「金正男暗殺事件」の北の容疑者の運命

マレーシアのクアラルンプール国際空港内の「金正男暗殺事件」が起きて1カ月以上が過ぎた。マレーシアの警察当局によると、ベトナムとインドネシア出身の2人の女性は殺人の実行犯として起訴された一方、犯行直後にマレーシアを出国した4人の北朝鮮人は重要容疑者として国際手配された。マレーシア居住の北朝鮮国籍のリ・ジョンチョル氏(46)は不起訴となったが、国外追放され、18日、北京経由で平壌に帰国したという。

5人の北の容疑者の名前と顔が明らかになった。犯行直後にマレーシアを出国した4人は、32歳のホン・ソンハク容疑者、リ・ジェナム容疑者(57)、リ・ジヒョン容疑者(52)、オ・ジョンギル容疑者(54)で、いずれも重要容疑者として国際手配された。ちなみに、今月6日に国外追放された駐マレーシアの姜哲・北朝鮮大使は18日に一時滞在していた中国から北に戻ったという。

そのほか、駐マレーシアの北朝鮮大使館所属のヒョン・クァンソン2等書記官(44)、高麗航空のキム・ウギル職員(37)の名前も挙がっている。ちなみに、マレーシアのザヒド副首相によると、315人の北朝鮮人がマレーシアに滞在中という。

そこで今回、帰国した姜哲大使を含む6人の北朝鮮人の運命を焦点に“その後”を占ってみた。

金正恩氏は、自身の異母兄であり、金ファミリー直系の金正男氏の暗殺がどのような意味かを熟知しているはずだ。金正恩氏が正男氏の暗殺を指令したという事実が明らかになると、国民の中でも怒りや反発が生まれてくることが予想される。だから、事件の詳細が北側に流れ込むことを極力阻止してきたはずだ。

北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)は先月23日、正男氏暗殺事件を初めて報じたが、「わが共和国公民が飛行機搭乗前に突然ショック状態に陥り病院に移送される途中で死亡したことは、思いがけない不祥事としかいいようがない」と報じたが、正男氏の名前も金ファミリーの親族関係者である事実も何も言及していない。

米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)が今月12日報じたところによると、金正男氏暗殺事件が北住民に広がることを防ぐため、中朝国境地域の住民を対象に携帯電話の使用を取り締まっているという。

さて、帰国した北工作員の運命だ。当方は当コラム欄で「『正男暗殺』の次は『正恩暗殺』?」(2017年2月21日)の中で、「北に帰国した4人の容疑者は遅かれ早かれ処刑される運命にある」と書いた。事件後1カ月以上が過ぎた今日もその確信は変わらない。

帰国した4人の北朝鮮工作員は所属部署で歓待を受けるだろうが、その時間は短い。金正男氏の暗殺を知る人間として、金正恩氏は彼らを生かしておくはずがない。暗殺内容が4人の口を通じて流れ出す危険性は排除できないからだ。金正恩氏は不安要因の4人の工作員を密かに処刑するだろう。工作員の中にはその危険性を感じ、脱北を図る者もいるかもしれないが、監視が厳しいので難しい。

当方はこのテーマで知人の韓国外交官と話したが、同外交官も「その可能性が十分考えられる」と受け取っていた。ひょっとしたら、4人の工作員だけではなく、その運命は姜哲・北大使大使にも当てはまるかもしれない、と考え出している。

姜哲大使は6日、マレーシアから国外追放された。そして18日に北京から平壌に戻った。すなわち、同大使は少なくとも10日間余り、北京の北大使館に滞在していたことになる。その期間、平壌から派遣された北関係者に尋問されたであろうし、中国関係者と接触したはずだ。要するに、同大使は北京で尋問を受け、帰国後の対応について新たな指令を受けたはずだ。この点が重要だ。北京経由で即帰国できない事情があったからだ。駐英のテ・ヨンホ北公使夫妻が脱北したばかりだ。北側は大使の動向に神経質になっている。

「金正男暗殺事件」に関与した北容疑者たちは遅かれ早かれ運命の日を迎えるだろう。金ファミリー関係者の「暗殺」は、加害者も後日、犠牲者と同じように処罰されるからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。