東芝のフラッシュメモリ事業をアメリカ企業に買ってもらい、「日米連合」という幻想

竹内 健

東芝のフラッシュメモリ事業は4/1に分社化され、東芝メモリという会社になるようです。

そして原発事業の損失の穴埋めのために、東芝メモリは完全に売却されると言われています。メモリ事業は現在絶好調の上、データセンタ用途の市場の拡大も期待されるため、売却金額は1.5-2兆円にもなると言われています。

これだけの高収益事業、しかも日本が生み出した製品ですので、むざむざと外資系にくれてやるのはもったいない。

こういう時こそ、政府系の金融機関、政策投資銀行や産業革新機構の出番ではないか、と主張し続けてきました。

これは決して東芝を「救済」するわけではなく、ましてや東芝本体の「再建」になるわけでもありません。

もう随分前から(10年以上前から)東芝のメモリ部門の独立というのは何度も取りざたされており、本来はとっくの昔に分社化・独立してIPOをすべきだったのです。

今回の政府系の金融機関やファンドから出資を受けるというのも一時だけのことで、1-2年くらいかかるでしょうがIPOによってExitを目指すべきでしょう。IPOにより「政府系金融機関の投資へのリターン」として国民にも利益を還元する。

ところで、東芝メモリの買収先を巡る報道で気になるのは、政府高官(って誰でしょう?)の話として、アメリカ企業に買ってもらいたい、日米連合、などという報道もされています。

候補となるマイクロンやウエスタンデジタル(WD)はいくつもの企業を吸収・合併してのし上がって来た企業です。

WDの現CEOのスティーブ・ミリガンなど、WDの幹部をやっていたのに辞めてライバルのHGSTに移ってCEOになり、その後HGSTをWDが買収した時にのし上がってWDのCEOになったツワモノです。

アメリカの半導体企業のトップなどこういう人達ですから、東芝メモリが買収されたら「日米連合」などになるはずありません。

マイクロンなどはメモリの開発拠点がアメリカにありますので、日本からはエンジニアのキーパーソンだけをアメリカに呼び寄せて技術を吸収し、日本は単なる製造拠点になってしまうかもしれません。

マイクロンに買収されたエルピーダメモリはそんな状態ではないですかね。

買収される側に何らかの主導権が残る、と思うのは多くの場合は幻想です。

外資系企業が買収する場合、買収先の企業の上の方のマネージャーはクビを切り、自社からマネーシャーを送り込み、買収先を支配することが普通です。決して連携でも連合でもありません。

買収した方からしたら、支配することが当然なのです。買収先が大企業であるほど、買収先の自由を許していたら、組織を統括できませんから。

だからこそ、東芝のメモリは外資系企業、特に同業他社には買収されてはいけない、と思うのです。

それは買収先の国籍によりません。買収先が中国や台湾がダメで、アメリカなら良い、という事ではないのです。

ですから、政策投資銀行や産業革新機構が東芝メモリに出資するのならば、東芝メモリの全株式の51%以上(つまりマジョリティ)を取って欲しいのです。

翻って東芝の原子力事業を考えると、買収したウェスチングハウス(WH)にそうした支配・統制をできなかったからこそ、WHの暴走を招き、現在のような悲惨な結末になってしまったのでしょうかね。


編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2017年3月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。