【映画評】哭声/コクソン

2017年03月14日 11:30

警察官のジョングが妻子と暮らすのどかな田舎の村に、得体のしれないよそ者が住み着く。山の中に住むその男が何者かは誰も知らなかった。男について様々な噂が飛び交う中、村人が自身の家族を惨殺する事件が多発する。犯人の村人たちには、虚ろな目と湿疹でただれた肌をして、言葉を発することもできない放心状態で現場にいるという共通点があった。ジョングは事件の捜査を担当するが、ある日、自分の幼い娘ヒョジンに同じ湿疹をみつける。ジョングは娘を救うためによそ者を追い詰めるが、そのことがさらなる混乱を招いていく…。

平和な村で起る連続猟奇殺人事件が予想もできない事態を招く骨太なサスペンス・スリラー「哭声/コクソン」。上映時間156分の長尺だが、まったく長さを感じない。映画は、閉塞的なコミュニティーで発生した事件を巡るサスペンスで始まり、噂と疑心暗鬼の心理劇へ向かう。その後、血まみれの惨殺事件は猟奇殺人あるいはゾンビものに変化。さらに祈祷師の登場でエクソシストばりのオカルトへと舵を切る。時折挿入されるドライな笑いも絶妙だ。もはやジャンルという枠からは完全に離脱しつつ、根底には映画冒頭で引用される聖書の言葉の通り“信じるとはどういうことなのか”という命題を常につきつける。

「あなたが見ているものは、本当に真実か?」。この言葉があまりに不穏に響くのは、よそ者を怪演する日本のベテラン俳優・國村隼の狂気の熱演によるところが大きい。山中を転げまわり、滝に打たれ、異様な儀式に身を投じる。決して若くはないこの演技派の、身体をはったアクションと役者魂に感動を覚えるだろう。ナ・ホンジン監督は「チェイサー」や「哀しき獣」でも凄惨な暴力や不条理を通して、非情な現実を描いてきたが、本作での底知れない不気味さはもはや別次元だ。結末はぜひ劇場で確かめてほしいが、得体の知れない恐怖に背筋が凍る。祈祷シーンのワンカットでの長回し、ポツンと街灯がついた村道の光と影の対比など、映像的にも見所が多い。観る者をわしづかみにする超ド級の怪作だ。
【75点】
(原題「THE WAILING」)
(韓国/ナ・ホンジン監督/クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、他)
(疑心暗鬼度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年3月13日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式YouTube予告動画より)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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