日立物流、M&Aで「親離れ」加速 佐川急便との統合も視野

2017年03月11日 06:00
画像はイメージです

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日立物流<9086>がM&Aを駆使してグローバルな総合物流会社へと変身を遂げている。日立製作所の物流子会社というのは、もはや過去の話。企業の物流業務を包括的に受託する3PL事業を伸ばし、大手企業の物流子会社を次々と買収しつつ、クロスボーダーのM&Aにも取り組む。2016年3月には佐川急便との資本業務提携を発表し、将来の経営統合も視野に入れる。実現すれば売り上げ規模で国内2位の物流グループが誕生することになる。

【企業概要】物流業務の包括受託サービス

日立物流グループは、日立物流と連結子会社108社、持分法適用関連会社9社で構成され、顧客に対して、陸、海、空を網羅した総合的な物流サービスを提供している。1950年に日立製作所の輸送部門を請け負う物流子会社として創業、日立製作所の工場構内作業の一括受注、国内外における超重量物の輸送を引き受けるなどして業容を拡大した。また、物流情報システムの構築に早期に取り組み、企業の物流業務を包括的に受託するサービス(サード・パーティー・ロジスティクス 以下「3PL」という)を充実させ、日立グループ以外の顧客からの実績を拡大させている。

2016年3月期の売上収益は6803億円。国内物流会社としては、日本郵便、日本郵船、日本通運、商船三井、ヤマトホールディングス、川崎汽船、SGホールディングスに次ぐ8位の売上高である。物流会社の中でも陸運・倉庫業者に絞ると5位の売上高である。

日立物流のセグメントは、国内物流、国際物流、その他に分類され、2016年3月期の売上高では、国内物流4050億円、国際物流が2531億円、その他が221億円となっている。

なお、2016年3月期の日立製作所からの運送、作業受託取引は83億円となっており、全体に占める割合は1.2%と大幅に低下している。

【経営陣】生え抜き人材が経営を支える

日立物流は、経営監督機能と業務執行機能を分離する指名委員会等設置会社形態を採用している。執行役及び執行役会が業務執行を、取締役及び取締役会が経営監督機能を担う。

代表執行役の中谷康夫氏は、1978年入社で取締役を兼任している。執行役専務の神宮司孝氏は79年入社で同じく取締役を兼任している。両名とも日立物流生え抜きの人材で日立物流を支えている。一方で、執行役専務の飯田氏をはじめ、執行役、取締役の一部は日立製作所出身者であり、日立製作所との関係性が伺える。

【株主構成】日立製作所、SGHDが3割弱保有

日立製作所の物流子会社として設立され、1989年に東証二部に、1990年に東証一部に上場した後も、日立製作所の子会社として企業統治がなされていた。

流れが大きく変わったのが2016年。2016年3月に日立物流は、SGホールディングス及びグループの佐川急便との資本業務提携契約を締結。この提携により、日立製作所が所有する日立物流の株式59.02%のうち29.01%をSGホールディングスに譲渡している。2016年9月末時点で第1位の株主は29.95%で変わらず日立製作所であるが、SGホールディングスが28.94%を所有し第2位の株主となった。現在、両社の持分法適用会社となっている。

「” ロジスティクス事業 “と” デリバリー事業 “の融合」をテーマに掲げ、双方の3PL事業における強み、豊富なノウハウや顧客基盤、佐川急便の輸配送能力、日立物流のロジスティクス・テクノロジーを最大限に活用していく。これらにより、3PLとデリバリーがシームレスにつながる総合物流の提供が可能となり、「世界に挑戦する物流企業」として、企業価値の最大化を図ることのみならず、物流業界が担う社会的な使命に応えていけるとした。

これにより両社を合算した売上規模ではヤマトホールディングスを抜き、首位の日本通運に続く2位グループが誕生することとなる。経営陣が統合に向けた意気込みがあると公言しており、今後、いつ具体的な取り組みが開始されるのか注目したい。

【M&A戦略】国内外の物流会社を次々と買収

日立物流が過去に実施した主なM&Aの特徴は、①国内における物流子会社の買収と②クロスボーダーM&Aである。

①国内物流子会社買収 顧客と人材を確保
日立製作所の物流子会社として、日立製作所から安定した業務収入があるものの、日立製作所の業績に左右されることや、業績の拡大や経営改革が進まないといった課題もあった。この課題を解決するために、日立製作所の物流業務の一括受注で培った3PLのノウハウを活かして、日立製作所以外の業務の受注を進めていく。その拡大方針に沿った形でM&Aも位置付けられた。特に、日立物流と同じ境遇、すなわち物流子会社のM&Aを重ねていく。

