トランプ氏ならできる金正恩体制の排除

中村 仁

flickr(arif_shamim)より引用(編集部)

日本も傍観者でいられない

森友学園に対する不透明な国有地の払い下げ、豊洲市場の移転問題などが連日、大きく報道され、反響を呼んでいます。それはそれで必要なことです。でもどうなんでしょうか。日本という国家そのものが大きく揺さぶられかねない重大危機がすぐ側に存在しています。そうした危機への対策、備えをもっと考えておくべきですね。

重大危機というのは、北朝鮮の金正恩体制の存在そのものです。剛腕か乱暴か、トランプ米大統領の行動力に、この時ばかりは期待するしかないように思います。反トランプが国民の半数以上、閣僚級の辞任、議会との関係悪化など、政治的な窮地の中で、支持を一気に挽回できるチャンスでもあります。無茶するな、大混乱に陥るぞと、解決を引き延ばしてきたため、危機を大きくしてきたのです。またその道を歩むのでしょうか。

金正男の暗殺事件は、北が実行犯であることを否定するのは、難しいでしょう。メディアでは殺害の手口や犯人、正恩委員長の関与などに関心が集まっています。正恩委員長が残忍な性格の持ち主であり、何をしでかすか分からない人物であることを再認識させた、それが問題の本質です。脅しや抑止力のために存在するはずの核ミサイルを本当に発射しかねない、あるいは猛毒の化学兵器、物質を実際に使いかねない。つまり恐れが恐れでなく、現実化しかねない恐ろしさがあります。

「断固、許さない」と叫ぶだけか

核ミサイルの開発を着々と進め、日本はもちろん、米本土もその射程に入れており、米国の安全保障にかかわる問題です。同様の状況に置かれている日本には、米国のような軍事力、兵器力はありませんし、他国に先制攻撃しかける能力、意思はありません。だから安倍首相は「断固、許してはならない」と叫ぶしかないのです。

今月17日、ティラーソン米国務長官が来日するようです。首相や外相と北朝鮮情勢を協議するとの報道です。米メディアは「トランプ政権は武力行使や体制転換を含めた強硬路線を検討する」としています。「武力行使」はミサイルの軍事施設に対する先制攻撃、「体制転換」は正恩体制の排除の意味です。脅しだけで終わるのでしょうか。さらに米政権は北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定する準備をしているそうです。

マティス国防長官は海兵隊出身、湾岸戦争、イラク戦争の歴戦の勇士で、輝かしい軍功があります。対北朝鮮対策の指揮をとるには向いています。「国際社会はあらゆる多国間会合の場で、北朝鮮の人道無視の問題を取り上げるべきだ」(朝日新聞社説)といったところで、北には効き目がないことはすでに立証されています。「北朝鮮は国際的な孤立を一段と深める」(毎日社説)にも切迫した危機感がありません。

政治空白の韓国は動けない

中国は北に手を焼いているように見えても、強硬な手段をとろうとしません。韓国は朴大統領の弾劾裁判による政治空白で当分、期待できません。中心になって動けるのは米国、手助けできるのは日本でしょう。米国との本格的な戦争状態に入ったら、北に勝ち目は全くありませんから、狙われるとしたら日本の確率が高いと考えるべきでしょう。

日韓は北の危機への対応を軸に両国関係を考えていかねばなりません。安倍首相は新安保法制の制定、整備の指揮を執りました。北に起こり得る様々な事態を、すでに想定していなければならないはずです。森友学園問題でおたおたしている場合でありません。国会審議をみていると、与野党とも目先の火の粉のことばかりに熱中しています。金正男殺害事件とそれが波及する問題で議論したことはあるのでしょうか。

金正恩体制の排除ともなれば、大量の難民が押し寄せるだろうし、国家体制の再構築、経済支援などが必要となります。前面に立つのは韓国としても、日本も大規模な協力に迫られます。そういう事態が回避されれば最もいいし、回避されなくても、最悪の事態に対するシナリオ、準備は必要なのです。正恩委員長は肉親、多数の側近を排除、粛清しました。孤立無援という危うい状況を自らが作り出しました。自分で自分を窮地に追い込んでいるのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年3月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。