社会党候補はアモン氏?理想と国益の狭間で揺れる仏

2017年01月23日 11:30

トランプ大統領指導下のアメリカの動きに注目が集まっている(というよりは就任式観客動員数をめぐる、もはや「政治的正しさ」云々という次元ですらない些細な問題にもこれまで通りの調子の言動を続けるトランプ氏に対し、批判というよりは不安の声が上がっている)中、2017年4月に行われるフランスの大統領選に対する関心は恐らく日本ではそこまで高くないかもしれない。

否、一部フランスの動きに関心を持っておられる方がおられたとしても、次回の大統領選は最初から共和党(Les Républicains; LR)候補と国民戦線(Le Front National; FN)の一騎打ちになるだろうと予想されており、その共和党の候補を決める予備選挙は既に行われ、フランソワ・フィヨン(François Fillon)氏に決まっており、それ以来ここ最近までは着実に支持を伸ばしてきていた。この状況の中で、もはや大統領に選ばれそうもない現与党社会党(Parti Socialiste; PS)の予備選挙にまで関心を払う方というのは非常に珍しいかもしれない。そもそも、当事者であるフランス人の間でさえ共和党予備選挙の時と比べれば注目度が著しく低いのだ。

とはいえ、社会党は腐っても現与党である。従って現与党の次代候補が誰になるのか、また社会党候補が誰になるかによって大統領選本選にどのような影響が出るのかという点くらいは一応日本の一般読書人の方にとってもニュース性のある情報であろうと思うので、一応最近の社会党内の新たな動きを簡単に振り返っておきたい。

世間の関心がトランプ氏就任式に集まる中で行われた社会党予備選挙の結果は?

フランス時間の1月22日、すなわち日本時間の1月22日から23日にかけて、フランス社会党(以下PS)の予備選挙(primaire)が行われた。Le Monde紙の報道によると、開票率80%の時点で、トップの得票率を得ているのがBenoît Hamon(ブノワ・アモン)という、今までほとんど勝利を予想されることもなくメディアや大統領選の候補者予想でもさほど言及されることの無かった新顔候補で、36.30%を得票している。最有力候補とされていたのはオランド政権下で首相を務めたManuel Valls氏であるが、彼は昨年のブルキニ騒動の際に

Marianne elle a le sein nu parce qu’elle nourrit le peuple, elle n’est pas voilée parce qu’elle est libre ! C’est ça la République !

マリアンヌ(フランスを象徴する旗などによく描かれている女性)は胸部を隠していない。彼女はその乳房でフランス国民を養うからだ。また彼女はヴェールを被ってもいない。それは彼女が自由(の象徴)だからだ!それこそが(フランス)共和国だ!

という政治的正しさを売りにする社会党の首相としてはあるまじき発言をしたことで一般国民(無党派層)や右派層に若干好意的に受け入れられる一方で、社会党員や社会党支持層(政治的に正しいエリートや所謂 “Bobo”ないしBourgeois-bohèmeと呼ばれる中産階級以上の「エリートだけど敢えてエリートっぽくなく振る舞う」ことを是とする若者層)などからは冷たく批判され、党内や社会党支持層内での支持率が低下傾向にあったせいか、予備選挙での得票率は31.12%にとどまった。とはいえ次点候補ではあるので、Hamon氏との最終決戦で勝つことができればまだ社会党候補となる可能性はある。

ところが、第三位の得票率となる17.55%を獲得したArnaud Montebourg(アルノー・モントブール)氏が、自身の支持者に対してHamon氏支持を呼びかけているので、Valls氏にとっては非常に厳しい戦いになりそうだ。共和党の予備選挙と比べれば、Valls氏はちょうどJuppé氏と同じような立ち位置におり、Arnaud氏がサルコジ氏の位置、Hamon氏がフィヨン氏の位置にいる、といったところである。このままいけば、Hamon氏が社会党候補となるのはほぼ確実だろう。

Benoît Hamon(ブノワ・アモン)氏とは何者か?

さてそのHamon氏であるが、一体この人は何者なのだろうか。日本では恐らくアモン氏について詳しく報道しているメディアは今の所ほとんどないと思うので簡単に紹介すると、彼はオランド政権において教育大臣を2014年4月から8月までの3ヶ月間務めた人物である。なぜたった3ヶ月しか務めていないのかというと、オランド氏が初期の社会党の公約と真逆の方向の経済政策、つまり労働法改正、累進課税率を上限75%まで引き上げるというオランド政権が導入した政策の撤廃、税法人税等引き下げの代わりに付加価値税(仏:TVA、英:VAT)の増税などの、経済的自由主義(つまり社会党左派から見れば「右寄り」)の方向へ舵を切りつつあることに失望して自ら辞任したのだ

