量的緩和と円安は無関係(中村仁さんへのコメント)

2017年02月05日 16:17

このごろトランプ大統領の「日本は量的緩和で円を切り下げ、通貨安競争を仕掛けている」という批判に同意する日本人が多い。アゴラの中村仁さんの記事もそうだが、これに対しては、次のチャートを見せるだけで十分だろう。

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マネタリーベース(青線)とドル/円(右軸)日銀調べ

日銀は一貫して量的緩和でマネタリーベースを増やしているが、2015年以降はドル安(円高)に振れた。トランプ大統領の誕生したあとドル高に振れ、最近の混乱でドル安になっている。つまりマネタリーベースと為替レートにほとんど相関はない。特に2016年の大幅な円高は、量的緩和と逆相関だ。

これは理論的にも当たり前で、為替レートに影響するのは日米の金利差だから、日本の金利がゼロ金利に張りついている以上、日銀が何をやっても金利差は変わらず、したがって円安にはならない。財務省で「円高ファイター」として成功体験のある黒田総裁のねらいは「ステルス円安誘導」だったと思われるが、それは錯覚だった。

為替レートに影響を与えるのは金融政策ではなく、財政政策である。為替介入は日本政府の資金ポジションを変えるので、理論的には為替レートに影響を与えるが、1日7兆ドルの資金が動く外為市場で、数百億ドルの介入をしても一時的な効果しかない。「口先介入」がきくこともあるが、それは心理的な「偽薬効果」にすぎない。

したがってゼロ金利が続く限り、量的緩和で日本政府が円安を維持することはできない。外為市場の大きくなった今は政府は無力であり、「通貨安競争」なんて神話なのだ。これは最近はマクロ経済学の教科書にも書いてあるから、経済にコメントするならちゃんと勉強してほしい。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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