青山商事、脱「スーツ依存」へM&A

2017年02月26日 06:00

「洋服の青山」で知られる青山商事<8219>はスーツを主体に紳士服業界の売上高首位を誇る。しかし少子化や景気低迷を背景にこの10年でスーツの市場は3割も縮小した。危機感を募らせた青山商事は2010年以降にM&Aを本格化する。靴やかばんの修理店「ミスターミニット」の運営企業を買収するなどして新たな収益源を育てる考えだ。

【企業概要】郊外型の紳士服専門店を展開

青山商事は広島県福山市に本社を構える。「スーツ売上No.1」の謳い文句で知られる「洋服の青山」を中心に紳士服の小売店を多数擁し、2016年3月期の売上高は2,402億円、全業態を合わせたビジネスウェア小売店舗は874店舗に上る。

青山商事の設立は1964年。広島県府中市で、当時は紳士服を主体としながらも食料・飲料品や県の特産品等も取り扱っていた。1974年に現在の本業の先駆けとなる郊外立地型の紳士服専門店・洋服の青山を開店。こうした立地・業態での出店は当時は業界初の試みであったが、消費者からの好評を博し、以降続々と郊外型店舗を出店する。1985年に大証二部、1990年に東証二部に上場を果たす。

【経営陣】創業者の長男、青山理氏が社長

代表取締役社長の青山理(おさむ)氏は創業者の青山五郎氏の長男。1981年に青山商事に入社し、商品部長や営業本部長を経て2005年に社長に就任した。57歳。

【株主構成】金融機関を中心に分散

大株主は金融機関を中心に分散しており、筆頭株主は12.67%を保有する日本トラスティ・サービス信託銀行である。創業者の長男である青山理氏が代表取締役社長を務めるが、創業家である青山一族は有限会社青山物産を通じて7.75%を保有、青山理社長が2.99%を保有する。合わせても10%強であり、同族会社とは程遠い。

【経営環境】スーツ市場、10年で3割縮小

今回は青山商事のM&A経歴を見る前に、同社の業績・事業内容の推移をたどりたい。

以下のグラフは青山商事のスーツ販売着数と一着あたりの平均単価の推移である。販売着数、平均単価共に、当然店舗の出退店やマーケティングの手腕に依拠するが、スーツという商品の特性上、世間一般の需要は景気や雇用に左右される部分も大きい。

販売着数のみで言うならば、青山商事は2004年3月期から2008年3月期まで、5期連続でスーツ販売着数過去最大を更新しているが、リーマンショックのあおりを受けて2009年3月期から減少に転じている。加えて、少子化に伴う人口構成の変動から、中長期的に見てスーツを着用する人口が減少するであろうことはスーツ販売着数がうなぎ上りの2004年以前から既に見通しを立てていた。ゆえに、紳士服販売事業の収益力を強化しなかればならないという方針を打ち出していた。

中長期と言わず、直近でよりダイレクトな影響があったのは団塊の世代の引退だ。団塊の世代が60歳、65歳を迎える2012年問題、2015年問題に該当する2012年/2015年はそれぞれ前期比3%/10%減と下げ幅も大きい。もちろん、少子高齢化自体に改善の兆しがない以上、今後一転してスーツを着用する人口が増加するというような市場の好材料はない。景気や雇用の好転は単価の上昇には寄与するかもしれないが、母数である市場自体の縮小はとうてい補いようがない。

さて、青山商事の主力事業は当然紳士服販売であるが、グループ内で他の事業も手掛けている。以下にセグメント別売上高推移と営業利益推移、それぞれ全体に占める紳士服販売の比率をまとめてみた。

カード事業は本業の販売促進も兼ねてクレジットカードの「AOYAMAカード」の運営、会員募集を手掛る事業である。商業印刷事業は、同じく本業の販売促進の為の印刷事業。雑貨販売事業では、「ダイソー&アオヤマ100円PLAZA」の店名で100円ショップを展開する。