実際オランド政権は2014年12月には悪名高い「75%税」を廃止すると宣言し、翌年一月から廃止されているし、その後もオランド政権の経済政策における「右傾化」は止まらず、社会党支持層はオランド氏に対する失望感を強めていく一方であり、社会党への信頼も損なわれていったのだが、オランド政権の経済政策面での「右傾化」を支持したValls氏やMacron氏に対し、一貫して「左傾政策」を主張しつづけるHamon氏は社会党内での人気は高かった。とはいえ国民の間ではそんな社会党左派全体が「非現実的」だと見られており、今回の予備選挙一次選におけるHamon氏の勝利は社会党候補が大統領選の第二次選挙まで進む可能性を限りなくゼロに近づけたと言えるだろう。

Sciences-Poの最新支持率調査アンケート(sondage)では?

というのも、その証左となるアンケート結果が実際に存在する。2017年の1月10日から15日の間に行われたSciences-PoのCEVIPOFによるアンケート調査は恐らく最も新しい調査結果のひとつだが、ここでは五つの仮設パターンを想定して調査が行われている。この次点では共和党候補がフィヨン氏で確定していたので、残りの重視すべき不確定要素は社会党候補が誰になるか、また中道派のFrançois Bayrou氏が出馬するのか否か、という点であった。従って(1)Valls avec [avec は英語のwith, 「共に」の意] François Bayrou (FB)  (2) Valls sans [sansは英語のwithout、「なしで」の意] FB (3) Arnaud Montebourg (AM) avec FB (4) AM sans FB (5) Benoît Hamon sans FB の五つのパターンを想定してアンケート調査が行われたのだが、想定パターンに Hamon avec FBの組み合わせが無いことからも、Hamon氏の勝利はほぼ無いものと思われていたことがわかる。

ともあれ、Hamon氏が社会党候補として立候補し、Bayrou氏が出馬しない場合のアンケート結果はあるのでこれを見てみよう。

Hypothèse 5

(SciencesPo CEVIPOF L’ENQUÊTE ÉLECTORALE FRANÇAISE : COMPRENDRE 2017, Vague 10より引用

これを見れば一目瞭然だが、Hamon氏は社会党よりも更に左派色の強い(極左とも言われている)Jean-Luc Mélenchon氏にさえ及ばず、Macron氏の三分の一の得票率にとどまるだろうと予想されている。Bayrou氏が出馬すれば中道派層がさらに割れてしまうので、Hamon氏は四月の大統領選ではFNのMarine Le Pen氏以下の泡沫候補という扱いになるだろう。それよりもここで面白いのは、ここまで支持率を伸ばし一時はMarine Le Pen氏をも上回る支持率を得ていたFillon氏がここに来て伸び悩み、再びLe Pen氏に抜かれているということだ。

この様子だと、フィヨン氏とルペン氏の両方を「右寄り過ぎる」と考える「反右派」が結束してマクロン氏を支持することでもしなければフィヨン氏とルペン氏の決戦になるのは間違いない。とはいえ、マクロン氏は最近支持率を伸ばしつつあるので、共和党及び社会党の予備選挙のように、まさかの第三候補の当選という事態も考えられなくはない。実際英国のIndependent紙などはそう予想(というより期待?)しているようだ。だが、ルペン氏が最初から一番人気であり、途中で多少沈みつつも終盤で再び人気を盛り返しているのを見ると、まだルペン氏が大逆転する可能性も捨てきれない。

マクロン氏は社会面では「政治的に正しい」方向を向いており、経済的には「富裕層に優しい」方向を向いているので、ルペン氏とは完全に真逆ということになる。フィヨン氏はある程度政治的正しさに対して挑戦的姿勢ではあるが、経済政策は完全に富裕層及び企業優遇政策を主張しているので、経済的な左派政策を期待できるのは有力候補の中ではルペン氏しかいないということになる。この事実が今後大統領選をどのように左右するのかはわからない。

だが、オランド政権の「経済政策」を批判してきた社会党支持層が、それでも「政治的正しさ」の為にマクロン氏を選ぶのか、背に腹はかえられぬということでルペン氏側に転向するのかという視点で見るならば、4月に始まるフランス大統領選挙は、現在のフランス国民の政治意識がいまだに理想主義的イデオロギー(現代の文脈では「政治的正しさ」)によって動かされているのか、それともフランスの「左派性」というのも結局経済的分野に限られ、「倫理的に美しい理想を民衆の中に根付かせる」という古き知識人の夢はその理想の原点となったフランスにおいても畢竟夢に過ぎなかったのか、あるいはフランスはもはやあらゆる意味で「左傾国家」ではないのか、という点を明らかにすることになるだろう。

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