「あたりまえ体操」で見抜くリーダーの資質

2017年03月09日 06:00

画像出典:YouTube 吉本興業チャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=G0zRBRUQils)

これまで『「足りない情報」で決断するのがリーダーです』『難しいけど、「部下を信じる」のがリーダーです』という、2つのリーダーの資質についての記事を書かせていただいた。

しかし、現実には全くリーダーの資質を備えていない無能リーダーが溢れている。私もメーカー勤務時代に、尊敬するKさんがリーダーの立場を追われて、「決断できない」「部下を信じない」無能リーダーO・Hの元で大変な苦労をしてきた。私のような苦労をしないためにも、これからの日本を支える若者は優秀なリーダーの元で力を発揮し、成長していって欲しい。

では、どうすれば優秀なリーダーと無能リーダーを見分けることができるのか?私が提唱する方法はこれだ。

リーダーの発言を「あたりまえ体操」に乗せてみよう。

一見、良いこと言っているようだけど、中身ゼロの方針

やはり私が事務機器メーカーの勤務時代のことである。毎年4月と10月の半期の初めに方針発表会と呼ばれる、事業部・部署のこれから半年の方針や施策を説明する大きな会議があった。名前は違えど、どこの会社も似たようなことはやっているだろう。

わざわざ市民ホールを貸切り、役員や関連会社のお偉いさんも出席して仰々しく開催していた。大きな事業部では社長や会長も出席し、字幕解説まで用意する気合の入れようであった。

私たちは方針発表会に参加する日は、わざわざ外出しなければならず、実質的に仕事は休みであった。

そんな方針発表会であるが、新人の頃は必死になって聞いていた。だが、年々退屈になっていった。なんというか、記憶に残らないのである。

「先期は売り上げ目標××億円未達でした」

「今期は〇〇の開発完了、絶対に達成します」

「〇〇の開発完了のため、PDCAサイクルをしっかりと回しましょう」

「〇〇はQCD(品質・コスト・日程)で妥協しない」

「先期は不具合が多発したので減らしましょう」「新製品では新しい技術に積極的にチャレンジしましょう」

別に「気合だ!気合だ!気合だー!」と明らかな精神論を聞かさせれているわけでは無いはず。だが、なんともつまらない。

この方針発表を聞いても、自分の明日からの仕事が1mmも変わる気がしない。つまり聞いても無駄じゃね?そう思っている内、徐々に睡魔に勝てなくなっていった。

そして2008年のことであった。会社のリーダー達が揃いも揃って「方針」とは何かを履き違えており、この方針発表が全く無意味なものであることに気づいた。

当時、センター長に就任したばかりのSがセンターの方針発表で、「私たちはC社を超えて、世界一のプリンタ設計部署になります。そのための方針を発表します」とぶち上げたのだ。「おっ、こいつは面白そうだ」と眠い目をこすって聞くことにした。するとSは、

「今期から我がセンターは、C社の3倍速でPDCAサイクルを回しますそれでC社に追いつき、追い越します」(御丁寧に、新体操のフープ(輪)を回す女の子の絵が3つ連なっていた)

と言った。なお、どうやって「3倍PDCA」を達成するかには全く触れず、方針発表は終了した。

私は起きていたことを後悔した。開いた口が塞がらないとはこのことだった。その帰りに同期で飲んだのだが、

・ジャスティン・ガトリン(アテネ五輪の100m金メダル)が9秒で走るなら、私たちは3秒で走れば金メダルですってか。

・どうやって3倍PDCA実現するんだよ、それができれば苦労しないよ

・ウォーズマン理論じゃね(いつもの3倍の回転を加えれば、400万×3の バッファローマン!お前をうわまわる1200万パワーだーっ!!)

・じゃあ、C社の3倍の給料よこせや

・まずお前が方針発表を3倍速でやってみせろや(センター長の発表は30分と決まっていたが、Sは40分以上掛かって持ち時間をオーバーした)

と非難轟々であった。

そして私は「Sの方針、くだらねー」と思うと同時に、あることに気付いた。

「確かに3倍PDCAでC社に勝つはアホすぎるが、これまでの方針発表も『それができれば苦労しない』と言う意味では、同じだったのでは無いか?」

「方針とは何か?」親友Yとディスカッション

「3倍PDCA」事件以降、私は親友Yと「方針とは何か?」のテーマで良くディスカッション(というか受講)をするようになった。

親友Y「会社の上司が言っていることは方針では無い。製品のQCD必達、PDCAを回す、新技術の開発、これらは当然のことで、わざわざ言われなくてもわかっている。これは野球で例えると、監督が『今日は勝つぞ』『走・攻・守』と言っているのと変わりない

