日清食品HD、国内外でM&Aで攻勢 菓子事業を第2の柱へ

2017年03月02日 06:00

チキンラーメンやカップヌードルでお馴染みの即席麺メーカー、日清食品ホールディングス<2897、日清HD>。同社のM&Aと言えば、投資ファンドの敵対的買収のホワイトナイト役を演じた明星食品の子会社化が有名である。しかし即席麺の国内市場はすでに圧倒的な首位にあり、伸びしろは大きくない。成長市場である中国やロシアなど海外事業の強化や、菓子など非即席麺事業の育成を狙い、M&Aを仕掛けている。

【企業概要】世界初のインスタントラーメン開発

2007年に亡くなった安藤百福氏が1948年に「魚介類の加工及び販売、紡績その他繊維工業、洋品雑貨の販売、図書の出版及び販売」を目的として設立した中交総社が、1958年に世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を開発した後、日清食品に商号変更した。

1971年には世界初のカップ麺である「カップヌードル」を発売。2005年には日本人宇宙飛行士が宇宙用インスタントラーメン「スペース・ラム」を食したことがニュースとなった。カップヌードル発売40周年にあたる2011年には累計200億食に到達するなど、インスタントラーメンはすっかり国民食として定着している。チキンラーメンを初めとするインスタントラーメンは、例えば公益社団法人発明協会が発表する「戦後日本のイノベーション100選」(http://koueki.jiii.or.jp/innovation100/)のトップ10に入るなど、日本だけでなく世界中に多大な影響を与えている。

1963年に東京及び大阪証券取引所第二部に株式上場し、1972年に東京及び大阪証券取引所第一部に鞍替えした。2008年10月に持株会社制に移行し、日清HDは東京証券取引所第一部に上場している。

日清HDは、創業者が掲げた4つの精神である「食足世平」(食が足りて初めて世の中が平和になる)、「食創為世」(食を創り世の為につくす)、「美健賢食」(美しく健康な体は賢い食生活から)、「食為聖職」(食の仕事は聖職である)をもとに、世の中のために食を創造することを追求し、日々クリエイティブでユニークな仕事に取り組み、グローバルな領域で、「食」を通じて世界の人々にハッピーを提供することで、グループ理念である「EARTH FOOD CREATOR」の体現を目指している(「日清食品グループ 中期経営計画2020」より抜粋)。

日清HDの報告セグメントは、「日清食品」(日清食品における即席麺の製造販売等)、「明星食品」(明星食品における即席麺の製造販売等)、「冷温事業」(チルド食品、冷凍食品の製造販売等)、「米州地域」(北米及び南米における即席麺、冷凍食品の製造販売等)、「中国地域」(中国における即席麺、冷凍食品の製造販売等)、「その他」(菓子等の製造販売、乳製品の製造販売、不動産賃貸管理、ゴルフ場経営等)である。2016年3月期の連結売上は4,680億円、経常利益は307億円、連結従業員数は11,200人となっている。

【経営陣】 創業者一族による経営

現在の社長である安藤宏基氏は創業者である安藤百福氏の次男である。1981年に長男である安藤宏寿氏が社長に就任するも短期間で百福氏が社長に復帰、宏基氏は1985年に37歳で社長に就任。現在69歳。副社長である安藤徳隆氏は宏基氏の長男である。

【株主構成】 創業者一族色は弱い

2003年の有価証券報告書を確認すると創業者持分は7%弱であったが、現在の創業者持分は10%強(安藤スポーツ、安藤インターナショナル)である。そのほか、三菱商事、伊藤忠商事などの大手商社やメガバンクが大株主となっている。

【M&A戦略】 海外展開・第2の収益柱 構築狙う

上記の中でも、2006年の明星食品買収は世間を騒がせた。明星食品買収のきっかけは、米国の投資ファンドであるスティール・パートナーズが明星食品に対しいわゆる敵対的TOBを仕掛けたことに対し、日清食品がホワイトナイトとして名乗りを上げたことである。スティール・パートナーズが提示したTOB価格は1株700円であるのに対し、日清食品は1株870円のTOB価格を提示した。その結果、TOBについては日清食品に軍配が上がった。しかし、スティール・パートナーズにとっては日清食品がホワイトナイトとして名乗りを上げ、TOB価格を吊り上げたことで多額の資金を獲得する結果となった※。

なお、2006年9月期の明星食品の売上は788億円であったが、2016年3月期の日清HDの有価証券報告書によると明星食品の売上は416億円である。2015年の売上が391億円であるので増加はしているが、買収当時から比べると売上が大幅に減少している。

※日清食品は明星食品株式86.32%を391億円で買収したが、スティール・パートナーズは23.1%を所有していたので、スティール・パートナーズは85億円ほどの資金を獲得したことになる。