注目すべきは、各事業も含めた全体での業績に紳士服販売事業が占める割合だ。売上高ベースでは80%を下回ったことがなく、営業利益ベースでは2004年3月期の79%を底に、以降は増加傾向である。とりわけ2010年3月期以降、営業利益に紳士服販売の占める割合は90%以上へと跳ね上がっている。これはドル箱事業であったカード事業が改正貸金業法の施行によって逆風を受けたためだ。改正貸金業法による総量規制の導入に伴って利息収入が大幅に減少し、カード事業ではかつての高収益を生み出せなくなった。以降、カード事業では貸金業以外にも顧客向けのサービス提供等を打ち出すも、いまだに往時の収益を捻出するには至らない。

スーツ市場の拡大が見込めない中で、こうして青山商事は否応なしに紳士服販売事業への依存度を高めて行った。2017年現在、スーツ市場はこの10年で3割減ったとされている。

【M&A戦略】靴・かばん修理など非スーツに活路

こうした時勢と背景を踏まえた上で、青山商事が行ったM&Aを見て行こう。

身も蓋もない言い方をすると、2010年までの青山商事のM&Aは面白くない。実質的に組織再編としてのM&Aしか行っていないためである。2006年から2007年に買収したエム・ディー・エスと栄商は共に、創業者であり会長である青山五郎氏が株式の100%を間接的に保有している会社である。さらに両社とも主要得意先は青山商事であり、もはや連結会計をしていないだけのグループ会社のようなものである。加えて2社とも事業規模がさほどないので、買収による青山商事の業績へのインパクトもない。株式交換を用いているので、これまで両社に外注していた仕事をコストをかけずに内製化出来た点は良いかもしれない。

ようやくM&AらしいM&Aとなったのは、2011年11月の服良の買収だ。中国を生産・物流拠点とする服良は技術力が高く、生産管理にも長けている。青山商事としては、単に工場を買うというよりも、従前は担当者が中国に出張をして行っていた検品作業を服良に一任することや、東南アジア等に分散している協力工場への技術指導を服良の中国工場からの担当者を派遣することで、低コストで高品質な商品を確保できるという目論見があった。

後に、この買収のかいあって、青山商事は服良を通じて、2014年春よりインドネシアで直営工場を稼働する。この頃、2012年末からの円高修正で、中国からの輸入コストは前年比2~3割ほど上昇していた。三陽商会やハニーズ、ファーストリテイリング等も東南アジアへ生産の軸足を移していたというトレンドに、服良のおかげで乗り遅れずに済んだというべきか。

なお、M&Aではないながらも、2010年12月の住金物産との合弁によるイーグルリテイリング設立は一つの要だ。後にM&Aにより改めてスーツ以外に活路を見出す動きの先駆けであるようにも見える。日本進出を図るアメリカンイーグルアウトフィッターズのブランド力にあやかり、フランチャイズチェーン(FC)として事業拡大をする意図がある。ただし、完全な新規事業であったため、出店コストがかさんだこと等からイーグルリテイリングを含む「その他」事業の収益はごく近年まで赤字であり、現時点では前述の紳士服販売への依存構造を打開する決定打とはなっていない。

大勝負に出た「ミスターミニット」買収

2015年11月、ミニット・アジア・パシフィックの買収は大きく勝負に出た形だ。ファンドからの譲受であり、買収金額は146億円。この期の青山商事の貸借対照表には120億円ののれんが計上されており、ミニット・アジア・パシフィックには売上高(113億円)を上回るのれんがついたことになる。

ミニット・アジア・パシフィックは、ミスターミニットの店舗名で靴やかばんの修理、鍵の複製等を手掛けている。国内では駅構内や商業ビルなどに約300店舗を展開するほか、豪州やニュージーランドにも約250店舗を有する。

「非スーツ」事業でありながら、顧客層にはシナジーがあり、尚且つ補完関係にもある。ミニットが傘下にあれば青山商事はシューズ販売に手を出せるし、社会人だけでなく初めてビジネスシューズを履く就活生などにミスターミニットクーポンを配れば、ミニット側の顧客も開拓できる。

加えて、海外の店舗網は青山商事には魅力的だ。青山商事が1994年に中国に進出してから20年、海外店舗数はわずか20店舗にとどまり、未だに収益貢献には至らない。初期は失敗も続き、上海青山服装を売却までした有様だ。しかしミニットの店舗の半数は海外にある。そして青山商事もようやく中国での事業展開のノウハウがわかり始めて来た。店舗展開で協業すれば、スーツ事業で海外での収益確保も夢ではない。日本国内の少子高齢化が進んでも、海外に市場を開拓しておけば痛みは少ない。

