アマゾンはヤマト運輸の値上げを断れない

2017年03月08日 06:00

画像出典:ヤマト運輸公式サイト(http://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/corporate/ad/)

2017年に入ってから、ヤマト運輸や佐川急便を初め、宅配業界の危機を伝えるニュースが相次いでいた。このままではまずいと思い、私も微力ながら2月に「今日からできる、再配達ゼロ」という記事を書かせていただいた。

しかし、それからも佐川急便の身代わり出頭、ヤマト運輸の未払い残業、荷物取り扱い個数の削減要求、そしてついに「ヤマト、27年ぶり全面値上げ アマゾンと交渉入り」(日経)とのニュースが流れた。

ヤマト運輸の送料値上げの本丸は、最大顧客であるアマゾンが送料値上げに応じるかどうかだ。日経の記事では「アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は2月に「送料無料は大事なサービスで値上げする予定はない」と語っており、ヤマトとの交渉は難航も予想される」と書かれている。だが、私はこう予想する。

アマゾンはヤマト運輸の値上げ要求を断ることはできない。

アマゾンだけで年間2.5億個の荷物

前回の記事でも書いたが、ネットショッピングの普及に伴って宅配便の数は年を追うごとに増えている。2015年には約37億4500万個にも達しており、まだまだ増える勢いだ。

その宅配業界の首位を走るのがヤマト運輸だ。アマゾンの荷物を一手に引き受け、シェア46.7%、年間で17億3千万個もの宅配便を扱う。

2位が佐川急便である。2013年にアマゾンから撤退したが、それでもシェア32.3%、年間約12億個もの宅配便を扱う。

宅配業界はヤマトと佐川で79%のシャアを有する寡占状態であり、3位の日本郵便(ゆうパック)はシェア13.8%・年間約5億1千万個、4位の西濃運輸(カンガルー便)はシェア3.6%・年間約1億3千万個と、規模で大きく見劣りする。

出典:国土交通省(https://www.mlit.go.jp/common/001139889.pdf)

それでは、ヤマト運輸はアマゾンの荷物をどれくらい扱っているのだろうか?また、ヤマト運輸がアマゾンから撤退した場合、他の宅配会社が見るつかるのだろうか?調べてみた。

まず、ヤマト運輸が扱うアマゾンの荷物の個数であるが、年間2億5千万個といったところのようだ。

こちらは東洋経済オンラインの記事を参考にさせていただいた。これはアマゾンが世界全体で取り扱う年間40億個の荷物個数から、日本法人の売り上げ(約1兆円、1割弱)から試算した数字のとのことだ。

一業者だけで年間2億5千万個とはすさまじい数字だ。業界4位の西濃運輸の2倍近い。

だが、納得できる。佐川急便がアマゾンの荷物を取り扱っていたとき、ヤマト運輸と佐川急便のシェアは拮抗していた。しかし2013年に佐川が撤退して以降、ヤマトとのシェアの差は開き、2015年には約5億3千万個少ない荷物数になっている。

単純な計算だが、アマゾンの荷物数2億5千万をヤマトから引き、佐川に足したら、両者の荷物数は同じくらいになる。

アマゾンの荷物数2億5千万個は、日本全体の宅配便の約6.7パーセントに達し、業界の勢力図を書き換える規模に達しているのだ。

ヤマト以外にアマゾンの荷物を処理できる宅配会社は無い

このように、年間2億5千万個の荷物を預けてくれるアマゾンは、宅配業者から見ると超々大口顧客であるが、しかし優良顧客では無いようだ。

佐川急便がアマゾンから撤退したとき、荷物の宅配料金は一個200円程度であったようだ(参照:CAKES)。佐川急便は一割の値上げ打診で交渉決裂したとのことなので、恐らく、現在のヤマト運輸も一個200円程度と思われる。

