難しいけど、「部下を信じる」のがリーダーです

2017年03月07日 06:00

画像出典:写真AC

前回の記事で、リーダーは「足りない情報」で決断しなければならないことを書かせていただいた。

そして、先週の石原慎太郎氏の記者会見を聞いていると、もう一つ重要なリーダーの資質について気が付いた。それは、豊洲市場移転について石原氏が部下を信じて、仕事を任せていたことである。

「部下を信じて、仕事を任せる」ことが良いリーダーであると言えば、「それは当たり前だ」と思う人が多いだろう。しかし、それが難しいからこそ、大勢のサラリーマンが上司に不満を抱えているのだ。

部下の仕事の細かいところにまで口を出す、一見できる上司 

やはり私が事務機器メーカーの勤務時代のことであるが、課長Oと(他所の)チームリーダーHが、低コスト・高機能な新型LSIの開発に取り組んでいた。その新型LSIは、世界最小プリンタを発売するという事業部のビッグプロジェクトに必要であり、課長OとリーダーHの元、私の部署からかなりの人数が参加していた。

その新型LSIは当時私が所属していたチーム(尊敬するKさんがリーダー)が担当していた技術分野であったが、O・HがKさんをハブってプロジェクトを進めようとしていたため、Kさんは勿論私も不参加であった。

当然、そんな素人の集まりで高い専門技術を必要とする新型LSIの設計が上手く行くはずもなく、遅延しまくり、当初の日程を全く守れない状況になっていた。他の部署にもヘルプを頼んだり、専門外のメンバーにも参加させたり(親友Yも巻き添えに)と、なりふり構わず人を増やしていったが、一向に状況は改善しなかった。

その頃の私は、Kさんと一緒に別の次世代のプリンタシステムの開発に取り組んでいた。しかし、このままあっちのプロジェクトが失敗するのもまずいんじゃないかと思い、Kさんに「嫌ですけど、私が手伝った方が良いのではないでしょうか?」と質問したら、予想外の答えが返ってきた。

Kさん「既にO・Hから、宮寺君を貸して欲しいと言われている。だが断った」

私「なぜですか?まあ、あいつらが気に食わないのはわかりますが」

Kさん「好き嫌いの問題じゃないよ。宮寺君が参加しても状況は変わらないし、宮寺君にとって無駄な時間を過ごすことになるからだ」

私「自分で言うのもなんですけど、私はかなりの戦力になると思うのですが」

Kさん「これがHから渡された体制図だが、宮寺君をHの直轄に置いている。そして業務の範囲も明確になっていない。これが駄目なんだ」

私「Hリーダーの直轄に私が配置されるのが、なぜ駄目なんですか?」

Kさん「Hは宮寺君を信用していない。Hは宮寺君が自分の意図通りの仕事をするように監視をしたいから、直轄に配置したいんだ。部下が信用できず、仕事を事細かに監視したいなら、自分で直接やれば良い。部下を持ったリーダーは、部下を信じて仕事を任せ、自分はさらに上を向いて仕事をしなければいけない

私「なるほど。Hは確かにそれなりに仕事はできますが、メンバーを信用する人間には見えません。Hより私の方が技術に詳しいのにごちゃごちゃ口を出されたら、仕事の効率が下がりますね

Kさん「Hは自分が仕事をできる人間と思っているが、リーダーとしての資質は別だ。リーダーの仕事は、部下の力を100%発揮させ、チーム全体で目標を達成することだ。部下を信用せずにごちゃごちゃ口を出したら、部下の力は半減する。宮寺君の好きな野球に例えると、Hは宮寺投手が投げるボール全てに配球を指示し、例えゼロ点に抑えたとしても命令の無視を許さない監督だ。そんな監督、嫌だろ?

私「はい。そんなに信用できないなら、そもそも起用するな、自分で投げろと思います」

Kさん「Hが本気で新型LSIの遅れを取り戻すべく宮寺君の力を借りたいなら、宮寺君に業務を外注すれば良い。だが、リーダーとしてプロジェクトの業務をきっちり把握していないのでそれができない。だから、新型LSIの開発が遅れているんだよ」

だがしかし、部下を信用しない上司も出世する

と、このように私はKさんと相談して、新型LSIの開発とは距離を置いていた。その間、しっかりと次世代のプリンタシステムを完成させることができた。Kさんが次世代システムの詳細な設計は全て私に任せてくれていたので、私は気持ちよくアイデアを出し、完成度の高いシステムになった。

