石油ガスの発見量は60年ぶりの低水準

岩瀬 昇

原油価格の将来動向に影響を与える要因はいくつかある。短期的には協調減産の効果と米シェールの生産動向だが、同時に、中期的・長期的要因も念頭におく必要がある。

中期的要因とは、2014年末からの価格下落により落ち込んだ探鉱投資の影響で数年後に供給逼迫が起こるかもしれない、というポイントだ。

ちなみに長期的要因とは、新ピークオイル論と気候温暖化問題である。

今朝、FTがこの問題を分かりやすく、具体的に報じているので紹介しておきたい。
”Oil and gas discoveries dry up to lowest total for 60 years” (around 3:30am on Feb 13, 2017 Tokyo time)という記事で、サブタイトルが ”Companies are putting a brake on exploration and large fields are harder to find” となっている。

・探鉱投資の減少と大型油ガス田発見が困難になっていることから、新規油ガス田の発見は60年ぶりの低水準となった。調査会社HIS Markitによると油ガス田の新規発見は、2013年までの平均400~500件に対し昨年は174件に留まった。

・この事実は、将来の需要増大を満たすためには、米国シェールのような非在来型の資源に依存することになりそうだ、ということを示している。

・(在来型では)発見から生産開始まで5~7年かかるので、現在発見量が減少しているということは、今後10年の内には供給逼迫が到来する、ということを意味している。

・新規発見は、60年ぶりの低水準となった2016年に続き2017年も減少し、石油換算82億バレルの発見に留まった(「BP統計集2016」によると2015年の生産量は、石油350億バレル、ガス石油換算230億バレル、合計石油換算580億バレル)。

・もっともフロンティアな探鉱活動は、掘削コストが坑井あたり1億5,000万ドルかかり、成功確率20%(かつては「千三つ」と呼ばれていた)の沖合深海となっている。

・別の調査会社Wood Mackenzieによると、探鉱投資は2014年の1,000億ドルから2016年には400億ドルに減少している。

・米シェブロンは、探鉱予算を2015年の30億ドルから2016/17年には10億ドルに縮小し、コノコフィリップスは深海の探鉱から全面的に撤退した。

・技術の発展により北米のシェールやタイト岩層からの生産が可能となり、過去10年間に1,900億バレル相当の石油ガスの資源量が追加されている。陸上のシェールの掘削コストは坑井あたり400~1,000万ドルであり、数週間という単位で生産に移行できる。

・Wood Mckenzieは、今年の探鉱活動はゆるやかに活発化し、2016年の430坑井に対し2017年には500坑井以上が掘削されるだろうと見ている。発見確率の高いものとして、エクソンのギヤナ沖合、伊エニとノルウエーのスタットオイルによるバレント海(北極海)、さらにはコスモス・エネルギーとBPが手がけるモーリタニア沖などを挙げている。

・Wood Mckenzieの世界探鉱調査部門のトップのAndrew Latham曰く、掘削リグ使用料などのコスト削減があるので、石油会社は少ない費用で掘削ができるようになっている。同時に、投資可能な資金量に比べ、探鉱機会はたくさんあるので「経済条件の厳しい産油国は投資に魅力的ではない。なぜなら石油会社には選択の余地があるからだ」と警告する。

・また、昨年発見された最大のもの2件は共に米国にある。Caelus Energyがアラスカ北部の浅海Smith Bayで発見した回収可能な石油40億バレルのものと、コノコフィリップスがアラスカ陸上Willowで発見した3億バレルのものだ。

ふむふむ。
この中期的要因についてはIEAもOPECも、折に触れ警告している。昨年末の協調減産合意の際にも、サウジのファーリハ・エネルギー相は、中期的な供給逼迫のリスクを回避するために新規投資を刺激する水準にまで価格を引き上げる必要があることを理由の一つとして挙げていたな。

原油価格が想定外の乱高下を見せるのは、将来動向が予測困難になった時だ。1年前の30ドル割れは、中国経済の将来動向が予測困難だったことが主因だった。

これだけ多くの人びとが認識しているということは、不測の供給逼迫発生のリスクは減少しつつあると見ていいのだろうか。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年2月13日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。