ヤマト運輸の個人向け宅配料金は、平均的な段ボールサイズ(80cm)で関東-関西間が980円である。ヤマト運輸でアルバイトをしていたからわかるが、個人向けと法人向けの荷物で宅配のオペレーションは同じである。そんな低価格で2億5千万個もの荷物を扱えば、利益も減るし、ドライバーも疲労困憊である。

だから、ヤマト運輸はアマゾンに値上げ要求をしている。だが、「アマゾンはドライな外資系だから、また次の宅配会社を探すだけ。値上げ交渉は無理」と言う意見がある。確かに佐川急便がわずか20円の値上げに失敗したのだから、一理あるようにも見える。

しかし、それは2013年当時の話だ。2017年現在、アマゾンはヤマト運輸しか選択肢が無い。

まず、年間2億5千万個の荷物を扱える業者が、ヤマト運輸と佐川急便しかいない。4位以下はもちろん、業界3位の日本郵便ですら約5億3千万個の荷物数である。50%以上の宅配量増大を受けることは無理だろう。

では、佐川急便がもう一度アマゾンの荷物を扱う可能性はあるか。これもほとんど無いだろう。

佐川急便はアマゾンの荷物を取り扱わなくなった後も、順調に荷物数が増えている。そんな中でもドライバー不足に苦しんでおり、駐車違反の身代わり出頭、イライラして荷物放り投げと、現場はギリギリの状態で頑張っている。再びアマゾンの荷物を受け入れることは無理だ。

では、ヤマト運輸とアマゾンとの交渉が決裂し、ヤマト運輸が現在の条件で荷物を扱い続ける可能性はどうか。これも無いだろう。ヤマト運輸は2016年の決算で過去最高の荷物取扱数だったが、営業利益が下がった(参照:東洋経済オンライン)。また、労働組合から「ネット通販会社など割引料金を適用する大口顧客に対して値上げを求め、交渉が折り合わなければ荷受けの停止」を求められている。

つまり、ヤマト運輸にとってアマゾンとの交渉が決裂し、アマゾンの荷物運送から撤退すれば経営・従業員側の双方にとってハッピーな結果になるのだ。

ヤマト運輸にとってアマゾンとの値上げ交渉は、失うものがないどころか、得るものしかない交渉だ。

しかし、アマゾンは最早ヤマト運輸以外に頼ることのできる宅配会社がいない。ドローンでの自動配達の検討などもしているようだが、流石にかなり先の話だ。

ヤマト運輸とアマゾンの値上げ交渉は、選択肢の無いアマゾンが圧倒的不利である。アマゾンは値上げに応じざるを得ないだろう。

ヤマト運輸はこの際、一割アップとはセコイことを言わず、2倍の一個400円といった大幅な配送料アップを要求すれば良い。

私は送料の値上げ料金を払っても良い

しかし、この値上げ交渉を巡って唯一心配になるのは、世間の反応だ。

「送料無料」「即日配達」といった便利なサービスに慣れ切った人々が、「値上げ許すまじ」とアマゾンの味方をするかもしれない。

しかし、どうやらその辺りもヤマト運輸は戦略的に動いているようだ。新田編集長が「宅配危機の裏側 ? ヤマト運輸の見事な“小池流”情報戦」でも解説されているが、1月から宅配業界の危機のニュースを上手く流すことによって、「値上げ止む無し」の世論ができつつある。

実際、ネットの反応を調べても「これだけ荷物が増えているのだから、仕方ない」とそれなりに受け入れられている様子だ。

私もアマゾンプライム会員であり、頻繁にアマゾンで買い物をする。そのため「送料無料」の恩恵はかなり受けてきた。しかし、私は送料値上げを受け入れても良いと思っている。

単純な発想かもしれないがモノを買うとということは、モノを買う私が幸せになり、モノを売ったアマゾンが幸せになり、モノを運んだヤマト運輸が幸せになる、そういうみんなを幸せにすることだと思う。ヤマト運輸で働く人たちを苦しめてまで、送料無料の恩恵を受けたいとは思わない。

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宮寺達也 パテントマスター/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。

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宮寺 達也
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