この次世代システムは多数の特許を取得することができ、今でも他社を含めたプリンタシステムの最先端である。

なお、私たちの次世代システムが完成するとほぼ同時に、O・Hの新型LSIは開発中止が決まった。

だが悲しいことに、上司から評価されたのはHの方であった。

私たちの次世代システムは、次のプリンタ機種に採用されることが決定した。そのために次世代システムを搭載するLSIを作ることになったのだが、そのリーダーがHになったのだ。

私は非常に納得が行かず、O課長に抗議したが受け入れなれなかった。O課長は「Kさんは確かにプロジェクトを成功させた。しかし、私が聞きに行くまで状況を説明しなかった。Hは今回は失敗だったかもしれないが、毎日のように真っ先に私に相談してきた。Hがリーダーの方が、私は安心してプロジェクトを託すことができる」と私に言った。

Kさんが事細かに状況を説明しなかったのは、予定通りに上手く行っていることを連絡しても時間の無駄と判断したからだ。定例で進捗は報告していたし、問題が起きた場合は連絡していた。私には何の問題があったのかわからない。

一方、Hは問題が多かったから当然とも言えるのだが、毎日のように進捗や問題を報連相していたようだ。O課長からすれば、頼られているようで嬉しかったのだろう。

こうして、「成功という結果」は「失敗の報連相」に敗北した。

皆さんの周りにもいるだろう。何の成果も出していないどころか損失まで出しているのに、上司にマメに報連相をしているため、上司に気に入られている人が。そして、責任を取るどころかどんどん出世していっている人が。

「報連相重視」が大企業のルールだから、対応できなかった方が悪いという理屈はわかる。だが、「結果という安全を度外視して報連相という安心」に拘った結果が、今の日本企業の低迷ではないのか。

部下を信じて結果を残してきた名リーダー

このように私の勤めていたメーカーでは「部下を信じる」リーダーは不遇を囲っていたが、やはり名リーダーと名を馳せた人は、部下を信じて、部下の力を100%発揮させ、大きな結果を出している。

やはりその代表格は、元中日ドラゴンズ監督の落合博満氏だ。落合政権時の中日ドラゴンズは岩瀬、浅尾、川上憲伸、吉見、チェン、山井、等々、投手王国を築いていた。そんな投手王国の秘訣が、投手起用を投手コーチの森繁和氏に全て任せることであったのは周知のことだ。

「へえ、今日は先発そいつなんだ」と、試合前のメンバー表を書くときに監督に言われたこともある。監督に事前に先発を告げなかったことも二度や三度ではない。(出典:週刊現代

森氏はこのように語っており、落合監督の「部下を信じる」の凄さが伝わってくる。

他にも名リーダーが「部下を信じる」ことで結果を出している例はまだまだある。総理大臣に再就任した安倍総理は菅官房長官とのコンビで、長期政権を築いている。appleのスティーブ・ジョブズ氏は独創的な人物とされているが、ティム・クック氏との連携あってこそのiPhoneの大成功だ。

他には、巨人V9に貢献し、王貞治に「一本足打法」を授けた荒川博コーチ。古くは諸葛亮孔明、黒田官兵衛という名前も挙がる。

そして先週の石原慎太郎氏の記者会見で、石原氏が部下を信じる人であることが良くわかった。政治学者の三浦瑠麗氏がわかりやすく解説されていたが、

・土壌汚染の問題について専門家の意見を聞き、尊重した

・土壌汚染の問題を都の関係機関に検討させて「解決可能」という報告を信じた

・土地購入の手続き及び価格が適正であるかについて都の関係機関に検討させて、妥当」との報告を信じた

と、専門家・部下を信じて、豊洲市場の移転に取り組んでいたことが良くわかる。

石原氏については、側近の浜渦武生氏との信頼関係については良く聞いていた。だが石原氏は東京都という大組織のリーダーとして浜渦氏以外の大勢の部下を信じて、東京都の力を100%発揮しようとしていたことが改めてわかった。

だからこそ、13年以上に渡り東京都知事に就任し続け、東京マラソンの成功、排ガス規制、東京オリンピックの誘致、財政再建といった大きな業績を成し遂げることができたのだ。

石原氏はそのキャラクターから悪評も多いが、リーダーとしての資質は確かに備えていた人だ。そして、「科学が風評に負けたら国辱」という言葉には痺れた。アンチの方でも痺れた人が多いようだ。

これは昭和天皇が今上(明仁)天皇への手紙にある「我が軍人は 精神に重きをおきすぎて 科学を忘れたことである」を意識したのであろうか。この言葉のセンス、流石はベストセラー作家である。

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宮寺達也 パテントマスター/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。

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宮寺 達也
パテントマスター/アゴラ出版道場一期生

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