メイ首相が米国訪問へ 今こそ戦後レジームの脱却を

2017年01月27日 06:00

英国のメイ首相が英国時間の1月27日中にホワイトハウスを訪ね、トランプ大統領と面会するという。Daily Mailによれば、これによってメイ首相は世界の首脳達の中で「大統領」としてのトランプ氏を訪問する最初の人物になるという。

英国の「ポピュリスト」ボリス・ジョンソン氏はトランプ氏の拷問容認発言を批判

全く現英国政府の動きの迅速さには恐れ入る(「春先」に訪問が予定されていること自体は既に一月の最初の週の段階で確定していたが、当初の予定よりも時期を早め、先週末にはメイ氏が世界最初のトランプ大統領訪問者となることが確定している)が、昨年の6月の国民投票の際には「英国のトランプ」あるいは「英国の恥」としてリベラルメディアから批判され、現在は「外務大臣(Foreign Secretary)」を務める「英国流ポピュリスト」として名高い例のボリス・ジョンソン氏は逆にトランプ氏の「拷問容認」発言を批判していることで話題を集めている。

「ポピュリスト」という言葉を「大衆受けする発言を常時行う人」という意味で使うことが許されるならば、ポピュリストの発言内容は多くの(特別な教育を受けたエリートではない)国民が自然に賛同できるような意見を反映するものとなる。その意味で、ポピュリストの発言比較はその国民の気質を直接反映する点が興味深い。

トランプ氏の場合はどこまでも「アメリカ人」向けなので、彼の全ての発言や、発言したことを本当に実行に移そうとするところまで徹底的に「アメリカ」的である。

フランスのマリーン・ルペン氏などは、まず「極右」政党を率いているのに女性であることからして実にフランス的(女性の政治参加への意欲が高い)であるし、その発言内容や政策案も他国の極右政党と比べればかなり論理的に練られており、政策単位での批判を簡単にはさせないようなものとなっている。だからこそ左派は人格攻撃や国民戦線という法人格への人格攻撃(ad hominem)に終始するのだが、逆に言えばフランスでは極右政党でさえもいい加減なことを言っているようでは支持されないという現状があるのだ。

これに対して英国において支持者からは親しみを、また批判者からは自嘲的皮肉を込めて “our Boris”と呼ばれるジョンソン氏はやはりどこまでも「英国人」であり、水責め拷問などといった野蛮な手段を正当化することは容認しないのだ。どう考えても合理性の範疇を超えた「(少数派優遇的)政治的正しさ」には反対しても、明らかに人道に反した下劣な行いにはどうしても賛成できない、否少なくともそんなことに賛成するような野蛮人であると思われたくはないし、またそんな野蛮人と友好関係にあるとも思われたくないのが「世間体」を重んずる英国人気質である。

世論の批判的論調を一向に意に介せずワシントン訪問を優先するメイ首相の狙い

こうした国内世論のトランプ発言(拷問再導入提案)に対する幻滅ムードの中、メイ首相は平然とトランプ氏を祝福しワシントンへと向かうのだ。実に肝の座った指導者と言えるだろう。ここまで出来る人なのであればBrexitに関しても今後も一切譲歩はしないであろう。

各国が何となく尻込みしたり綺麗事を並べて言い訳しつつトランプ政権を敬遠しつつある中で、しかもトランプ氏がこれまで以上に過激でかつリベラリズムの「正義」原則に対し正面から挑戦状を突きつけるかのような発言をしたという最悪のタイミングでの今回の早急なトランプ大統領訪問は、メイ首相の個人的豪胆さを示すとともにBrexitを円滑に進める為の経済的保障をいち早く確保したいという狙いがあるに相違ない。実際BBCでも「英国にとって、(米国との)貿易は今回の訪問の最重要事項だ(For the UK, trade is the centrepiece of the visit)」と述べられている。

つまり、英米の両首脳は既に今後の新秩序再構築に向けて動き出しており、それは文字通り今日から始まるのである。この動きに出遅れることは輸出大国である日本にとって大きな損失になり得る。少なくとも、これまでの経済貿易秩序の枠組みが近い将来大きく変えられてしまうことは確かだ。

英国最高裁がEU離脱宣告の発動権は議会にあると判断したところで、この後に及んでEU側から何の譲歩もしないうちにBrexitが中断することはない。EUやヨーロッパのエリートの頭の硬さを考慮すれば、英国がEUから離脱するのはもはや時間の問題に過ぎず、かつその際にアメリカが大きな役割を果たすのは目に見えている。

日本政府は「戦後レジーム」を脱却するこの千載一遇のチャンスを生かすべき

現在の英国にとって経済的に最も重要なのはEU諸国を除けばアメリカとスイスに次いで中国である(詳細は以下参照)のだが、その中国に対してトランプ政権は相当強硬姿勢で臨むつもりであることは、今月11日に出された次期国務長官に就任するRex Tillerson氏のOpening Statementを見れば明らかだ。中国に関する最も重要な部分を引用しよう。

We should also acknowledge the realities about China. China’s island-building in the South China Sea is an illegal taking of disputed areas without regard for international norms. China’s economic and trade practices have not always followed its commitments to global agreements. It steals our intellectual property, and is aggressive and expansionist in the digital realm. It has not been a reliable partner in using its full influence to curb North Korea. China has proven a willingness to act with abandon in pursuit of its own goals, which at times has put it in conflict with America’s interests. We have to deal with what we see, not with what we hope. (強調は私の編集)

字数が嵩張ってしまって読みにくくなるので全文を一々翻訳しないが、要するに『中国は我々の知財や南海諸島を窃盗する泥棒であり、信用できるパートナーではないと自ら証明した。北朝鮮に対しても一向に強硬姿勢をとらない以上、我々は中国を「北朝鮮」側の立場にあると看做し対処していく』という宣言である。

Tillerson氏の発言にはISISに対する厳しい糾弾も含まれているが、正統国家のレベルで最も批判されているは明らかに中国である。日本がこの機会に乗じない手はないであろう。今、英米がこれまで自国の経済的利益(とイデオロギー的正義)の為に見逃してきた中国とEUの共犯関係を両方とも綺麗さっぱり清算しようとしているのである。

トランプ氏に多少理不尽な条件を突きつけられても、英米のつくる新秩序に参加する方がヨーロッパ大陸に同調して反英米路線を行くよりも後々利益が多いことは第二次世界線で痛いほど学んだはずだ。今こそが国際関係レベルの「戦後レジーム」を脱却するチャンスである。無論私がそんなことを言うまでもなく、NHKによれば安倍政権側はトランプ大統領訪問をずっと希望してきていたようだが、渡瀬氏が述べているように政府はもし未だにトランプ政権側との交渉窓口をつくれていないのであれば早急にこれをつくり、一刻も早く英米との新経済秩序の構築を全力で進めるべきだ。

その意味で、本日(英国時間で26日、日本時間で27日)中に日英間でACSA(物品役務相互提供協定)を締結したのは画期的意義がある。この調子でトランプ政権とも関係を強めていくことができれば、日本の外交上の立場は多少向上するかもしれない。トランプ氏はかなり手強く一筋縄ではいかないようだが、少なくとも英国に接近できたというのは現状では大きな成果であるし、私は今の安倍政権の将来を見据えた外交努力に関しては評価したい。後は日米関係を少しずつでも向上していき、日英米の三国間で強力な関係性を築くまでに至ることができるかどうかが今後の鍵となるだろう。

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