第一交通産業、M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

2017年02月11日 06:00

タクシー業界では、「大日本帝国」が有名である。タクシーの大手4社、大和自動車交通、日本交通、帝都自動車交通、国際自動車の頭文字の「大」「日本」「帝」「国」をつなげた表現だ。その一方で、業界最大の保有台数を持つのは第一交通産業<9035>だ。1970年代からM&Aを進め、全国各地のタクシー会社を買収して成長し、2000年4月に 福岡証券取引所に上場した。2016年3月末時点でグループ全体の保有台数は業界首位の8214台を誇る。第一交通はなぜ業界トップに躍り出ることができたのか?過去のM&Aの歴史を振り返りながらM&A戦略を読み解く。

【企業概要】タクシー8000台、34都道府県に営業網

第一交通は、日本一の保有台数を誇るタクシー事業を核に、新規事業を展開する。創業当初はわずか5台のタクシーで事業をスタートしたが現在は、タクシー約8,000台を保有し、福岡県を拠点に全国34都道府県に営業網を持つ。第一交通といえば「タクシー事業」というイメージがあるが、そのほかに「バス事業」、「不動産分譲事業」、「不動産賃貸事業」、「金融事業」がある。

タクシー事業は、道路運送法による一般乗用旅客自動車運送事業の免許を得て34都道府県で営業を行っている。また、介護車両、寝台車両、ジャンボ、大型、ハイヤー等の車両も保有する。115社、200営業所、8,214台を配置し、随時不特定多数の顧客の求めに応じて輸送を行う。

バス事業は、沖縄県において那覇バスほか1社の子会社が貸切バス・路線バスの営業(認可台数620台)を行っているほか、福岡県、鹿児島県、山口県、島根県、広島県、大阪府、長野県及び北海道において、第一観光バス㈱ほか5社が貸切バス等の営業を行っている。

不動産分譲事業は、福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、佐賀県、大阪府及び東京都等において、都市型ファミリーマンションを中心とした企画、販売のほか、第一ホーム㈱において戸建住宅の販売を行っている。

不動産賃貸事業は福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、山口県、広島県、兵庫県、大阪府、三重県、神奈川県及び北海道等において、飲食ビルを中心とした賃貸ビ78棟その他住宅物件等を保有し、賃貸及びその管理業務を行っている。

金融事業は、福岡県、熊本県及び東京都を拠点に、第一ゼネラルサービスほか1社の子会社が、主として不動産担保ローン等の貸金業及び不動産再生事業を行っている。

【経営陣】2代目社長として、事業を多角化

田中亮一郎社長は、大学卒業後、テレビ朝日に入社。1994年に親族が高齢になり体調を崩したことがきっかけで後継者として義父が創業した第一交通産業に入社する。2001年、第一交通産業グループ社長に就任、創業者である黒土始が拡大したタクシー事業を中心に、事業の多角化を行う。現在57歳。

【株主構成】創業家一族が、半数近くを保有

創業家一族が株式を保有する第一マネージメントが33%ほどの持ち株比率で筆頭株主となっている。続いて西日本シティ銀行、福岡銀行、北九州銀行がそれぞれ約3~4%安定株主として入る。創業者である黒土始、その妹である黒土優子、その娘である田中京子がそれぞれ持ち分比率で3%ほど保有する。創業家一族で半数近い株式を取得していることから、強いオーナシップを持った経営ができる。

【M&A戦略】 タクシー会社買収で地域拡大、周辺事業も開発

タクシー業界は、M&Aによる規模の経済が働きやすいため、過去から数多くのM&Aが行われてきた。また近年では、法令面で規制緩和からまた再規制の方向に動いており、事実上増車するためにはM&Aしか選択肢がない状態もありその勢いは加速している。第一交通もその例に漏れず、M&Aによって毎年約300台ずつタクシーを増やしてきた。その中でも直近10年の中で特筆すべきは京阪電気鉄道のタクシー事業の買収だ。

