経産省が執務室施錠でメディアを敬遠

(写真ACより:編集部)

不都合な報道をシャット・アウトか

瞬く間に情報が拡散する時代になって、トランプ氏にしろ、政治権力がメディアを敵対視するか、遠ざける傾向が各国で強まっています。日本の経産省が全執務室を原則として施錠することになったと聞き、「なぜまた経産省なの」と、驚きました。部屋は施錠できても、全ての情報には鍵をかけられません。でも「なぜまた今なの」、ですね。

誤解のないようにいっておきますと、政府にとっても企業にとっても機密情報、重要情報の管理は不可欠ですし、入館規制やチェックは必要でしょう。メディアの取材に対しては、会見室や面会室で応じることが多いでしょう。新聞社、テレビ局自身もそうした対応をしているところが多いと思います。

確かに金融庁、特許庁などでは大半の部署を施錠しています。また、外務、財務、総務省、警察庁などでは一部の重要部署について執務室への出入りを制限しているそうです(読売新聞、23日)。情報の管理がますます重要になっているにしても、経産省を皮切りに主要省庁で同様の措置をとるという話は今のところ、聞きません。なぜ、経産省なのか、不思議です。

「千三官庁」が態度を豹変か

主要官庁の中では、経産省はメディアに対して、友好的な関係を重視してきたほうでした。「千三つ(せんみつ)」官庁ともいわれ、産業政策、エネルギー政策、中小企業政策、消費者行政など、担当は多方面にわたり、計画、施策はたくさん作る、そのうち実現するのは「千に三つほどしかない」という意味でした。ですから、メディアとの関係を大切にし、PRを兼ねて、大量に報道してもらえるよう気を遣ってきたのです。

私も経産省を何度か担当したことがあります。顔見知りになれば、執務中の課長、課長補佐の側に自由に座れ、疑問したり、政策の説明を受けたりしました。ある時、事務次官が記者懇談で「記者の中にインベーダー(侵入者)がいる」というのです。後に分かったのは、だれもいないのを見計らって、某記者が次官室に入り込み、機密資料を持ち出したことが発覚しました。窃盗まがいの行為ですね。次官側が新聞社側と連絡をとったのでしょう、その記者は左遷されました。

2、30年前のことです。ともかく緩やかな官庁だったという印象があります。それが他省はさておき、執務室の施錠というのは、何が切っ掛けなのでしょうか。安倍政権は人事を通して官僚機構を掌握したとされ、官邸の中枢にいるのが経産官僚です。財政節度や消費税で厳しい態度をとる財務官僚は遠ざけられ、通産官僚が重用されています。

重要な政策情報が集積か

安倍政権の3本の矢、新3本の矢、一億総活躍、GDP600兆円達成など、次々に登場する構想は、経産省が好む手法に酷似しています。トランプ大統領との日米首脳会談向けに準備したと思われる「対米インフラ投資構想」もそうです。10年で50兆円、70万人の雇用創出という仕掛けはいかにも経産省型ですね。経産省には、各種のプラン、情報資料、データなどの重要情報が集積されていると、想像します。以前と比べて段違いでしょう。

「対米インフラ投資構想」は首脳会談直前に、朝日、日経にでかでかと掲載されました。朝日はその原資として、年金基金(GPIF)の運用資金までが動員されると指摘し、批判的でした。国会質疑で問題にされると、安倍首相は「私は承知していない。新聞では見ましたがね」と、妙な答弁をしたのが印象的でした。会談直前に情報が流出し、首相が怒ったと推察されます。焦ったのが世耕経産相で、「全執務室の施錠」へ。これはあくまで想像です。

世耕氏は日ロ経済協力担当相でもあります。8項目の経済協力プランはまさに通産省が中心になって原案を作成したとしか考えられません。昨年末の日ロ首脳会談で盛り上がったはずの北方領土問題なのに、その後、ロシアが軍の新しい師団を配置する方針を決めたり、周辺の無人島に命名したり、安倍首相、世耕氏の神経を逆なでしています。情報管理を強化する衝動にかられているに違いありません。

もちろん、「知る権利の阻害の懸念」(読売)に直結する措置ではないにせよ、取材先と事前に連絡をとり、面談室で会い、終了後に広報室に議事録を提出などとなると、取材はやりにくくなります。狙いは官邸、政府が出したい情報以外は極力、内部に封じ込めることなのでしょう。それに成功すれば、政権側の都合の情報ばかりが報道されることなります。

都合の悪い情報も報道され、批判を浴びて、再考、修正していく政策決定のプロセスこそが大切なのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年2月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。