朝日新聞は「シャープ、亀山から撤退」誤報の反省を

2017年03月18日 06:00

3月15日に朝日新聞が報道した「シャープ、液晶TV国内生産撤退へ『世界の亀山』に幕」は、大変な反響を呼んだ。戴社長による「液晶のシャープの象徴」から撤退の決断は、日本人経営者には難しいダイナミックなものとして、衝撃であった。私が良く知る有識者もこぞって記事を拡散したり、コメントしていた。

しかし、私はこの朝日新聞の報道に疑問を持っていた。案の定、その日の午後には否定記事が出ることになった。

なぜ朝日新聞は誤報をしたのか、誤報が発生したら企業はどういう迷惑を被るのか、解説したい。

戴社長のインタビュー記事を比較する

朝日新聞が「シャープ、液晶TV国内生産撤退」を報道した3月15日、私はたまたま、「シャープは本当に復活したのか ?」という記事を書いていた。そのために様々な戴社長のインタビュー記事に目を通しており、もちろん朝日新聞も目を通していた。

「液晶TV国内生産撤退」は、シャープの復活を考える上で極めて重要な内容だ。しかし、私は他のインタビュー記事と比較して、どうにも辻褄が合わないというか、矛盾しているというか、違和感を感じていた。そのため記事では触れなかった。

記事を作成し、新田編集長にメールで送付した直後に否定報道に気付いたので、自分の注意深さにほっとしたものだ。

戴社長は3月14日に、朝日新聞・毎日新聞・日経新聞・共同通信・NHK等、各マスコミインタビューに応じている。その内容をまとめると、

・2018年度に液晶テレビの世界販売台数1,000万台を目標とする

・液晶テレビは日本においてはトップシェアを持っている。いまは液晶テレビを中心に事業を展開している。

・2020年代に、世界販売台数2,000万台を目指す

・亀山工場の人員を増やす

というものである。

「液晶TV国内生産撤退」は朝日新聞以外にどこも報じていない。むしろ2020年までは亀山工場も活用して、液晶テレビを強化していく内容である。

おまけに当の朝日新聞の記事をよく読んだら、戴社長の言葉は「国内では無理。海外生産しないと、シャープの液晶テレビが売れなくなってしまう」と出てくるだけで、「国内生産から撤退」とは全く言ってない。

戴社長は恐らくであるが、「国内生産の液晶テレビでは高コストなので、日本以外では売れない。世界販売を拡大するためには、海外生産の拡大が不可欠」という意味で話しただけではないだろうか。

もちろん、海外生産の拡大と、国内生産の維持は両立する。戴社長は「国内生産の液晶テレビを国内で販売」「海外生産の液晶テレビを海外で販売」という、現状に即した液晶テレビの販売拡大の方針を考えているのだろう。

戴社長は全てのマスコミに自分の考えを話したが、朝日新聞だけが勘違いしたというところではないか。

「世界の亀山」は日本ではまだまだ好調

国内生産の液晶テレビは高コストになり、国内でも売れなくなるという懸念はわかる。しかし、「世界の亀山」は日本ではまだまだトップブランドである。

シャープの経営危機が叫ばれたのは、2011年度の決算で巨額赤字(3800億円)に転落してからである。それからもう6年が経った。当時幼稚園に通っていた子供が中学生になろうかという長きに渡り、悪いイメージばかり報道されているシャープであるが、実は得意の液晶テレビではまだ踏ん張っている。

2016年の日本国内における液晶テレビの販売シェアは、共に2位を大きく引き離した1位である。40インチ以上で33.2%(2位はソニーの23.5%)、40インチ以下で36.4%(2位はパナソニックの20.1%)と、液晶のシャープ健在である。

日本でもシャープの液晶テレビが販売不振ならば、亀山から撤退して海外生産にシフトすするという考えもわかる。しかし、わざわざ好調な国内市場でブランド力を下げるような真似は愚策である。

もっとも、世界シャアにおいては4%と寂しい数字である。トップの韓国連合(サムスン・LG)は遥か彼方であるばかりか、国内では楽勝のソニー(6%)にも遅れをとっている。亀山工場が立ち上がった2005年、16%で世界シェア1位だった時代は遥か幻だ。

「世界の亀山」ブランドは、かつて本当に世界を席巻し、液晶のシャープの地位を盤石にした時代の輝きは失っているが、日本国内ではまだ通用する。

2020年代の前半まで短期的には液晶テレビに注力すると語っている戴社長にとっても、みすみすまだ使えるブランドを捨てる理由は無いだろう。

朝日新聞の誤報により、大勢のサラリーマンが残業する

このように、各社の戴社長のインタビューをまとめ、液晶テレビの販売動向を考慮すると、朝日新聞の誤報の理由が見えてくる。

朝日新聞の記者が戴社長のインタビュー内容をしっかり読まず、また液晶テレビの販売動向を少しも調べずに書いたための誤報だろう。記者の無知が招いた誤報であり、かつての「K・Y事件」のような悪質なものでは無さそうだ。

しかし、私は朝日新聞には大いに反省を求めたい。

こういう報道が出たら、された企業にとっては大問題だ。工場で働いている従業員はもちろん、部品メーカー、販売先、運送会社、補助金を出している市・県、株主、等々あらゆるステークホルダーへの誤解を早急に払拭するべく、正しい情報を準備しなければならない。

実際、シャープは報道された日の午後には「国内液晶テレビ生産方針」をマスコミ各社に発表した。報道が0時3分だったので、徹夜で資料を準備したのでは無いだろうか。

こういう緊急事態が起きるから、残業が発生するのだ!

朝日新聞は、電通の過労自殺のときから過重労働の防止を訴えてきた。ならば、どうかこのようなレベルの低い誤報で、大勢のサラリーマンを残業に追い込むことをやめてもらいたい。

もちろん、朝日新聞以外も同様だ。ここ数年、新聞記者の安易な取材が目立つようになっている。

翌日にはプレスリリースされる情報を「特ダネ」として報道し、企業が火消しに躍起になるという事態が相次いでいる。そんな報道でも、企業はステークホルダーとの約束を守るために、予定時間までは否定し、発表を修正したりと、現場は疲弊するのだ。

また最近では、読売新聞が「町長の談話を捏造する」ということまで発生し、新田編集長も心配しておられた。

日本企業から無駄な残業を減らしていくためにも、マスコミ各社の皆様にはきちんと取材した上で記事を書くことをお願いしたい。

参考記事リンク先:AV Watch朝日新聞毎日新聞産経新聞BCN AWARD東レ経営研究所


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宮寺 達也
パテントマスター/アゴラ出版道場一期生

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