ミニット自体もM&Aで成長した会社であり、のれんの償却負担は重いものの、のれん償却前の営業利益率は9%、青山商事の単体ベースと遜色ないラインだとされる。つまり、ミニットがM&Aで時間を買い、それを丸ごと青山商事が買い取った形だが、結果的に割高となるか合理的となるかは今後の両社の相乗効果を上手く活かせるか否か次第だ。青山商事は、年40~60店舗のペースでミスターミニットの出店を拡大して行く方針を掲げる。

翌2016年4月、青山商事は雑貨・インテリアを扱うライフスタイルショップ5店舗を展開するWTWを子会社化。青山商事は前年に、中期経営計画にて、従前はビジネスウェア中心だった販売戦略をグループ全体への小売・サービスへと拡大している。ミニット・アジア・パシフィック、WTW共に青山商事が紳士服販売以外の事業拡大へ舵を取る中での買収である。

【財務分析】M&Aの効果はまだ限定的

冒頭述べた通り、青山商事では紳士服販売による売上高・営業利益がそれぞれ全体の8割以上を占めている。スーツの販売数と売上高、営業利益はある程度連動する関係にある。

2016年3月期の売上高は前期比8%増の2402億円、営業利益は12%増の210億円と2年ぶりに増収増益となった。前年が消費増税の駆け込み需要反動でスーツの販売が落ち込んだこともあり、ビジネスウエア事業の既存店売上高が3%増えた。ショッピングセンター内を中心とした新規出店や女性向け新業態の出店も寄与した。しかし、それでも過去のピークだった2008年3月期の営業利益(237億円)には及ばない。

M&Aの件数、対象の規模共に小さいため、M&Aによる劇的な変化は見られない。2016年3月期にはミニット・アジア・パシフィックの売上・利益が買収以降の4ヶ月分しか反映されていないわけだが、仮に一年分を加味してみたとしても、売上高にして110億円程度。青山商事の売上高に比べると微々たるものである。目先の売上・利益だけを求める足し算型のM&Aではないので、これは致し方ない。

ネットデットと自己資本比率の推移はグラフの通り。おそらく買収のための資金調達も含めて、2016年3月期は長期借入金だけで400億円増加している。それでも自己資本比率はおよそ6割近いので、まだ次の買収の資金調達余力はありそうだ。

【株価】株主還元強化で上昇も材料出尽くし

株価は2015年に入り急上昇に転じた。同年1月に株主還元の強化策を発表。2016年3月から18年3月期までの中期経営計画の期間中は連結総還元性向(配当と自社株買いを足した金額を年間の純利益で割った比率)を130%に設定し、積極的な自社株買いを進めたことが好感された。しかし、15年7月に5000円台まで上がった後は材料出尽くしとなり、現在は4000円前後で一進一退の展開となっている。2015年11月に発表したミニット・アジア・パシフィックの買収も「業績への影響が軽微」とあって株価を押し上げるに至っていない。

青山商事の今期の予想PER(株価収益率)は約19倍。同業のAOKIホールディングス<8214>の約14倍、コナカ<7494>の約12倍と比べて割安感に乏しい。株価がさらに上値を狙うには、「130%還元」後を見据えた新たな成長戦略の策定と実行が必要だろう。

【まとめ】買った事業の収益化課題

2017年1月現在、青山商事はビジネスウエア以外の売上高を現在の2割から4割まで高めたい方針だ。スーツで利益が出ている内に新たな収益源を育てたいという。

この育てたいという言葉の通り、現時点では青山商事が行った異業種の買収はまだ種のままであり、成否は判然としていない。青山商事は現在、古着販売や飲食店等のFC事業も自社で手掛けており、今後種をまくことの出来る畑は多くある。

M&Aは買収がゴールではなくスタートであると言われるが、青山商事の次の一手とあわせて、買った事業がどう育つのかも注目して行きたい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2017年2月24日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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