トランプ「国境税」は300~400ドル/年の一般家計負担増?

2017年02月03日 06:00

メキシコとの「壁」を建設する費用に充当するために課税する、とトランプさんが豪語している「国境調整税(Border Adjustment Tax、BAT)」だが、石油・ガスにはどのような影響をもたらすのだろうか。

トランプさんが「最悪の協定だ」と非難しているNAFTA(北米自由貿易協定)により、米加墨三カ国はあたかも一つの国のような経済圏を成立させている。その結果、国境を越えた石油・ガスの取引も関税なしで行われている。

「BP統計集2016年版」によると、カナダからは原油が350万BD、石油製品が60万BDほど、さらに天然ガス743億立米(LNG換算5,500万トン)が米国に輸出されている。反対にカナダは米国から、原油40万BD、石油製品50万BD、天然ガス198億立米(LNG換算1,500万トン)を輸入している。

メキシコは原油70万BD、石油製品6万BDほどを米国に輸出しており、米国からは石油製品70万BD、天然ガス298億立米(LNG換算2,200万トン)を輸入している。
ちなみに日本は原油350万BD、石油製品100万BD、LNG8,500万トンほどを輸入しており、いっぽう石油製品の輸出量は40万BDほどだから、米加墨三国間の取引規模が如何に大きいものかが分かるだろう。

直感的に、BATにより損をするのは米国国民だろうな、と思っていたが、FTがその詳しい内容を報じてくれているので紹介しておこう。

字数制限もあるため、筆者の興味関心に絞って要約するので、ご興味のある方はぜひ原文(”Why a US border adjustment tax would matter for the oil price” around 13:00 on Feb 1, 2017 Tokyo time)をお読みください。

・石油業界は、世界のエネルギーの流れを引っくりかえす可能性のある税制変更に神経をとがらせている。

・共和党が推進している「国境調整税(BAT)」は、輸入に課税し輸出は無税にするというものだが、トランプ政権の立場は混乱しており、(法案が)通る可能性はないとみる政府関係者もいるが、石油会社にとっては劇的な課税方法の変化だ。

・米国は世界の約20%の石油を消費しており、シェールブームによって国産が増えてはいるが、依然として需要の約半分を輸入に依存している(消費量1.940万BD、生産量1,270万BD)。

・人口の多い(ニューヨーク地域などの)大西洋岸は輸入石油製品に依存しており、いっぽうメキシコ湾岸からは何百万BDの石油製品の輸出が行われている。

・もし20%のBATが課税されると、輸入原油がそれだけ高くなる。現在ブレント原油は55ドルほどで取引されているが、米国精製業者は66ドルプラス運賃を支払うことになる。これに伴い、国産原油も高く買い上げることになる。米国産油業者にとっては恵みだが、結局はドライバーが負担することになる。

・長い時間が経てば、国産原油は増産されることになり、現在の米国向け主要供給国であるカナダ、メキシコ、サウジアラビアなどの産油国は、代替市場を探さなければならなくなる。

・結果として、過去2年間の価格戦争にふたたび火をつけることになろう。

・輸出には課税されないので、精製業者は輸出を志向するようになる。業者が国内向けに販売するには、国内価格が上昇しなければならないことになる。

・シェブロンの最高経営責任者であるジョン・ワトソンは先週アナリストに対し、この税制は国産原油生産増といういい結果をもたらすだろうが、同時に「消費者や為替レート、あるいは世界経済への悪影響など、意図せざる結果をもたらす」ことを懸念している、と語った。

・米国石油業界最大のロビー団体であるAPI(米国石油協会)のトップであるジャック・ジェラルドはまだ立場を明らかにしていないが「関心をもっている」としている。反対している石油会社の中には、共和党への多額献金者であるチャールス・コーク及びデービッド・コークの兄弟が所有するコーク・インダストリーがある。

・カナダ石油生産者協会のトップであるティム・ミラーは、この法案が通れば石油開発の投資はカナダから離れ、アメリカに向かうだろう、という。

・不確実な面はあるが、投資家たちは既に賭け始めている。WTIとブレントの価格差は、12月の1.60ドルから25セント縮小した。この価格差のオプション取引のオープン・インテラストは7倍に増えた。

・もしアナリストたちが正しければ、この税計画の最大の反論は、多くの政治家が最も恐れているガソリン価格の上昇だろう。

・バークレイズは、この提案は、アメリカの一般家庭にとってガソリン費用が年間300~400ドル上昇することになろう、と予測している。

このように、とても一般国民のためになるとは思えないが、「最高のIQ」を持つ内閣が始動したら、少しは整合性のある政策が実行されるようになるのだろうか。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年2月2日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。

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岩瀬 昇
エネルギーアナリスト

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