宅配ボックス設置補助から公金支出を考える

2017年01月29日 06:00

日本国の借金が膨大に膨れ上がって危機的状況にあると言われてから、既に何年も経ちます。
バランスシート上の資産がたくさんあるから大丈夫だという説も有力ですが、いずれにしても公金の無駄遣いには厳しく目を光らせるべきでしょう。

そこで、今回は毎日のようにニュースで取り上げられる「◯◯を建設」とか「☓☓に対して助成金」という公金支出が妥当かどうかを考えてみたいと思います。

国家観に関しては、国民の安全を守るだけに留めるべきだという「夜警国家観」から、積極的に国民の福祉に手を差し伸べるべきだという「福祉国家観」まで様々なバリエーションがあります。

現代では、国防、警察、裁判、外交という国家の基本要素の外、富の再配分が国家(公的機関)の役割であるという点にほぼ異論はありません。

ところで、国防や警察も含め、経済用語では「公共財」という概念が用いられています。

国防のように、非排他的で非競合的なものを「純粋公共財」といいます。
例えば、北朝鮮からミサイルが飛んできた時、対価を払う人だけが被害を免れ対価を払わない人は被害を受けるということはあり得ません。

「この迎撃ミサイルは俺が金を出したのだから、お前はその恩恵を受けるな」という排他的なことは不可能ですし、ミサイルを破壊するのに、ライバル関係にある民間企業数社が独自の迎撃行為を行う(競合する)のは不経済だし非現実的です。

これに対し、非排除性あるいは非競合性のいずれかを有する広義の公共財を準公共財といいます。公園やプールなどのように(準)公共財は民間による供給が可能ですが、民間が行うと供給が過少となってしまうので都立公園や区立プールができるのです。

大雑把に言ってしまえば、民間の市場原理に委ねておいただけでは不可能もしくは不十分な場合に限って、国民や住民の血税である公金を投入して公共財を提供すべきなのです。

例えば、公園やプールは住民に利益をもたらしますが、市場原理に委ねておくと本来必要とされる数や広さが供給されません。逆に、排ガスなどの公害は、市場雨原理に委ねておくとひどくなる一方で住民にひどい不利益をもたらします(大気汚染のひどい北京市を見ればご理解いただけますよね)。

以上を前提として、最近発表された政策を具体的に検討していきましょう。

宅配ボックスtakuhai_box_locker

※住民の利便性を高めるだけでない宅配ボックス(いらすとやより:編集部)

宅配ボックス設置に対して補助金を支給するという政策が発表されました。
このような公金の支出が妥当かどうかは、民間の市場原理に委ねておくと地域住民等が不利益を受けるか、それとも本来受けるべき利益を受けられないかという基準で考えてみましょう。

宅配ボックスの設置にはお金がかかります。
賃貸であれ分譲であれ、管理会社や管理組合はお金を出すインセンティブが生じません。なぜなら、宅配ボックスがなければ再配達してもらえるし、ドアの前まで持ってきてもらえるからです。何の不自由もないのにお金を出したくはありませんよね。

しかし、再配達が重なると、道路は渋滞して排ガスが増えます。配達車両が違法駐車をして交通の妨げになったり交通事故の原因にもなりかねません。このように、マンション住民は宅配ボックス設置で利益を受けませんが、周辺住民を始めとする社会全体は、再配達の増加によって様々な不利益を被る怖れがあります。

「再配達が不経済なら、宅配便業者の負担で宅配ボックスを設置すべきだ」というのももっともですが、宅配業者が個々のマンションの管理会社や管理組合と交渉するコストは計り知れないものがあります。おそらく、設置費用の何十倍ものコストがかかるのではないでしょうか?

宅配業者にそのような膨大なコストを負担させると、そのコストは宅配便の価格に転嫁されて(価格が二倍、三倍になる恐れもあります)消費者の利益を著しく害する結果となります。今日では、宅配便は公共社会インフラに近くなっているので、ほとんどの国民に影響が出るでしょう。

このように、民間の市場原理では解決できない不利益に対して公金を支出するのは極めて妥当だと考えます。
もっとも、マンション管理会社や管理組合が一分負担に応じるインセンティブがあるかというと疑問です。宅配業者が基金を作って補助金の残りを負担した方が効果的のように思えます。

逆に、支出すべきでない事例も最近報道されました。
成果型賃金体系にした企業に助成金を出すというものです。
どのような人事体系を設定すれば自社にとってメリットがあるかを判断するのは、企業経営者です。

企業によっては、年功賃金体系の方が上手く回るところもあるでしょう。こういうような民間の市場原理に委ねるべき分野に公金を支出するのは著しく不当だと判断できます。

以上のように、政府や自治体が何らかの施策を打ち出した時、納税者である私たちが留意すべきことは「その施策を民間の市場原理に委ねると不都合が生じるのか否か?」ということです。現時点で不都合があっても、市場原理によって改善されていくと予想されれば公金を投入すべきではありません。

公共財と同じく、公金は「公のお金」である血税なのですから。

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年1月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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