「確かに。『今日は勝つぞ』と言われても、負ける気でいる選手なんているわけ無い。聞いても聞かなくても、自分のプレーは変化しない。結局、やつらの方針とやらは精神論だったんだな。では、どう言えば方針になるんだ?」

親友Y方針とは、読んで字の如く目指す方向だ。方向だから、右か左か、前か後ろか、必ず逆がある。逆でも成立するのが方針

「方針には逆があるか、なるほど。『今日は勝つぞ』の逆は『今日は負けるぞ』だから、成立しないな。方針じゃ無いな」

親友Y方針とは、ある向きを選んで、反対の向きを捨てることだ。落合監督の中日がわかりやすいが、守を重視して、攻は捨てている。そうやってチームの方向が明確になることによって、選手は練習するべきことが明確になり、チーム力が向上している。」

「確かに、落合中日は打者も守備力重視で選んでいて、徹底している。そして、落合中日の方針は逆でも成立する。例えば2001年に優勝した近鉄は守より功を重視していた、逆の方針でも成功した」

親友Y「リーダーは、組織として何を重視して、何を軽視するか、その判断の指針を示さなければいけない。それが方針のはず。『QCD必達』『PDCAを回す』とかは何も捨てていない。だから、部下の行動が変わらない」

私「なるほど、『Q(品質)絶対、C(コスト)は軽視して良い』とか、何かを捨てる方針が示されれば、どうやって設計するのか判断しやすい」

親友Y「例えば、品質が良くて値段が安い部品を選定するときは、何も迷う必要は無い。しかし、品質が良いが値段が高い、品質は悪いが値段が安い、どちらの部品を選定するかは難しい

私「確かに。そういう時は両方の見積もりを発注して、どちらにするか、部品選定会議を行うよね」

親友Y「予め『Q(品質)絶対、C(コスト)は軽視して良い』との方針が示されていれば、部下は迷うことなく、品質が良いが値段が高いを選定する。そうやって迷う時間も、会議を行う時間も不要になり、組織全体が効率良く動くことができる。そういう、『逆がある』方針を示すことが、リーダーの責務だ」

リーダーの言葉を「あたりまえ体操」に乗せてみよう

そうして、私と親友Yは

・リーダーは、「逆がある」方針を組織全体に示すことが責務である

・『今日は勝つぞ』『走・攻・守を鍛えろ』のような、当たり前のことを方針として言うリーダーはアホ

と考えがまとまった。そして、2011年にCOWCOWが「あたりまえ体操」を発表した後、「上司の言うことを『あたりまえ体操』に乗せてみたらわかりやすいんじゃね?」と言い合うようになった。

・3倍速でPDCAを回したら〜 C社に勝てる!

・QCDを必達したら〜 開発が完了!

・新製品で不具合を減らしたら〜 売り上げが上がる!

・新製品で新しい技術を搭載したら〜 売れる!

等々。方針発表で上司が重々しく言っていることを、「あたりまえ体操」に乗せてみたら、面白いくらい成立する。こいつら、こんな当たり前のことを言うために、わざわざ高い金払って市民ホール等を貸し切って、数百人の社員の1日の給料を無駄にしていたのか。

そう理解した私は、以降の方針発表は市民ホールのゆったりとした椅子で、堂々と安眠する時間となった。そして、事ある場面で上司の発言を「あたりまえ体操」に乗せて、上司の資質を測流ようになった。

それからあるとき、O課長による部署の方針発表があった。発表後、O課長が「私の方針について、質問があったら言って欲しい」と言った。

私は全く興味が無かったので黙っていた。しかし、後輩が面白い質問をして、O課長が非常にわかりやすい無能リーダーたる回答をしたので、未だに記憶に残っている。

後輩「方針にチーム力向上とあります。O課長は、『仲が悪いが、成果を出すチーム』と『仲が良いが、成果が出ないチーム』のどちらが良いと思いますか?」

O課長「どっちもダメだ。成果を出すチームが、仲が良くなったら、もっと成果が出るようになる」

成果を出すチームが仲が良くなったら〜 もっと成果が出る!

もう本当に、これ以上無いくらい、「あたりまえ方針」で回答してくれた。

強いてO課長を擁護するならば、この時点でO課長の株価はストップ安で底値になっていたので、これ以上下がらなかったことくらいだろうか。

皆さんも是非、上司の方針・施策・発言を「あたりまえ体操」に乗せてみて、優秀なリーダーか無能リーダーか、見抜いてください。

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宮寺達也 パテントマスター/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。

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宮寺 達也
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