犯罪被害補償と犯罪保険について考える

2017年03月03日 06:00

写真ACより(編集部)

ある日、あなたが通り魔に刺されて大怪我を負って高度障害が残ってしまったとしましょう。

自動車事故で被害者に高度障害が残ると、任意保険から(死亡よりも高額な)1億円以上の賠償金が支払われることもあります。

ところが、通り魔のような犯罪者によって多大な損害を受けても、加害者が無資力であれば、国から犯罪被害者給付金支給法に基づく見舞金程度のお金がもらえるだけです。加害者を相手に訴訟を提起して1億円以上の勝訴判決をもらっても、勝訴判決はまさに「絵に描いた餅」で、持たざる者から回収することは不可能です。

そこで、自分や家族が犯罪を犯した時に保険会社が賠償金や罰金を支払ってくれる任意保険を創設してはどうかという見解があります。

故意でない過失に基づく(重過失も含む場合もあります)犯罪については賠償責任保険というものがありますが、故意の犯罪被害を賠償する保険はありません。なぜかというと、保険で賠償金や罰金がカバーされるとモラルハザードが生じて犯罪が多発すると保険会社が考えているからです。

巨額な賠償金や罰金を支払うことを想像すると犯罪を踏みとどまるけど、全額保険金でカバーされるのなら踏みとどまらなくなるという理屈です。

これに対して、犯罪保険が導入されれば、民間保険会社は加入者が犯罪を犯さないようモニター(監視)するようになるので、保険会社という私的な抑止が警察による公的な抑止を補完して犯罪抑止の効果が上がるはずだと、導入論者は反論します。

確かに、保険会社としては犯罪保険加入者が犯罪を犯さないよう様々な工夫を凝らすでしょう(悩み相談を受け付けるとか、失業した場合の仕事の斡旋をするとか…)。
本人に掛金を支払う資力がなくとも、もしかしたら両親や親族が本人のために加入するかもしれません。

実際、重大犯罪が起きると、犯人だけでなく親兄弟の職業や近所付き合いまでメディアに暴露され、親族らが甚大な社会的制裁を受ける現状に鑑みれば、「うちの子は大丈夫だろうけど念のため加入しておこう」と思う親がたくさんいるかもしれません。加入者がたくさん集まれば掛け金も安くなります(掛け金が安ければ、私も娘のために保険に加入するでしょう)。

実は、この犯罪保険と同じような制度を日弁連が作ろうとしているようなのです。

成年後見人に就任した弁護士が本人のお金を横領・着服する事件が後を絶たないため、会費等を原資として被害弁済の基金の創設を検討しているのです。

弁護士の横領事件数は(表沙汰になっているだけでも)驚くほど多く、グーグルで「弁護士 横領」と検索するとたくさんの事件がヒットします。

ヒットするのはニュースになったような事件だけですので、実際にはもっとたくさんの事件が発生しています。弁護士会による懲戒件数もうなぎのぼりで急増しており、一向に減少する気配がありません(懲戒処分を受けた弁護士を検索できるサイトもあります)。

成年後見制度の本人が心神喪失状態になっていると犯罪が発覚しにくくなるので、水面下の暗数は発覚した事件数の何倍にも上るでしょう。

このような状況を憂慮して基金を創設しようというのが日弁連の意図のようですが、成年後見制度に一切関わらない弁護士の方が圧倒的に多数なので、一部の不良弁護士のツケを会費増額という形で回されるのでは真面目な弁護士としてはたまったものではありません。

ただでさえ高すぎる弁護士会費(月5万円以上する地域もあります)が弁護士業への参入障壁となっている昨今、到底会員の同意は得られないでしょう。保険会社が犯罪保険を創設すれば、成年後見人になる弁護士に保険加入を義務付ければいいのです。

成年後見人に関しては、後見制度支援信託という優れた制度が2012年2月から導入されています。
成年後見人に就任する場合、必ずこの制度を利用するようにすれば被害は大幅に減少するはずです。
後見制度支援信託という制度は、本人の財産のうち日常的な支払いをするのに十分な金銭だけを後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みです。

大金を使う場合には信託銀行から引き出さなければならないので、裁判所と信託銀行によるチェックが働き、簡単には横領・着服ができないようになっています。このような優れた制度を積極的に利用し、使い勝手が悪い点は信託銀行と協議をして制度設計をしていくのが、本来の日弁連の仕事だと私は思います。

事後の補償よりも犯罪の事前抑止の方が、誰にとってもはるかに望ましいのですから。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年3月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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