2010年10月、第一交通は、京阪電気鉄道から子会社の京阪タクシー(車両数:217台)、宇治京阪タクシー(車両数:97台)、大阪京阪タクシー(車両数:138台)、汽船タクシー(車両数:111台)並びに、京阪タクシーの子会社である滋賀京阪タクシー(車両数: 58台、敦賀京阪タクシー(車両数:35台)、トラベル京阪の計7社(タクシー6社の総車両数656台)を完全子会社化した。これにより、第一交通グループのタクシー保有台数は7,251台となり、京都府、滋賀県、福井県の営業エリアが拡大した結果、33都道府県からなるワイドネットワークにより競争力の強化を図った。

2014年3月期は、兵庫県相生市の相生神姫タクシー(18台)、長崎県佐世保市の三光タクシー(17台)、北海道函館市の寿ハイヤー(42台)、沖縄県うるま市のあづまタクシー(13台)、京都市の八光タクシー(146台)、和歌山市の湊タクシー(19 台)、兵庫県尼崎市の名神タクシー(32台)、福岡市の長住タクシー(33台)の買収並びに5社 (73台)からの事業譲受等による増加を含めて、前期比352台増加の7,683台とした。

2015年3月期は、名古屋市の大宝タクシー(38台)、大阪市の南大阪 交通(128台)、広島市のつるみタクシー(29台)、福岡市西ビルタクシー(40台)の買収並びに1社(27台)からの事業譲受等 による増加を含めて、前期比2台増加の7,905台とした。

2016年3月期は、福岡市の㈱西ビルタクシー(40台)ほか1社(21台)、松山 市の㈲富士タクシー(25台)ほか1社(9台)、堺市のロイヤルタクシー㈱(56台)ほか1社(42台)、武蔵野市 の㈱ユアーズ(30台)、函館市の美咲観光ハイヤー㈱(20台)、松本市の相互タクシー㈱(50台)の買収に並び4社(118台)からの事業譲受等による増加を含めて、前期比349台増加の8,264台とした。

沖縄で買収攻勢、バスや不動産にも進出

第一交通のM&Aの特、色は、タクシー事業が公共交通機関として担う「個別短距離輸送」の地域密着性を、点から面へと「総合生活産業」を展開するなかで、タクシーを足掛かりに周辺事業を固め、新規事業を展開していく点だ。その象徴となるのが沖縄事業である。

2003年6月に民事再生手続きの申立を行った那覇交通との間で営業の全部を譲り受けることに2004年4月に合意した。那覇交通は1951年に設立され、那覇市内の市内線では別名「銀バス」と呼び親しまれ、ほかに貸切・定期観光バスも保有し、沖縄県民の生活の足としていた。路線バス事業においては、昨今の地方公共交通機関に共通問題である輸送人員の減少、赤字路線の拡大等により、財務体質が悪化したことから、那覇交通は営業譲渡先を模索し、第一交通グループも選択肢のうちの1社として交渉を進めてきた。

第一交通は、地域に密着し、利用者に喜んでもらえるよう積極的に設備投資を行い、観光立県としてのイメージアップに繋がるようサービス重視の経営を行う。今回の営業譲受けによりバスが255台増加し、第一交通グループ内のバスの総認可車両数は376台となる。

その後も2006年9月、民第一交通の子会社である民事再生手続中の琉球バス交通との間で事業譲受契約書を締結し、子会社化した。2006年11月には第一交通の 100%子会社である那覇第一交通は、沖縄交通サービスとの間でタクシー事業を買収したほか、沖縄ハイヤーを子会社化。 沖縄県内におけるグループのタクシーの保有台数を64台とした。

2007年5月、沖縄で初めてとなる分譲マンションを那覇市壺川で着工した。起工式で田中亮一郎社長は「バス、タクシーを含めて沖縄にしっかり根を張りたい」と述べ、今後、県内で年間、数棟を建設する考えを示していた。第2、第3物件として浦添、名護両市に用地を取得した。県内にマンション販売の専門会社も設立し、販売態勢を整えた。

