「台湾の側」に立つべき2つの理由

梶井 彩子

■「一つの中国」を見直すのか

トランプ大統領は果たして本当に「一つの中国」の原則を見直すのか。政権人事を見れば、対中強硬派が脇を固めている。本気かもしれないし、中国との外交に備えて、「台湾に寄ったふり」をして取引を揺さぶるのかもしれない。

台湾は慎重姿勢を崩さない構えだが、アメリカが台湾を単なる当て馬のように扱わないことを願う。何より、日米は「台湾の側」に立つべきだと強く主張したい。

なぜか。一つは、台湾が自由・民主・人権を重んじる政治体制を確立しつつあることだ。ここ数年の流れ、つまり、ひまわり革命や民進党の蔡英文氏の総統選勝利を見れば、台湾の大勢が「自由主義陣営」に加わる姿勢を明確にしたと言えるだろう(いずれも中国は台湾の背後に欧米の影を見ているかもしれないが)。

台湾が選択したのは国際社会が決して手放すべきでない価値であり、中国が現在の政治体制下では絶対に認めない価値観でもある。

中国は何かと言えば中国国内の人権問題で自国を批判する国際社会の風潮に嫌気がさしている。もっと言えば、これまでの欧米による国際支配に不満を持っている。

そのため、ワシントン・コンセンサスと呼ばれる(一見)自由で民主的でグローバルな経済体制のスキを付き、中国は積極的に国家が経済に介入する北京・コンセンサスと呼ばれるモデルを打ち出している。

両コンセンサスは、もとは経済システムの違いを示す用語だが、広い意味でのグローバル化に対する姿勢や国家の重んじる価値そのものに直結していると考えられるのではないだろうか。

中国は北京・コンセンサスを掲げ、アフリカや中東における独裁的、非民主的国家などに支援を行い、味方(=国連での「一票」)を増やしているのである。

先進国がこのような中国を経済的、あるいは軍事的理由を以て「下にも置かぬ扱い」をし、普遍的価値を重んじる台湾を切り捨てるようなことがあればどうなるか。

中興国、後進国はそんな先進国の姿を見て「価値だなんだと言っても、先進国は結局、自国の実利を取るのか」と思うだろう。民主化、透明化を進めたところでいいことは何もない、ならばこちらもフェアさよりも実利を取ったほうがいい、と思わせるに十分だ。これこそが北京・コンセンサス浸透の狙いでもある。

確かに市場主義経済の行き過ぎでリーマンショックを引き起こし、格差の拡大が問題となっている現在、ワシントン・コンセンサス自体に限りが見えている(建前に過ぎないことがバレている)ことは確かだ。実際、リーマンショック後に中国は「覇権を我が手に」とより積極的に動き始めた。また、アメリカの一方的な民主化の圧力やその手口に批判すべきところは多い(民主化するにしても「ほどほど」感やローカライズが必要)ことも確かだ。

だからと言って自由や透明性を否定する北京・コンセンサスが主流になれば、それもまた不幸な人民を生むことになろう。現在の中国人民を見れば明らかだ。

実利に目がくらんで、我が身かわいさに台湾よりも中国を選択することは、普遍的価値を重んじる国家においては、自殺的行為と言っていいだろう。今回のダボス会議に習近平主席が招かれ、保護貿易を主張するトランプ大統領に対抗し、グローバル化絶対支持を唱えて喝采されているそうだが、喝采する前に「市場の透明性や人権意識のグローバル化」を迫るダボスマンはいなかったのか

 

■深い日台の絆

もう一つはほかならぬ日本にとって重要な点だが、台湾が大勢として戦前日本を「絶対悪」とみなしていないことだ。

中韓は実質、「歴史戦連合軍」となって過去の日本の悪事を今なお騒ぎ立てている。戦前日本は悪一色に染まっていなければならず、それ以外の解釈を許さない(朝日新聞がそれに加担している)。

だが台湾はそれに与しない。被統治国という立場は朝鮮半島と同じだが、台湾は「日本統治時代には確かに影もあったが、光もあった」とし、過去を消化(昇華)している。日台に国交はないながらも国民同士の心の紐帯は中韓とは比べ物にならないほど強まっている。

しかもその結びつきの強さは、日本のアニメなどのサブカル文化が台湾に浸透したというだけの話ではない。その土台は統治時代に形成されているのだ。

先日刊行された門田隆将著『汝、ふたつの故国に殉ず―台湾で「英雄」となったある日本人の物語―』(KADOKAWA)では、日台の血を引く湯徳章(日本名・坂井徳章)が台湾に「人権」を根付かせるために弁護士となるも、戦後大陸からやってきた国民党の手によって殺害されるというその生涯を軸に、日台関係の歴史を描いている。

日本では知られざる歴史だが、徳章氏の地元である台南市ではこの事実が語り継がれ、二〇一四年には徳章氏の命日が台南市の「正義と勇気の紀念日」に制定されたという。

徳章氏は日台ハーフだが、台湾では他にも台湾の発展のために生涯をかけた日本人が何人も知られている。これは日台の間に先人が残してくれた大きな財産だ。

さらに言えば、日本の後にやってきた国民党(つまり大陸の中国人(台湾で言うところの外省人))の支配の方がずっとひどかったことも、中国からすれば「不都合な真実」となる。

台湾は、日本を悪玉にしておきたい中韓からすれば実に邪魔な存在だろう。

 

■台湾は要石

もちろん、台湾が中国との関係においてこれまで保ってきたバランスを、日米が自らの国益にのみこだわって「外圧」によって壊してしまうのは得策ではない。矛盾が噴出し、激しい衝突を生む可能性もあるからだ。「中国が攻めてくるかもしれない」という懸念が台湾の人々の自立心を抑制してきたことも確かだ。

だが台湾は今、確実に「一つの中国、一つの台湾」への道を歩んでいる。

日本もアメリカも、台湾を一度裏切っている。いや、外交的には裏切り続けている、と言っていいかもしれない。誰かに押し付けられたのではない、自主的な民主化と「(中華民国ではなく)台湾」としての自立を求める台湾の人々に対する二度目の裏切りは許されない。

「戦争するくらいなら中国の属国でいい」という人間からすれば、「抵抗なんかしないで中国の一部になったほうが楽なのに」と言ったところだろう。台湾重視の意見も、「単なる反中」とみなすかもしれない。だがそれは大きな間違いだ。

台湾の行く先は、国際社会の流れがこれまでの自由・民主・人権を重んじる路線のまま進むか、北京・コンセンサス的な流れになるのか、その分岐点でもある。まさに台湾はキーストーン(要石)である。