「認知」求めるトランプ氏の心をつかめ!

ロシアのプーチン大統領は得意の心理戦略を駆使し、トランプ新米大統領の歓心を買うために腐心している。米NBC放送によると、ロシア政府は米中央情報局(CIA)の元エージェント、エドワード・スノーデン氏(33)を米国側に引き渡す可能性を検討中という。一方、プーチン大統領は初の米露首脳会談の開催地としてスロベニアの首都リュブリャナで開きたい意向をそれとはなくメディアにリークしている。トランプ氏がスノーデン氏を「米国の裏切り者」と激しく批判してきた経緯がある一方、スロベニアはトランプ氏の現ファーストレディ、メラニア夫人の出身地だ。

▲日米共同記者会見(2017年2月10日、首相官邸の公式サイトから)

プーチン氏の狙いは、トランプ氏と戦略的、外交的な交渉をする前に、トランプ氏の心をつかもうというものだろう。スノーデン氏の米国引き渡しと夫人の出身地での首脳会談開催案はトランプ氏の心をつかむ最高のアイデアである一方、ロシア側にとって何も特別犠牲を払う必要がない。

トランプ氏は富があり、ホワイトハウスより豪華なトランプ王国のオーナーであり、米国内で多くの別荘を所有している。その中の一つ、フロリダ州パームビーチの別荘に安倍晋三首相を接待したばかりだ。すなわち、トランプ氏はもはや物質的な贈り物にはあまり関心がないはずだ。そのトランプ氏が唯一願っていることは、米大統領としての「認知」だ。

トランプ氏が安倍首相と意気投合できたのは、昨年11月の大統領勝利直後に送られたゴルフのドライバーでも今回贈られた金のボールペンのせいでもない。安倍首相がトランプ氏を米大統領として接し、両者の会合に大きな意義を感じている政治家だからだ。すなわち、大統領としての認知だ。

プーチン氏は70歳の実業界出身トランプ氏の弱点をよく研究したはずだ。トランプ氏と核軍縮問題やウクライナ問題、シリア内戦問題を話し合う前に、トランプ氏の心をつかむことが最重要と判断したはずだ。モスクワにはトランプ氏の心理分析を担当する部署があるだろう。過去、現在、そして未来のトランプ氏の動向分析を担当しているはずだ。

米国内ではトランプ氏が大統領に就任後も反トランプデモ集会が開かれている。彼らはトランプ氏を米大統領とは認めていない。その数は米国内で過半数といわれている。欧米主要メディアもトランプ氏を米大統領として認知することに躊躇し、今なお酷評している。

その時だ。安倍首相がワシントン入りしたのだ。トランプ氏は自分とアジアの安保問題を話し合うために極東の地からワシントン入りした安倍首相を抱きしめたくなったほどだというのだ(トランプ氏のツイッターから)。

安倍首相は、強気と認知を求める心の間で激しく揺れるトランプ氏の心をつかむことに成功したわけだ。西側主要国の指導者が躊躇している時、安倍首相は米大統領としてのトランプ氏とアジアの安保問題をシリアスに話し合ったわけだ。

プーチン大統領、そして中国の習近平国家主席はトランプ氏との会合を模索するだろう。その際、彼らはトランプ氏を米大統領として厚待遇し、トランプ氏の願いを満たす作戦を展開させるだろう。その時、米国内で反トランプ集会が依然大々的に開催されているようなら、プーチン氏と習近平主席の狙いは一層成功する可能性が出てくるはずだ。いずれにしても、安倍首相が一足早くトランプ氏との人間関係を構築したことは大きな外交成果である。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年2月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。