物流子会社のM&Aは、日立物流のノウハウが最も活かせるM&Aである。外部の仕事を競合他社から奪い取るには時間と労力が必要となる。既に業務を行っている競合他社は、蓄積された顧客情報や独自のノウハウに基づきサービスを提供することで顧客から信頼を得ており、競合他社を上回るソリューションを提案するのは容易ではない。この点、M&Aを行う事で、顧客とともに、その顧客にフィットしたノウハウや人材を確保することができ、スピード感をもって業績の拡大を行う事が可能となる。

国内における物流子会社の買収の中では、2011年4月のバンテックの買収が特徴的である。バンテックは、自動車部品輸送を中心としたロジスティクスと航空・海上フォワーディングの二つを事業の柱とする総合物流会社である。1954年に日産自動車の物流子会社として設立され、2001年にMBOにより日産自動車から独立した経緯のある会社と、1976年東京急行の子会社として設立され、2004年に同じくMBOで独立した経緯のある会社が2005年に統合した誕生した。2007年9月に東証1部に上場しており、2010年3月期の売上高が1,131億円であった。買収は公開買い付けにより行われ、84.75%を取得、買収価額は489億円となった。

日立物流の2011年3月期の売上高が3687億円であったのに対して、当時の経営目標は2012年度に連結売上高5000億円、バンテックの買収がなければ、達成はまず難しかったであろう。2010年9月頃より、交渉が進められていたようであるが、日立物流としては必ず成約させなければいけない案件であったに違いない。

その後、バンテックは完全子会社化されるとともに、日立物流グループ内においてフォワーディング事業を分割により統合するなどの変遷を経て、現在においても、日立物流グループにおける重要な子会社として位置づけられている。

バンテックの買収以外では、2005年にカーオーディオ大手クラリオンのグループの物流部門、2006年に資生堂の物流子会社(売上高183億円)、トークツ・グループの物流子会社でシューズ配送を中心に事業運営を行う物流子会社、2009年オフィス家具什器大手の株式会社内田洋行の東日本エリアの物流子会社、2010年インキ等の化学業界大手のDIC株式会社の物流子会社(売上高177億円)、2011年に麺類メーカー大手のシマダヤの物流子会社 (売上高3億円)、2012年日立電線の物流子会社(売上高141億円)と次々と買収を進めている。これらの親会社の業務が獲得できている事は容易に想像できる。日立物流の3PLのノウハウを活かしシナジー効果を発揮できる案件をターゲットにする姿勢が明確だ。

②クロスボーダーM&A 売上高770億円上積み
日立物流のM&Aのもう一つの特徴は、クロスボーダーM&Aである。海外の物流業務は、それぞれの国の法令や商慣習、顧客の要求が国内と相違しており、また、現地の物流会社や国際大手物流会社との競争環境があり、国内の物流業務と比較して更に業容の拡大が難しい。

ただ一方で、少子高齢化や競争環境、ドライバー不足等、国内における物流業界は課題が山積しており、物流業界の将来性には疑問が残るといわざるをえない。国内の物流会社は、持続的成長のために海外に目を向ける必要がある。また、国内の顧客企業においても、持続的成長のために海外展開を加速させており、国内顧客の期待に応えるサービスを提供するためにも、海外物流網を構築することが重要課題である。この点、日立物流は、M&Aを効果的に活用し、海外の業容を拡大させている。

また、各案件は、それぞれバンテックの買収ほど、売上高へのインパクトはないものの、国内における物流子会社の買収と同じように、クロスボーダーM&Aもコンスタントに実施しており、全体としては売上高の増加に大きく貢献している。

2007年にチェコの物流会社(売上高130億円)の買収、2008年には中国で合弁企業の設立(のちに子会社化)、2009年に米国の物流会社(売上高100億円)の買収、2010年にインドの大手フォワーディング会社(売上高73億円)の買収、2011年にタイの物流会社(売上高27億円)の買収、2013年5月に米国の物流会社(売上高100億円)、2013年6月に香港の物流会社(売上高140億円)、2013年7月にトルコの物流会社(売上高200億円)と手を打ち続けている。これらの会社のM&A実施時の売上高を単純に合計すると770億円となり、日立物流の売上高の成長に寄与している。

