人間の価値は本当に平等か

2017年03月10日 11:30

当方はこのコラム欄で「『不平等』は本当に“公平”の結果か」(2017年1月21日参考)を書いたが、今回は少し視点を変えて「人間の価値は本当に平等か」について考えてみたい。

先ず、「人間は生来、平等ではない」。生まれた時から、遺伝子は異なり、その能力は異なる。知的能力だけではなく、肉体的能力も含め、人間が関与する全ての分野で人それぞれ異なっている。
全てが等しければ、極端な話だが、大学入試もオリンピック大会も不必要となる。幸い、「人間は平等ではない」から、大学入試もスポーツ大会もその意義を失わない。社会は選択のために体制、システムを準備する。

当方は久しく「人間は地位では平等でないが、その価値は平等だ」と考えてきたが、最近は「“現実の社会”では、そうではない。人間は不平等な立場で生まれ、その価値も平等ではない」という考えに余り反発心が沸かなくなってきた。当方の人間観がニヒリズムに陥ったわけではない。説明する。

「人間の価値」を判断するのは通常は社会だ。そして社会は不平等な状況下で生まれた人間の知的、肉体的能力の差を数量化し、測定する。その結果に基づき、人間を適材適所に配置する。そして人間の「価値」にも自然と相違が付けられる。会社から大学、ホテルからレストランまで一定の基準に基づいてランクがつけられる。誰も声を張り上げて言わないが、「人間は平等ではないし、価値も等しくない」のだ。

安定した社会とは、人間の平等と公正、価値に対し、可能な限り数量化(例・大学入試の偏差値)し、誰の目にも納得できるような体制が構築されている社会といえるだろう。

各時代の社会が「これは価値がある」「価値がない」と決める。例えば、古代社会では肉体的な強弱が評価の基本となり、知的な能力は問われなかった。時代が進むと、知的レベルの高い人間が台頭し、社会をリードするようになっていくと、知的能力の有無がその人間の価値の高低を決めていく。すなわち、人間の価値も時代によって異なってくるわけだ。例えば、IT時代の今日、コンピューターに長けた人間が求められ、高く評価される。

参考までに、人工知能(AI)が発展すると、人間の知的相違への価値は低下し、創造力、芸術性などの分野により多くの価値が付与され、その能力を有する人間が価値あると見なされるかもしれない。明確な点は、人間の価値はあくまでも生きている時代、社会の要望に基づいて下されるから、不変ではない。しかし、人間はその変わりやすい時々の価値観に左右されながら生きていく。

ところで、「知的、肉的能力で差はあるが、人間としての価値は本来、平等だ」という主張が出てくる。当方も基本的にはそのように考えている。釈尊の「天上天下唯我独尊」ではないが、知的、肉体的能力の違いに関係なく、人間としての存在価値(尊厳)は平等だ、という考えだ。

「世界人権宣言」に言及するまでもなく、人間は本来、出身、民族、性差の相違に関係なく、平等であり、同じ価値を有した存在だ。ただし、この主張の弱みは、その価値基準を数量化して説明できないから、「現実の社会ではそうではないよ」という批判を受ければ、反論に窮してしまうのだ。

不平等さを感じ、公平に扱われていないと感じる人間が増えれば、その社会は自然と不安定となる。何らかの契機や扇動者が出てくると容易に暴発する。そのような社会で生きている人間も幸福ではない。

そこで政治家や為政者は、スタートラインでの不平等さを可能な限り縮小する支援体制を構築する一方、人間の発展プロセスから生じてくる価値の不平等、不公平さを是正する為に腐心するが、その目標を達成する為には、人間の価値を宗教的な観点からとらえる教育が不可欠となる。

日本では戦後、宗教教育や道徳・倫理教育がないがしろにされてきた。人間の価値を普遍的な価値まで止揚する宗教教育は無視され、選択の原理(進化論的教育)が重視されてきた。その行き着く先は、米国型のワイルドな資本主義社会だ。現代の課題は、普遍的価値観を擁護する世界観、人間観の回復だろう。その為には、「宗教はアヘンだ」という史的唯物論者からの批判にも耐えられる宗教的倫理が願われるわけだ。

具体的には、人間が生来備えている“良心の世界”だ。キリスト教、仏教、イスラム教など全ての世界宗教の教えは基本的には人間が有している良心の覚醒を求めているわけだ。

オーストリアの精神科医、心理学者、ヴィクトール・フランクル( Viktor Emil Frankl,1905~1997年)は「如何なる人間の人生にも意味がある」と述べ、人間の本源的価値を強調している(「どの人生にも『意味』がある」2015年3月27日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年3月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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