裁判官の営業成績向上のために依頼者を犠牲にしてはならない

2017年03月05日 06:00

※写真はイメージです(編集部)

司法試験受験時代のことだと思いますが、小林秀之先生が講義テープで次のようなことを話されていたのが印象に残っています。

「私が東京地裁で修習していた時、地裁の所長室に車のセールスマンの売り上げ実績のようなグラフがありました。よく見ると民事部の個々の裁判官が何件落としたかが一目でわかるようになっているんです。だから民事部の裁判官たちは必死になって当事者に和解を進めるんです。判決でも和解でも終了すれば同じ一件なので面倒な判決書を書かなくて済む和解で落としたいのです」

本当にそんなグラグがあったのかどうかはわかりませんが、裁判官用語で「今月黒字」「今月赤字」という表現が用いられることがありました。

その月に落とした事件数から新たに回ってきた事件数を差し引いてプラスであれば「黒字」、マイナスであれば「赤字」という意味です。もちろん、黒字の方が評価が高くなります。早くたくさんの事件を落とす裁判官が評価されるというシステムです。

中にはひどく強引な裁判官がいて、当事者尋問すらしていないのに当事者を別々に裁判官室などに呼びつけ「判決まで行ったらあなたの方が敗訴するだろうから、和解しなさい」と双方に脅しをかけるのです。弱気な弁護士が付いていたり本人が弱気な場合は、不承不承ながら自分に不利な和解に応じてしまうのです。

ある時、当方が勝ち筋だと思っているのに不本意な脅しをかけられた事件がありました。私が「裁判所の意向は理解できるのですが、当方本人は断固として判決を得たいと言っています。もちろん、先ほどご指摘のような不本意な結果となれば即刻控訴せざるをえません」と言うと、相手方と変わるよう指示され相手方が裁判官室に入りました。しばらくして入室を指示されると、今度は裁判官から「この条件だったら勝訴と同じです。ご本人を説得してくれませんか」と当方の勝訴的な和解案を提示されました。当事者を説得したフリをして和解に応じたのは言うまでもありません(笑)。

それにしても、当事者尋問すらしないで強引に和解を勧めるというのは感心しません。訴訟は当事者の納得プロセスでもあるので、主尋問で自分の言い分を言葉に出して訴え、反対尋問で自分が依頼した弁護士が相手の嘘を指摘するというプロセスを経ることで、ようやく納得して和解に応じる人が多いからです。

当事者にとっては尋問こそが訴訟のハイライト。
それを省略して、しかも双方を脅して和解を成立させるというのは、極論すれば憲法で保障された「裁判を受ける権利」の侵害とも言えます(憲法の裁判を受ける権利は主に刑事事件の手続保障としての条項ですが…)。

もっとも、一昔前は、延々とダラダラと尋問が続くことで裁判が著しく遅延していた時期がありました(今でもそういう弁護士がいるかもしれませんが)。

私が司法修習生だった頃、主尋問なのにダラダラと1時間半やっても終わらず次回に続行というような事件がたくさんあり(反対尋問はもっと長くなります)、そういう時は裁判官席の横で傍聴していた修習生全員が居眠りをしてしまったものでした。

民事部の部長裁判官が「居眠りは当事者にわからないようにやりなさいよ。私も辛い時があるんです。そういう時は般若心境を写経して睡魔と戦っています」と注意されたくらいです(笑)。

当時の高裁長官が「たとえどんなに複雑な民事事件でも、主尋問30分、反対尋問30分で必ず足りる」と指摘されていたように、1998年の民訴法改正を機に、尋問時間の制限が図られるようになりました。

私自身の感覚としても、「主尋問30分、反対尋問30分」で十分足りると思いますし、陳述書に即した誘導尋問の同意が得られれば主尋問は15分もあれば十分です。何と言っても、尋問の最大の見せ場は相手側の証人や本人を崩す反対尋問なのですから…。
事前にじっくり準備をしておいて崩しにかかります。

それから、尋問事項は(事前に出している主尋問事項書以外にも)当日分を必ず作成することを、弁護士諸氏にはお勧めします。

反対尋問は主尋問次第だから事前には作れないという人もいますが、準備書面や陳述書をしっかり読み込めば「崩すポイント」が何点も見つかるはずです。

事前にあれこれ想定して尋問事項を作って本番に臨むのと「ぶっつけ本番」とでは、反対尋問の効果に雲泥の差が生じることもあります。

主尋問の尋問事項も(進行をスムーズにするため)念のため当日分を作成しておきましょう。
終了後、尋問事項書をそのまま書記官さんに渡すと喜んでもらえることがあります。実際、国選の刑事事件の被告人質問で、事前に作成した「尋問事項書」を終了後に渡すと「いつも助かりますよ」と喜んでくれた書記官さんがいました。

弁護士に委任した依頼者がアクティブになれるのは尋問の時くらいなのです。
尋問は納得のための手続保障だという気持ちを忘れないようにしましょう。裁判官も、絶大な権限を利用してて双方を脅すようなアコギな真似は決してすべきではありません。

反対尋問の手法に学ぶ 嘘を見破る質問力 (ちくま文庫)
荘司雅彦
筑摩書房
2013-09-10

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年3月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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