な主張を掲げているかのように見えた反トランプデモ参加者の一部がその美しいイデオロギーの中に隠蔽されていた暴力性を臆面もなく曝け出している中で、トランプ氏は無事に大統領に就任し恒例の就任演説を行った。これをオバマ氏の2009年のものと比較すると、両者がまさに真逆の方向を向いていることが実に明瞭に際立っていている。

就任演説の冒頭部が示すオバマ氏のエリート主義性とトランプ氏の大衆性

まず、オバマ氏の演説では冒頭でこんなことを言っている。

We the People have remained faithful to the ideals of our forbearers, and true to our founding documents.

我々アメリカ国民は先人たちの理想に忠実で、合衆国建国の基礎となる公文章に誠実でありつづけた。

対してトランプ氏はこうだ。

[T]oday we are not merely transferring power from one administration to another, or from one party to another – but we are transferring power from Washington, D.C. and giving it back to you, the people.

今日、我々は単に権力をある政権から別の政権へと、あるいはある政党から別の政党へと移すだけではありません。我々はワシントンD.C.からあなた方へ、国民へと権力を移譲するのです。

国民に「理想」への忠誠を求めるオバマ氏と、国民への権力移譲を宣言するトランプ氏の対照性はこれだけでも十分に明らかだ。

イスラーム圏に対する姿勢は

また、最近注目を集めている回教圏に対する姿勢を見てみよう。まずオバマ氏の演説ではこうだ。

To the Muslim world, we seek a new way forward, based on mutual interest and mutual respect. To those leaders around the globe who seek to sow conflict, or blame their society’s ills on the West — know that your people will judge you on what you can build, not what you destroy. To those who cling to power through corruption and deceit and the silencing of dissent, know that you are on the wrong side of history; but that we will extend a hand if you are willing to unclench your fist.

回教世界に対しては、我々は相互の利益と敬意に基づき新しい前進への道を探るだろう。紛争を引き起こし彼らの社会の病の原因を西洋の帰する世界の指導者たちよ、あなた方の国民はあなた方が何を建設し、何を破壊するかによってあなた方に対する判断をするであろうことを知り給え。汚職と策謀、また異論を封殺することによって権力にしがみつこうとする者たちよ、あなた方が歴史上の誤った側にいることを知りたまえ。ただし、もしあなた方がその(固く握られた)拳を開く意思があるのなら、我々は手を差し伸ばすであろう。

対してトランプ氏はこうである。

We will reinforce old alliances and form new ones – and unite the civilised world against radical Islamic terrorism, which we will eradicate completely from the face of the Earth.

我々は古き同盟国との関係を強化し、また新たな同盟関係をつくっていくだろう。そして文明世界を団結させ回教過激派テロリズムに対抗し、これをこの地表から完全に根絶するであろう。

回教圏の政治指導者達がこのどちらを歓迎するだろうか。一見オバマ氏の方が丁寧でかつ知的に洗練されたことを言っているので勿論イスラームの指導者たちもこれを歓迎するだろうと思えるかもしれないが、彼らはまるで「歴史の審判者」であるかのように振る舞う「上から目線」のオバマ氏に嫌悪感を感じたかもしれない。また中東の事情を知らずに勝手な正義感を押し付けられても迷惑なだけだと冷笑したかもしれない。だが、そんなイスラーム諸国の指導者達にとっても過激派は自己の権力基盤を揺るがす敵であり、実際に根絶したいと思っているかもしれない。その場合、攻撃対象を「腐敗した権力者」ではなく「過激派テロリスト」に変更したトランプ氏の方が、中東の指導者には歓迎されるということも十分に有りうるだろう。

各国が自国の国益を第一とする時代が来るか

トランプ氏はまたこうも言っている。

We will seek friendship and goodwill with the nations of the world — but we do so with the understanding that it is the right of all nations to put their own interests first.
We do not seek to impose our way of life on anyone, but rather to let it shine as an example for everyone to follow.
我々は世界の国々との友好と親善を求めるだろう。だが、その際に我々は各国が自国の利益を第一とする権利を有するということを理解していることを示すだろう。我々は我々の生き方を他の誰にも押し付けようとはせず、むしろ我々の生き方が他の人々が後に続きたくなるような実例として輝かせるだろう。

上述の回教圏に対するメッセージと合わせて考えれば、トランプ氏は徹底的に不干渉主義を取ることを宣言していることがわかる。では、オバマ氏はどうだったのか。

To the people of poor nations, we pledge to work alongside you to make your farms flourish and let clean waters flow; to nourish starved bodies and feed hungry minds. And to those nations like ours that enjoy relative plenty, we say we can no longer afford indifference to suffering outside our borders; nor can we consume the world’s resources without regard to effect. For the world has changed, and we must change with it.
貧困国の人々よ、我々はあなた方の農園が豊かになり、綺麗な水が流れ、飢えた肉体を栄養を行き渡らせ、乾いた心を満たせるように、あなた方と共に働くことを誓おう。そして我がアメリカと同様に他よりも豊かさの恩恵を受けている国々よ、我々はこれ以上我々の国境の外に広がる苦痛に無関心でいることはできず、世界の資源をその影響を無視して消費することもできないと言おう。世界は変わったのであり、また我々も世界とともに変わらねばならない。

ここでもオバマ氏は世界の指導者に対して「指導」をしている。自国の国益を優先するような利己主義を戒め世界規模での環境問題や貧困、資源の枯渇といった問題を解決する為に各国が自制せねばならない、と豊かでありながら貧困国への配慮が十分でない国々に対し要請しているのだ。トランプ氏とは真逆の方向を向いているということがここからもわかる。日本は富裕国のひとつであるとすれば、国益第一主義を許すトランプ氏の方が日本にとっては都合が良いかもしれない。

日本のビジネスマンが憂慮すべき発言も

だが、日本の財界関係者やビジネス関係者にとって最も気になるのはトランプ氏の以下の発言だ。

We will follow two simple rules: Buy American and hire American.

我々は二つの単純なルールに従うのみだ:アメリカ製品を買い、アメリカ人を雇うべし

完全な保護政策宣言である。トヨタやその他アメリカ市場で大規模展開をしている企業は、今後のアメリカの動きには警戒した方が良いかもしれない。

他にも興味深い点はいくつかあるが、字数の関係上ここで一度擱筆とさせていただくことにする。

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