【映画評】しゃぼん玉

2017年03月09日 06:00
しゃぼん玉 (新潮文庫)

伊豆見は、親に捨てられ愛情を知らないまま、自暴自棄になって通り魔となる。老人や女性を襲って強盗を重ねて逃避行中の彼は、宮崎県の山深い村に足を踏み入れる。ケガをした老婆スマをなりゆきで助けたのがきっかけで、彼女の家に居候することに。最初は金を奪って逃げるつもりだったが、スマや、村人たちとの交流の中で、伊豆見の心に変化が生まれる…。

親の愛を知らずに犯罪を重ねて生きてきた若者の心の再生を描く人間ドラマ「しゃぼん玉」。原作は人気作家・乃南アサの小説だ。すさんだ人生を送ってきた若者が、素朴な村とそこに住む人々の優しさに触れて、変化していくストーリーは、一見平凡なようだが、何と言っても、物語の舞台となっている宮崎県椎葉村の風景が素晴らしく、こんな場所ならば心の再生もあるだろうと納得してしまう。この地域は、日本三大秘境と呼ばれていて、椎葉村周辺には多くの神話が伝わり、平家の落人伝説も残る民俗学発祥の地だそう。なるほどその風情は、どこか外界から切り離された隠れ里のようだ。そんな場所に迷い込んだ主人公の伊豆見は、犯罪を重ねる粗暴と、悲しみを内包する繊細が同居する青年である。彼は、天然な老婆スマと暮らし、厳しくも愛情深いじいちゃんを手伝ううちに、自然と共に生きる規則正しい暮らしを身に着け、浄化されていくのだ。

10年ぶりに村に戻ってきた女性の過去、道を踏み外した息子を持つスマの寂しさなど、時には厳しい現実もあるが、それでも村人はどこまでも素朴であたたかい。すさんだ都会と純朴な田舎という対比は、ステレオタイプではあるが、伊豆見の再生には、椎葉村の澄んだ空気が必要だったのだ。ラスト、再び村を目指す主人公の未来を応援したくなる。「日本昔ばなし」の声でおなじみのベテラン女優・市原悦子はもちろん、主人公を演じる林遣都も好演だった。

【60点】
(原題「しゃぼん玉」)
(日本/東伸児監督/林遣都、藤井美菜、市原悦子、他)
(再生度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年3月8日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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