富士通、「虎の子」を使い切り、背水の陣でM&Aに挑む

2017年03月18日 11:00
画像はイメージです

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今年1月1日に開かれた第96回天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝で鹿島アントラーズに破れ、悲願の初タイトルを逃した川崎フロンターレ。その株主に名を連ねる富士通<6702>は国内最大手のシステムインテグレーターである。富士通は技術革新に合わせてM&Aも活用し、様々な事業に進出してきた。過去には海外企業買収で巨額損失を抱えたが、虎の子の優良子会社売却でなんとか体力を温存。技術力を磨いて再び世界に挑戦しようとしている。

【企業概要】富士電機の電話部門が設立母体に

富士通は、富士電機製造株式会社(現・富士電機株式会社)から電話部所管業務(交換、伝送)を分離し設立された。元々、富士電機製造株式会社自体は川崎市でもかなり海沿いにあり、海の近くでは、湿気、さびの問題で、通信事業が難しいことや東京電機(後の東芝)との業務提携契約に起因し少し内陸の川崎市中原区に会社を新設した。

以来、有線電話、無線、自動計算器、汎用機(企業向けの基幹PC)、コンピュータ、携帯電話、と、いわゆるシステムインテグレーターとして、常に時代の技術革新と共に歩み、また国内の最大手として、業界をリードし続けている。

その生い立ちから、富士電機グループとして存在していたものの、富士電機が業績の悪化などの理由から徐々に株式売却を行い、1965年に保有率が50%を切り、グループ会社から事実上の独立を果たした。

一方で、現在に至るまで筆頭株主は常に富士電機の為、関係性が途切れた、というわけではない。

現在、富士通は国内関係会社97社、海外関係会社217社でグループ構成している。国内のみ取り上げたが、関係性は以下の通り。

富士通はこの業界地位を、買収、合弁会社設立、持株の売却など様々なM&Aを積極的活用し、確立してきたと評価することができる。また、自社部門が独立したファナックや富士通テンなどの上場も、大きな資金調達の要因となったことに相違ない。

富士通は現状、3つのセグメントで成り立っている。それぞれ、テクノロジーソリューション、ユビキタスソリューション、デバイスソリューションという枠組みになっており、現状の売上比率は以下のとおりである。

メインのテクノロジーソリューションは、企業・官公庁向けのシステムインテグレーションなど、ユビキタスソリューションはPCやスマートフォン向けの製造販売、デバイスソリューションは、LSIや電子部品等を取り扱っている。

なお連結子会社のニフティについては、2017年4月1日付でニフティが持つインターネット接続サービスなどのコンシューマ向け事業会社とクラウドを中心とするエンタープライズ事業会社向け事業会社に再編し、コンシューマ向け事業会社の全株式を家電量販店のノジマに譲渡することを決定している。

【経営陣】田中社長、2015年に就任

現在の田中達也社長は1980年に富士通入社。2015年6月に現会長の山本正巳氏からバトンタッチで社長に就任した。60歳。山本氏と田中氏が代表取締役となっている。

【株主構成】富士電機が11%を所有

富士電機が今も11%を持つ筆頭株主である。ほかは信託銀行など株主が分散している。

【M&A戦略】ITサービス、クラウドを強化

富士通の行ってきたM&Aは以下の通りである。

国内外を問わず、次々とM&Aを仕掛けている。買収だけでなく、売却も同時に進めているのが大きな特徴だ。

2009年にコンデンサ事業をニチコンに、HDDドライブ事業を東芝に譲渡するなど、ハードウエアの部品関連事業は縮小傾向にある。2012年には半導体事業の工場、製造拠点の譲渡も行っている。ただ、携帯端末事業、パソコン事業は分社化をしながらも事業を継続しており、ハードのなかでも消費者寄りの事業を重要視している姿勢がうかがえる。

一貫して強化しているのはソフトウエアや通信、クラウドコンピューティングの分野である。 2000年代半ばから後半にかけて欧米のITコンサルティング、ITサービス会社を矢継ぎ早に買収している。最近では、コンピュータ通信業界にいち早くから乗り出し、事業の屋台骨としていたニフティを2016年7月に100%子会社とし、その再編を行った。

富士通はニフティのクラウド事業に着目し、自社の範囲外のISP事業は2017年4月にノジマへ売却という形で再編を行う予定である。

また2015年のリリースではM&Aに1000億円の投資を示唆するなど、非常に積極的な姿勢が見て取れる。この積極的な姿勢を支えるのは既存の財務体質と、ファナックという自社子会社の中のメガヒットの隠し玉があったからこそである。

ファナックは、富士通の計算制御部から独立した子会社で、山梨県忍野村に約50万坪の本社工場を持つ電気機器メーカーである。工作機械用NC装置において、世界で約50%、国内で70%にも達するシェア率を誇り、産業用多関節ロボットにおいても世界首位である。

【財務分析】ファナック株売却で損失吸収

富士通の自己資本比率の推移を見るに、高い水準とはいいがたいもののある程度安定しているように見受けられる。大幅な赤字を計上することもちらちら見受けられるが、そのたび、ファナック株式を小出しに売却していき、有利子負債の圧縮要因、並びに業績の化粧としていた。

具体的には、ファナックの株式につき度々に渡る売却を行っている。2003年9月発行済株式数の約4.59%を約554億円で売却、2003年12月には発行済株式数の約14.6%を1621億円で売却している。

さらに、富士通においては、M&Aに伴う大きな失敗事例がある。1990年に行った、以前からの業務提携関係にあった英国ICLの案件である。

当時、激化するコンピュータ業界の販売競争の中で、富士通として欧州エリアの営業を優位展開していくためには、拠点の確保が不可欠であった。当時、ICLは資金調達面で苦境を強いられており、競争に勝てるだけの研究開発費の調達が難しいとの判断に至った。

結果として富士通は、欧州地域の展開加速の足掛かりとすべく、1890億円にてICL株式の80%を取得した。富士通は事実上、電算機分野で世界2位となり、IBMを追撃する体制を整えた。その後98年には完全子会社化。その後も富士通の欧州の拠点としてドイツ企業を買収するなどして累計投資額が3500億円を超えたが、業績は悪化していた。結局、07年3月期個別決算で2900億円の評価損を計上した。この際にも、ファナック株式を売却し、約700億円の調達をしている。しかし、その虎の子はこの2009年の売却で全て尽きることとなった。

【株価】業績改善で持ち直し

株価は一時400円を割り込んだが、2016年夏ごろから持ち直ししている。国内ネットワークの増収効果やパソコンや携帯電話のコストダウン効果で業績が改善していることが背景にある。ニフティの完全子会社などの事業再編に積極的に取り組んでいることも株価の下支えになっているとみられる。

【まとめ】M&Aで戦うべきエリア明確に

総じていうと、富士通は非常に積極的にM&Aに取り組んでいると評価できる。同社の事業領域は広く、あらゆる箇所でシナジー効果が見込める一方、先述のニフティにおいてのISP事業の売却を決定するなど、自社が戦うべきエリアというものが明確化されている。

しかし、かつて5兆円あった売上高は現状は4兆円程度まで減っている。自社再編などの様々な施策をうっているものの、業績を成長軌道に回復させるには至っていない。

一方で、かつて話題となったスーパーコンピューター「京」が再び世界一位に返り咲いたり、新たな分野である人工知能「zinrai」の研究開発を行ったりと、今後成長の見込まれる新規市場にも積極的に参戦している。同分野では、米IBMなどの存在感が大きいが、日本のシステムインテグレーターの雄として今後のさらなる発展に期待したい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2017年3月14日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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