【財務分析】バンテック買収で売り上げ伸長

日立物流のセグメントは前述のとおり、国内物流、国際物流、その他に分類される。図1が、現在のセグメントとなった2003年3月期以降のセグメント別売上推移である。全体の売上高は、2003年3月期で2489億円、2016年3月期で6520億円と2.6倍となっている。

図1

図1

初めに着目すべきは、バンテックを買収した影響が大きい2012年3月期である。国内物流セグメントで売上高が2568億円から3864億円と50%増加、国際物流セグメントで売上高が931億円から1486億円に60%増加している。国内物流セグメント、国際物流セグメントとも重要なターニングポイントとなったM&Aである。

また、もう一つ着目すべきは、国際物流セグメントである。2003年3月期で517億円であった売上高は2016年3月期で2531億円と約5倍に成長している。これも、バンテックの買収とその他のクロスボーダーM&Aの影響が強い。

図2

図2

図2は、日立物流の「のれん」を含む無形資産と総資産、純資産との割合の推移である。数値の入手できる2008年3月期以降を抽出している。日立物流の「のれん」は2016年3月期で295億円、その他の無形資産が390億円で合計685億円となっている。総資産4643億円、純資産2022億円と比較すると、総資産に対して14.8%、純資産に対して33.9%の水準だ。

M&Aを積極的に展開している会社の特徴は、総資産や純資産に対して「のれん」を含む無形資産の割合が高いことである。日立物流においては、2011年3月期まで低水準であった割合が、バンテックの買収により、高まっている。2011年3月期の「のれん」を含む無形(固定)資産は186億円であったが、2012年3月期には627億円と3.3倍に増加した。総資産、純資産に対する割合も、2011年3月期に総資産に対して7.5%、純資産に対して12.3%であった数値が2012年3月期には総資産に対して17.2%、純資産に対して38.1%に上昇している。

また、2015年3月期より会計基準を日本基準より国際会計基準に変更している。国際会計基準は、日本基準と違い「のれん」を償却しない。M&Aにより計上された「のれん」の償却負担が生じないことから、M&A直後から利益を計上しやすくなる。M&Aを積極的に展開している日本企業が採用する傾向にある。過年度より積極的にM&Aを展開してきた日立物流であったが、今後も、M&Aに積極的な姿勢であることが想定される。

【株価】日立の株売却をこなし上昇

株価はアップダウンを繰り返しながらも上昇基調で推移している。2016年3月の佐川急便との資本業務提携で、長らく親会社だった日立製作所が株式を一部譲渡するとあって、当初は先行きを不安視する売りが出たもよう。しかし、その後は中長期的な物流需要の拡大や提携効果の実現への期待感が高まり、株価は2016年末に2400円台まで上昇している。

今期の予想PER(株価収益率)は約14倍。同業の日本通運<9062>の約16倍と比べて株価には割安感もある。今後も堅調な値動きが期待される。

【まとめ】明確な戦略、M&Aで持続的成長

日立物流は、日立製作所以外の業務の受注を目指してM&Aを積極的に行ってきた。結果として、現在、日立製作所に対する受注の割合は低下し、日立製作所以外の受注の増加により売上が大幅に増加、企業の持続的成長を果たしている。M&A戦略が成功しているといえる。特に、日立物流としてシナジー効果を発揮できる物流子会社のM&Aを数多くターゲットとしており、明確な戦略に基づきM&Aを実施している会社といえる。

また、将来的に国内市場が縮小されると予想される物流業界において、海外展開の手段としてクロスボーダーM&Aを積極的に展開する日立物流に見習う点は多い。

また、2016年3月期のSGホールディングス、佐川急便との資本業務提携は、現状、期待通りで、良いスタートが切れてきているようだ。プロジェクトメンバーが活発で、現場でのコミュニケーションが進んでいる。「日中一貫サービス」や「物流施設の相互活用」等の協創の具体的な案件が現場レベルから提案されている。日立物流としての当面の増収目標は500億円としているが、当然、将来的な統合に向けた具体的な取り組みにも期待したい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2017年3月7日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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