東芝記者会見の異様な光景

竹内 健

かつての古巣の東芝のことが心配でもあり、産業界がしっかりしてくれないと大学で研究・教育をしていても仕方がないこともあり、東芝の記者会見はネット中継で見ています。

2/14の記者意見は異様なものでした。記者会見の内容は様々なところで報道されているので割愛しますが、まず質疑応答で、記者さんが「反省して下さい」「まだ隠しているんじゃないの」と怒っている。

年末の記者会見くらいから、東芝からメディアにきちんと会見の連絡さえすることができなくなり、業を煮やした記者さんたちが(勝手に)東芝に押し掛ける、ということが続いているらしい。

記者さんも人間です。企業と良好な関係があれば、記事も多少は好意的になるかもしれませんが、こうして関係が悪化してしまっては企業の方が損をしてしまいます。

実際に取材に来て下さる記者さんとお話しすると、記者さんも本当は東芝には立ち直って欲しいんだと感じます。東芝は日本を代表する企業ですし、取材で会う記者さんも、友達や知り合いに東芝に居る人も多いですから。

そして会見の内容も異様でした。
利益の8割を叩き出し、いわば一本足打法のフラッシュメモリを完全に売却することもあると発表。
東芝が発表したパワーポイントの事業の資料からはフラッシュメモリが「完全に消滅」していたので、事実上完全売却することを決めたのでしょう。

現在の東芝の時価総額が8000億円程度。フラッシュメモリ事業が独り立ちすると、1兆5000億円もの価値があるともいわれています。

単純計算すると、フラッシュメモリ以外の東芝の事業の価値は、-7000億円です。もちろん、コングロマリットディスカウントがあるので、こんなに単純ではありませんが。

いずれにせよ、一本足のメモリ事業を手放したら、大きく稼げる事業はありません。
しかし、社長さんは「廃炉や保守などの原発事業を継続し、社会的責任を果たす」と何度も強調。
企業にとって利益を叩き出すことは、社会的責任ではないのでしょうか?

もはや利益など眼中になく、原発事業を維持する目的の(国策?)企業になった、と社長自ら言っているように聞こえました。

そして社長さんの言い方も紋切型というか、投げやりで支離滅裂。
もはや社長さん自身が、自分が言っていることを信じてないのでしょうね。

考えてみればこの社長さんも、気の毒です。医療事業出身でありながら、突然、社長に祭り上げられて、「そんなに原発で責められても、自分は何も知らないし、関係ないよ」と思っているのでしょう。そう思っても社長という立場上、ひたすら頭を下げ続けなければいけない。

このようにもはや学級崩壊したような異様な記者会見を見て、東芝という企業の経営が機能しなくなっているように感じました。

社長さんは、「貸した金を返せ」という銀行に背中を突かれて、ひたすら事業を切り売りすることしか考えてないのかもしれません。

本当はアメリカのチャプター11のように、倒産を選んだ方が事業・従業員を守ることになるのでしょうが、借金を踏み倒されたらかなわない銀行としては、そんな思い切ったことができない「無難で良い人」を社長に選んでいるのでしょう。

電力事業については、様々なメディアで取り上げられているように、中国での原発事業の遅れ、ランディスギア(スマートメーター)の減損やLNGの買取契約など、まだまだ「地雷」が潜んでいると言われています。
稼ぎ頭のメモリ事業を失った後に、このような状況で東芝という企業が生き残れるのか・・・

ここまで追い詰められたら、何を残して、何を淘汰するのか、決断しなければいけない。
一連の原発問題で企業としては危機的状況ですが、好調な事業やその中で頑張る優秀な社員の方も残っています。
こうした事業や従業員の方を決して潰してはいけない。

今後の東芝の動向はどうなるのか。
記者会見では社長さんが「原発を維持して社会的責任」と述べていたように、どうも最優先は問題の原発・電力関係のようです。

これから本当に国は税金を投じて、東芝の問題事業を支えるのでしょうか?

もういい加減に、落ち目の問題事業に対して優先的に税金を投入するのはやめませんか。
例えば、産業革新機構は落ち目の企業の延命に税金を投入し続けたため、評判が悪かった。
東芝の場合は、ゾンビ化した原発事業には投資すべきではないでしょう。

一方、儲かっていて将来性もある東芝のフラッシュメモリ事業が身綺麗になって、外に切り出されるならば、産業革新機構は投資すべきではないでしょうか。

税金を投じるならば、リターンが期待できる、前向きな投資を考えて欲しいものです。


編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2017年2月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。