トランプ政権の予測可能性について

2017年03月08日 15:00

就任当初から大統領令で物議を醸してきたトランプ氏(1月の就任直後の署名模様。ホワイトハウス公式FBより:編集部)

2月6日付の当ブログにおいて、

「 トランプの七カ国出身者入国禁止大統領令に対してワシントン、ミネソタ両州が行った提訴に対して、ワシントン州シアトルの連邦地裁が全米を対象に差し止めを命令し、トランプ政権をめぐる事態はさらに流動化してきた。違憲であるかどうかは、大統領令が、合衆国憲法修正第1条「連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律・・・を制定してはならない」に抵触するかどうかにかかっている。トランプ政権側も、今回の措置が一時的なものであるという説明は行っていた。実際のところとしては、行政府側のほうが、宗教・国籍による全面的差別には該当しないことを明示する追加措置を導入し、事態収拾のための行動を早期に適切にとっていけるかどうかを政治的に問われている事態だと言えるだろう。」

と書いた。

3月7日の新しい大統領令は、基本的にこの「追加措置の導入」を行った方策だという事ができる。イラクを対象国から外したのは、政府が事実上の同盟国であることを鑑みた、作戦上の理由だが、合法的な居住者や査証(ビザ)保有者を渡航禁止対象から外し、さらに親族の訪問などの例外規定を盛り込んだのは、訴訟対策だと言ってよいだろう。例外の適用には審査が必要なので、入国管理に対する裁量権は維持できる。

こうした措置がとられるということは、巷のトランプ政権に対する評判を考えると、それなりに重要なことかもしれない。トランプ政権は、妥当な予測可能性の中で動いている、と言えるからだ。

トランプ大統領の個人的な資質と、トランプ政権の動向は、密接不可分に結びついているが、当然ながら、全く同じではない。大統領の不規則発言は続くだろうし、それが政権に与える影響も過小評価できないだろうが、それが全てではない、ということが証明された。世の中には北朝鮮のように、極度に予測可能性が低い政権も現実に存在していることを考えれば、今回の件を観察することは、それなりの意味があるかもしれない。

あえて付け加えれば、超インテリ集団ともいえたオバマ政権のようなタイプであれば、慎重かつ隠密に事を進めたがるので、失敗を認めるかのような修正を入れることは、かえって少ない。今回の件は、オバマ政権との比較でも、トランプ政権の一貫性と柔軟性を示した事例とみるべきかもしれない。

巷では、トランプ政権内のキングメーカーが誰か、という話題が華やかになってきているようだ。私は政権ウォッチが専門ではないので、そうした観察には加われない。だがキングメーカー探しが、トランプ大統領が間抜けなので、というニュアンスを伴っているとしたら、それは危険な想定ではないか。トランプは典型的なワンマン企業社長を長く務めた人物なので、権限委譲と人事掌握については、パターンを持っていると想定するのが自然だ。大企業経営には、部下への権限移譲が相当に伴っていただろう。

他方、ワンマンな企業経営スタイルは、特定の参謀にすべて牛耳られるスタイルを避ける意識があって初めて可能であったことが、自然に予測される。現在のところの政権運営も、少数のキーパーソンを選出したうえで、案件にも応じた組み合わせを講じているように見える。キーパーソンの中に法律家はいないが、訴訟対策に抜かりのないタイプは含まれているのだろう。

いずれにせよトランプ大統領の人格に引きずられて、政権を狂った支離滅裂な集団であるかのように扱うのは、建設的ではない。

安全保障面では、同盟国重視で、反米勢力に対する対抗能力の強化と、中国への警戒を強める姿勢が鮮明化している。予定されている空前の軍拡と、公共投資の拡大は、少なくとも一貫性はある政策だ。このブログでも繰り返し、「孤立主義」という本人が使っていないマスコミ用語に惑わされ、曇りメガネで政権を見るのは、少なくとも生産的ではないと書いてきた。

経済面では、特にPPTに対するスタンスの印象から、保護貿易主義云々と描写されている。だがトランプは二国間協定には関心を示しており、単純な保護貿易主義とはいえないのではないか。国内雇用を脅かす自由貿易は採用しない、というスタンスははっきりしている。わかりやすく言えば、低賃金で移動性の高い労働力を持つ経済水準の国との自由貿易は推進しない、ということだ。

私は経済が専門ではないので、評価は難しいと思っているが、一つの実験であろうと思う。少なくとも教科書に書いてある自由貿易の理論と違っているので、保護主義だ、というタイプの議論は生産的ではない。


編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2017年3月8日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた篠田氏に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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