2008年10月、第一交通子会社の那覇第一交通は、美栄タクシー及び鏡原タクシーの全出資持分をそれぞれ取得し、子会社化した。これにより、沖縄県内における当社グループのタクシーの保有台数は、2社50台が増加することで7社207台とした。2011年7月、那覇第一交通は、合資会社水仙タクシーの全出資持分を取得し子会社化した。当該出資持分の取得によりタクシー21台が増加し、沖縄県内においては既存のグループ子会社6社190台と合わせて211台となった。

2012年1月、第一交通はリッシより、那覇バスターミナルの全株式を取得し、完全子会社化した。那覇バスターミナルは、那覇市の中心地、沖縄県の玄関口でありながら、また、再開発の指定をうけているにもかかわらず、経済状況の変化や諸般の事情で再開発に着手できなかった状態が長年続いていた。譲受後は、旭橋都市再開発株式会社が事業を進め、第一交通は南地区事業にも参画した経緯もあり、地権者として再開発事業に協力を希望する意向を示した。

2013年7月、第一交通子会社であるてだこ第一交通は、あづまタクシーの全出資持分を取得し、子会社化した。これにより沖縄県内においてはグループのタクシー13台が増加し、既存の当社グループ7社216台と合わせて229台となった。

沖縄に11年前にバス事業で参入後、タクシー・自動車整備・不動産分譲・賃貸も軌道に乗り、年間売上高100億円(グループ全体の1割)を計上するまでになった。沖縄県内の路線バスにおける沖縄本島共通IC乗車券「OKICA」導入による乗客の利便性の向上、三線演奏と島唄で人気の「うたばす」「琉まーる」ガイドと大手旅行社とのパッケージツアーによる営業推進、リピーター向け定期観光コースの設定のほか、重複路線の統廃合による効率化、那覇空港と県内主要リゾートホテを結ぶリムジンバスの運行を推進する。第一交通グループは地域密着の徹底を図り、顧客満足を視野に入れた異業種とのシナジー効果による付加価値の充実を図る。

【財務分析】ROE、10%台の高水準

財務指標をみると、売上・利益ともに好調である。2016年3月期の連結売上高は前期比21%増の1100億円、営業利益は22%増の85億円といずれも過去最高を更新した。タクシー事業は乗務員の制服を刷新した費用で減益となったが、不動産分譲事業が好調で利益を押し上げた。

2017年3月期は売上高が前期比6%減の1030億円、営業利益が7%減の80億円の見通し。第3四半期までの業績をみると、不動産分譲事業が振るわず減益だが、タクシー事業は増益で推移している。

自己資本比率は20%前後を維持している盤石とは言い難いものの一方で、自己資本利益率(ROE)が10%台と高水準を維持している。現金及び現金同等物の期末残高も増えていることから、今後は配当や自社株買いなどの株主還元の強化や、M&Aなどの成長投資で現金の有効な使い道を示す必要がありそうだ。

【株価】増配発表で急上昇に転じる

株価は上下を繰り返しながらも上昇基調にある。2015年末に一時1600円台の高値をつけた。中小のタクシー会社を積極的に買収し規模を拡大していることや不動産分譲事業の好調が評価につながっている。

2016年以降、株価は軟調に推移していたが、今年2月7日、年間配当を25円に増やすと発表したことをきっかけに株価が急上昇に転じている。増配は企業経営者が先行きの業績に対して自信を持っていることのシグナルといえ、今後の業績拡大期待で当面、株価は堅調に推移しそうだ。

【まとめ】M&Aで地域密着の総合生活産業へ

中期経営計画では、「地域密着のタクシー事業、バス事業並びに不動産事業をベースにして、他業種との業務提携等を進め、快適な生活環境を創造するLANS(ローカル・エリア・ネット・サービス)カンパニーの確立を目指す」としている。タクシー事業については、大都市圏・地方主要都市圏を中心にM&Aを実施するため、意思決定の迅速化と経営責任を明確にするとある。今後もタクシーを足掛かりとし、周辺事業を展開していく地域密着性「総合生活産業」推進するため、第一交通にとってM&Aは重要な経営戦略といえるだろう。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2017年2月9日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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