【映画評】彼らが本気で編むときは、

渡 まち子
彼らが本気で編むときは、

母親と二人で暮らしている11歳のトモは、母親が家出したため、いつものように叔父のマキオのもとへ向かう。以前と違うのは、マキオは介護施設で働くリンコという美しい恋人と暮らしていたことだった。リンコは元男性でトランスジェンダー。最初は驚いたトモだったが、リンコの優しさ、美味しい手料理、母親からは得られなかった家族団らんの時間に安らぎに覚え、母親以上の愛情を注いでくれるリンコに、とまどいながらも心を開いていく。トモ、マキオ、リンコの3人の奇妙な共同生活が始まった…。

母親に育児放棄された少女が、叔父、叔父のトランスジェンダーの恋人と疑似家族となり成長していく異色の家族ドラマ「彼らが本気で編むときは、」。荻上直子監督といえば「かもめ食堂」や「めがね」など、スローライフ、癒し系のイメージが強いが、本作は、LGBT、育児放棄、法律も含めた偏見や差別といった、ハードな題材を扱っている。だが決して大上段に構えたり、声高に問題提起したりはしていない。作品全体のトーンや映像の色調は今まで通りソフトだし、美味しそうな食事やナチュラルなセリフなども健在。極論に走らないスタンスでマイノリティの現状を描いている点が素晴らしい。

リンコは手術によって女性の身体を手に入れてはいるが、戸籍は男性のまま。そのため様々な壁にぶつかるが、それを至近距離で見るトモの感情が、とまどいから理解、共感へと変化していくプロセスが、非常に説得力がある。映画には、いくつかの家族が登場し、彼らはそれぞれ違う形で、互いへの愛情を何とか形にしようともがいているようにみえる。そこから見えてくるのは、家族を形作るスタイルは、もはや血縁だけに依るものではないという現状だ。

“ヒロイン”リンコを演じた生田斗真(「土竜の唄 香港狂騒曲」でも女装を披露!)の見た目や所作の美しさもさることながら、悲しい過去を内包した複雑な心情をにじませた穏やかな演技に魅了される。他の出演者も皆、好演だ。LGBTという言葉はかなり一般的になってきたが、社会に本当に受け入れられるまでにはまだまだ時間がかかる。多様性や他者との違いを尊重することで実現する平和を願わずにはいられない。
【80点】
(原題「彼らが本気で編むときは、」)
(日本/荻上直子監督/生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、他)
(意欲作度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。