ピーチ、ANA子会社化の衝撃(3)カギ握る親会社との「距離感」 経営の自主性保てるか

2017年03月09日 11:37

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空から見た関西国際空港

空から見た関西国際空港

電撃的な買収劇となったANAホールディングス<9202>による格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションの子会社化。2月24日夜に開かれた記者会見には、ピーチが本拠を置く関西国際空港にANAの片野坂真哉社長が駆け付けた。ANAの本社がある東京・汐留ではなく、ピーチのおひざ元で会見を開いたことに、ANAのピーチに対する配慮が見え隠れする。しかし、資本構成が変わることでピーチの経営や利用者にどんな影響があるのか、まだはっきりしない。

新興航空会社、大手との提携はもろ刃の剣

ANAが新興航空会社と資本業務提携をするのは今回が初めてのことではない。過去にも北海道国際航空(現エア・ドゥ)、スカイネットアジア航空(現ソラシドエア)、スターフライヤーなど地方を拠点とする航空会社に対する出資や提携を行ってきた。ただ、その経緯や提携の方法は、どちらかというと、ANAによる支援色が強いものであった。

出資比率は2割未満に抑えるが、航空機整備の受託や航空券の販売システムを提供。一方で、新興航空会社が運航する便の一部座席を買い取り、ANAの顧客に対してANAの航空券として販売する、いわゆる「コードシェア」と呼ばれる取引を行った。

新興航空会社から見れば、大手航空会社との提携は「もろ刃の」といえる。出資を受ければ、資金面で経営は安定するし、整備の負担を軽減することができ、ITシステムも自社開発しなくて済むようになる。半面、大手航空会社に一定の業務委託料を支払うことで、独自のコスト削減の余地が乏しくなる。販売システムをANAに頼ることで、機動的な運賃の変更も難しくなる。この結果、利用者にとっては大手よりは少しは安くなっても、劇的に運賃を下げることが難しい状況が生まれた。

これは大手航空会社による新興航空会社の実質的な「系列化」と言える。出資比率は2割未満だから、会計上は持ち分法適用会社にならない。日本では、新規航空会社の育成を促すため、新たに生まれる羽田空港の発着枠を新興航空会社に優先的に配分してきた。出資比率が2割未満であれば、新興航空会社に配分された発着枠をコードシェアを通じて大手航空会社が利用し、実質的に路線や提供座席数を拡大することが可能だった。

ANAと正面衝突したスカイマークの破たん

こうしたANAの手法に対して、真っ向から異論を唱えてきたのがスカイマークだった。スカイマークは旅行会社のエイチ・アイ・エスが母体となって1996年に設立。和製LCCの元祖とも言える存在で、割安な運賃を武器に乗客を伸ばしてきた。一時は大手航空会社の対抗値下げに苦しんだが、2004年にITベンチャー出身の西久保慎一氏が社長に就任すると需要の大きく見込める路線に経営資源を集中するなどして業績を回復させた。機内で客室乗務員にミニスカートの制服を着せるなど、物議をかもした一件もあったが、ITシステムを自社開発して大手に運賃競争を仕掛けるなど独自の経営を進め、大手2社に対抗する「第3極」としての存在感を示していた。

転落の原因になったのは、急速な円安による燃料費の高騰。そして国際線進出を狙って発注したエアバスの超大型機A380を巡る違約金だった。同社は自力再建を模索するが、出資者が現れず、2015年1月、民事再生法の適用を申請したのは記憶に新しい。

その後、投資ファンドのインテグラルとともに再生支援に名乗りを上げたのがANAホールディングスだった。ANAはスカイマークに16.5%を出資、ANA便とのコードシェアなどを通じて再建を支援するとみられていた。

破たんしたとはいえ、本来ではライバルだった企業に手を差し伸べたのは、羽田の発着枠を多く持つスカイマークが日本航空など他陣営にわたることを恐れたとの見方がある。

しかし、ANAの思惑とは異なり、コードシェアは実施に至っていない。販売システムをANAに依存することによって、経営の自主性が失われることをスカイマーク側が懸念しているとみられる。株式の過半数を握るインテグラルがスカイマークの将来の再上場を目指しているとみられ、ANAに対してけん制する役割を果たしていると考えられる。

議決権の3分の2獲得、ANA主導強まる

翻ってピーチではどうか。今回の資本移動で、ANAの出資比率は38.67%から67%に高まる。議決権の3分の2以上を所有することによって、株主総会での特別決議の議案を単独で通せるようになる。役員の選任など経営の重要事項もANAの意向を反映した要素が強くなる。

反対に外部の投資家比率は33%に低下する。24日の記者会見には、ピーチの創業期からの株主である官民ファンドの産業革新機構と香港の投資家であるファーストイースタンの姿はなかった。実際の株式譲渡は4月だが、すでにANA主導が色濃くなった印象を受ける。

とはいえ、外部の投資家の持ち分はなお33%残る。彼らが株主として影響力を行使するうちは、ANAもピーチの現経営陣の自主性を尊重した経営を行うのではないだろうか。航空業界には「大手航空会社のLCC子会社は成功しない」との通説がある。LCCにとっては常識にとらわれず、新たな取り組みでコストを下げられるかが重要だからだ。

ピーチは井上慎一最高経営責任者(CEO)のリーダーシップの下で、従業員から様々なアイデアを吸い上げ、新たな挑戦をしてきたことが今日の躍進につながっている。ピーチは創業期から親会社の出資比率を3分の1に抑えたことや、本社が大阪で、地理的にもANAの本社がある東京と離れているという、適度な距離感があったことが、経営の自主性を支えていたと考えられる。

完全子会社化か上場か、命運握る残りの33%

そんな中でもANAの子会社になるのは、今後の事業拡大をにらんでのことに違いない。ピーチは現在18機を運航するが、2020年までに35機、将来的には100機体制とすることを視野に入れている。実現には多額の資金調達に加えて、整備体制の拡充やパイロットの養成も必要。ANAと連携できることにメリットはあるのだろう。

ピーチ株の残りの33%を将来、投資家が売却するときに、ANAが全部を買い取って完全子会社化にするのか、それとも、新規株式公開(IPO)するなどして、外部の資本を入れてさらなる成長をめざすのか。いずれにせよ、個社の利益のみならず、日本の航空業界の発展や利用者の便益につながるかという観点で今後もピーチを支えていってほしい。

文:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2017年3月8日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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