中国でのM&A、活発化の公算

上記の通り、インスタントラーメンの消費量は中国/香港(以下、中国等)が圧倒的となっている。一方、日清HDのセグメント別売上を確認すると、中国地域の売上はむしろ米州地域の売上より小さい。

インスタントラーメンにおける中国等の消費量を考慮すると、特に中国地域の売上の増加の余地があるといえる。2016年5月に発表した中期経営計画においても、「BRICs (ブラジル、ロシア、インド、中国) を重点地域として設定」と明記しており、今後も売上の増加を目的として特に中国地域でのM&Aが活発に行われるであろう。

また、中期経営計画によると、日清HDでは菓子・シリアル事業を第2の収益の柱へ成長させるために技術シナジーによる連携強化、海外事業展開、M&Aの活用を行うとしており、持分法適用会社も含め売上高1,000億円を目指すとしている。2012年より段階的にスナック菓子製造等を行うフレンテ(現、湖池屋)の株式を買収し所有割合を33.41%としている。2016年3月に17.3%取得したプレミアフーズ(英国)も菓子製造を行っている。

日清HDの2017年3月期菓子・シリアル事業の売上計画は490億円、持分法適用会社である湖池屋の売上が直近の決算期で320億円ほどであるので、合計800億円ほどである。目標である1,000億円を達成するには200億円ほど必要で、短期間で売上を増加させるにはやはりM&Aが必要になるであろう。

【財務分析】 中計達成にM&Aは必須

2016年5月に発表した中期経営計画では、2021年3月期の連結売上高5,500億円、営業利益475億円を目標としている。この目標値は国際会計基準(IFRS)であり、現在適用している日本基準に換算すると、連結売上高6,000億円、営業利益400億円である。2016年3月期の連結売上高は4,680億円であるので、2021年3月期までに連結売上高を1,320億円増加させることになる。

売上高、明星食品買収で増加

売上は、2009年3月期に減少しているが、それ以外は順調に増加している。2009年3月期は、国内では「移り香」問題による影響、海外では円高の影響により売上が減少している。2007年、2008年に売上が大幅に増加しているが、これは明星食品をM&Aにて連結子会社としたことが要因である。2007年4月2日発表の業績修正によれば、日清単体の売上は暖冬の影響で大幅に減少したが、明星食品を連結子会社としたことで売上が382億円増加したことで、日清HDの売上は大幅に増加している。日清HDでは明星食品の買収によるシナジーを以下のように説明していたが、超短期的には自身の売上減少を明星食品が補完したという結果となった。

上記のとおり、中期経営計画で設定した2020年3月期の連結売上高は6,000億円(日本基準)で、そのためには5年間で連結売上高を1,320億円増加させる必要がある。2015年3月期の連結売上高が4,315億円、2016年3月期は4,680億円であるので、連結売上高が365億円増加しているが、第三四半期で連結子会社化したNISSIN FOODS DO BRASIL LTDA.の影響が大きいといえる。中期経営計画を達成するためには、今後も大規模なM&Aが行われることは明らかである。

大型M&Aに対応できる潤沢な資金力

自己資本比率は70%前後を推移しており、大幅なネットキャッシュでもあり、財務状況は非常に健全であることが分かる。2009年に有利子負債が増加しているが、2008年に買収したニッキーフーズの借入金(財務制限条項付き)の影響で増加しているものである。また、2016年3月期に有利子負債が増加しているのは自己株式取得のための資金調達(取得総額141億円)の影響であると推測される。今後も大規模なM&Aを行うための資金的余裕は十分であるといえる。

なお、中期経営計画において、2016年3月期での時価総額5,500億円に対し、2021年3月期では「時価総額1兆円」の目標を設定している(2017年2月時点の時価総額は約7400億円)。時価総額1兆円を達成するためにも、M&Aの活用は必須であるといえる。

【株価】6000円を挟んでボックス圏に

株価は2014年の後半にかけて大きく上昇したが、その後、6000円を挟んでボックス圏の値動きとなっている。インドネシア、シンガポールなど新興国における即席麺会社の買収、フレンテの株式の追加取得などM&Aが発生した時期は株価が堅調に推移する傾向がみられる。

今期の予想PER(株価収益率)は29倍と、同業の東洋水産<2875>の約21倍と比べて高くなっている。カップヌードルなどの高いブランド力を背景に新興国など海外展開余地が大きいことがPERの高さにも反映しているとみられる。

【まとめ】1000億円のM&A枠、有効活用なるか

日清HDは今までもM&Aは実施してきたが、2016年に中期経営計画で設定した2021年3月期における目標(売上6,000億円、第2の収益の柱の構築、時価総額1兆円など)を達成するためにはさらなるM&Aは必須である。日清HDは中計期間中の5年間で1000億円のM&A(事業投資)枠を設けており、その実行力が試される局面となる。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2017年2月28日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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