トランプのアドバイザー、バイオ燃料規則の変更で大儲け

岩瀬 昇

日本ではなじみが薄いが、米国では環境対策およびエネルギー自給率向上を目的としてバイオ燃料の使用が義務付けられている。現実にバイオ燃料を購入し混合できない場合には、代替策として「クレジット」を購入しなければならない。その「クレジット」の取引市場があり、関係者は「クレジット」価格の変動に敏感になっている。

昨夜FTは、トランプ政権になってバイオ燃料規制が緩和され、バイオ燃料「クレジット」価格が下落し、この「クレジット」を買わなければいけない精製業者の株価が上昇している、億万長者投資家として知られるカール・アイカーンが所有する精製会社の株価も大幅上昇しており、アイカーンはトランプの「規制改革特別アドバイザー」に任命されているが、「利益相反」の問題はないのだろうか、と疑問を呈するニュースを報じている。”Trump advise Carl Icahn gains as markets see biofuel rule change” (Jan 26, 2017 around 20:00pm Tokyo time) と題され、サブタイトルは “Billionaire faces conflict of interest scrutiny over investment in oil refiner” となっている。

例によって筆者の興味関心にしたがい、記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・トランプが当選したことにより、規制改革特別アドバイザーに任命されたアイカーンが所有するエネルギー会社の価値は2倍になった。

・アイカーンが所有するCVRエネルギー社の株価は、毎年2億ドル以上コスト負担をしているバイオ燃料使用命令(mandate)を含む環境関連の連邦規則が、新政権になって緩和されるかもしれないという予測から急騰している。

・トレーダーたちは、トランプ政権がこの命令を緩和し、CVRのような精製業者が購入しなければならないエタノール・クレジット価格が下落することに賭けているのだ。今週トランプが新しい連邦規則を設けることを一切禁止したため、クレジット価格の下落は雪ダルマ状に膨らんだ。

・「精製業者として私が利益を得るだろうことは本当だ。だがそれはすべての精製業者やガソリンスタンドのオーナーたち、私に言わせれば一般大衆にとっても利益になることなのだ」とアイカーンはインタビューに答えた。

・個人的な投資活動を業務から完全に切り離すことが要求されている連邦政府の職員となるのではなく、アドバイザーとして働くことについて、アイカーンは調査されることになりそうだ。彼は、エネルギー、貨車、金融および他の規制ビジネスに広範に投資している。彼は、バイオ燃料の命令(mandate)を管理している環境保護局(EPA)の局長に任命されたスコット・プルューイトの手助けをした。

・「大きな利益相反がある」とアイオア州立大学のエネルギー・エコノミストであるブルース・バブコックは指摘する。

・オバマの法律倫理アドバイザーだったノーマン・アイセンは、アイカーンの職名(タイトル)、責任および人事に関与していることは「事実上の政府特別職員」であり、利益相反に関するルールにしばられる、という。

・Rins(Renewable Identification Numbers)として知られているエタノール・クレジットの価格は、トランプ政権から流れてくるニュースに敏感に反応している。プルューイトが選ばれたときに8%下落し、アイカーンが指名されたときにさらに6%下落した。水曜日には、12月以来ほぼ半値の46セントにまで値下がりした。

・アイカーンの弁護士ジェッセ・リンは、ビジネスマンが自分の得意な分野のアドバイスをすることが間違いのように言うのは「馬鹿げている」という。アイカーンは連符政府の職員となることはないし、政策立案を行う立場にはなることはなく「単にアドバイスをするだけ」とリンはいう。

・アイカーンが82%所有するCVRの市場価値は、選挙の後10億ドル増加し、21億ドルになった。

・下院は2007年、外国石油依存から脱却する努力の一環としてバイオ燃料命令に関する法令を可決した。今年はトウモロコシ・エタノールを150億ガロン使用する目標となっているが、現物を使えない精製業者あるいは輸入業者は、代替としてRinsを購入しなければならない。

・アイカーンは、Rins市場には詐欺が横行している、一貫操業石油会社や大手販売会社が負担すべきで、精製業者が負担すべきものではない、と当該命令に反対している。

・オバマ政権下、EPAは複雑化しているRins購入の義務を精製業者からは外すべきだという訴えを却下してきた。先週、テキサス州で大手独立系精製会社であるバロール・エネルギーが提訴しており、EPAはテストを受けることになる。

・先週、プルューイトは公聴会の場で、法を守り、実行し、ゆるがさないことを確約した。

・専門家の中には、トランプは当選に貢献したコーンベルトの農家を怒らせるようなことをしてでも命令(mandate)を骨抜きにすることはないのでは、と疑問視する人もいる。

・だがバークレー社は、新政権は必要とされるエタノールの量を減少させるだろう、その結果エタノールのRins価格はさらに下落するだろう、と調査報告の中で述べている。

この規制緩和で「得する人、損する人」は誰なのだろうか?
「雇用が増加」することはないだろうな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年1月27日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。