我々の愛する人たちは「働けない」に殺される

2017年03月03日 06:00

画像出典:写真AC

前回の記事で、「残業上限100時間」の是非について意見を述べさせていただいたが、このとき他の方の意見を読んでいて気になったことがある。

例えば、駒崎氏の記事に「皆さん、今のうち気づいて怒っておきましょう。我々の愛する人たちが、「働く」に殺される前に。」と書かれているように、働き方改革の目的が過労死を無くす事だけになっているように感じる。

しかし現在の日本では、過重労働で死に瀕している人よりももっと多くの人が、働きたくても働けないために自殺に走っている。そのため、働き方改革では「働けない」人を救うことも決して忘れてはいけない。

相関がある失業率と自殺率

ここ10年あまりの日本の完全失業率(以下、失業率)は、リーマンショックが発生した後の2009年に5.1%に達してから、ほぼ一貫して下がり続けている。2016年末の最新の失業率は3.1%であり、失業者数は79ヶ月連続して減少している。ほぼ完全雇用に近い状態だ。

そして注目するべきは、失業率の低下と傾向を同じくして自殺者数がどんどん減っている事だ。特に失業率の増減に影響を受けると思われる無職者の自殺者数は、リーマンショック前後に年間で約1万9千人から、2015年には1万4千人まで減少している。

参考データ:総務省統計局(http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/)、厚生労働省(http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/karoushi/16/)

失業率と自殺者数(無職者)の相関係数を求めると、+0.6935となり正の相関がある。特に失業率と自殺者数が同時に下がっている2009年以降では、+0.9862と強い相関がある。

この関係を、失業率(X)と自殺者数(Y)の一次式で表してみると、

自殺者数(人)=1916×失業率(%)+9200

ざっくりと計算すると、失業率が1%上昇すれば、自殺者数が約2千人増えてしまう。

そして、失業率をどこまで下がることができるかは、日本の自然失業率を何%と定義するかによる。ここでは、高度経済成長期の日本の失業率が1.0~3.0%程度で推移していたことから、2.0%と仮定する。

そうなると、まだ1.1%失業率が下がる余地があるので、まだ年間で失業による自殺者が2108人もいることになる。

過労死よりも多い、失業による自殺

では、失業とは真逆の、過労死による死者の数はどのくらいなのか。

厚生労働省の資料によると、脳・心臓疾患による過労死認定は年間100~160人で推移している。最新10年間の平均は135人である。また、精神障害による過労死認定は30~90人で推移している。最新10年間の平均は65人である。

また、勤務問題を原因・動機とする自殺者数から、仕事疲れが原因とされている人数は年間700人前後で推移しており、最新9年間の平均は620人である。

これらの数字から、現在、過重労働に苦しみ過労死している人数は年間820人であることがわかる。つまり、過労死より2倍以上多い人数が、失業という「働きたくても働けない」ことを苦に死を選んでいる。

どちらも悲劇であり、無くしていかなければいけないが、現在の働き方改革の議論で失業による自殺者数を減らすということにはスポットが当たっていない。これは大きな問題だ。

また、昨今の働き方改革の議論は、電通の新入社員の高橋まつりさんが過労自殺した事件がきっかけであるが、そもそもずっと前から年間800人以上が過労死していた。過労死の問題も、「若くて綺麗な女性が自殺する」というセンセーショナルなニュースで無ければマスコミが取り上げなかったことも大きな問題だ。

働き方改革は、残業上限だけでなくもっと広い視点で議論を

そしてこれは何度も書いていることであるが、高橋まつりさんが過労自殺した事件は「電通の36協定で定めていた70時間という残業上限を超えて過重労働していた」ためである。そのため現在の働き方改革の結果、残業上限時間が何時間に決まろうが、過労死による悲劇を無くすことはできない。

また、時間でなく成果に給与を払う制度の導入(ホワイトカラーエグゼプション)といった「働く時間でなく、働き方そのもの」を変えない限り、サービス残業が増えるだけでむしろ過労死は増えてしまうかもしれない。

また、解雇規制の緩和を導入して雇用のコストを下げなければ、残業時間が減っただけサラリーマンの給料が減って、会社の売り上げも減って、失業者が増えてしまうかもれない。そうなると数千人単位で自殺者が増えてしまう、とてつもない悲劇だ。

「長時間残業に頼らなければ売り上げが下がるとは、経営者の怠慢だ」との意見はわかるが、日本の解雇規制の厳しさの中で人を増やすことは本当に厳しい。繁忙期を乗り切るために雇った人を、閑散期も含めて60歳まで雇い続けなければいけないとなれば多くの企業は潰れるだろう。これ以上無く社員に手厚い待遇を保証していたJALの二の舞だ。

「誰もが気持ち良く働き、ワークライフバランスを実現し、過労死・自殺者を減らす」という目標は、誰もが賛同するゴールだ。その実現に至る道筋を、残業上限を何時間にするかという狭くて副作用のある道だけにはして欲しくない。

雇用を流動化して失業者を減らして自殺者数を減らすにはどうする?解雇規制を緩和するべきではないか。

過労死を防ぐためには短い時間で仕事を終わらせるインセンティブを与えるにはどうする?時間では無く成果に報酬を払ってはどうか。

などと、広い視点での議論が広がって欲しい。

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宮寺達也 パテントマスター/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。

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宮寺 達也
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