大企業の「忖度」で得する人・損する人

2017年03月27日 06:00

写真ACより

森友学園の問題は元豊中市民として興味はあるものの、あまりにも程度の低い話なのでスルーしてきた。

ただ、「忖度」(意味:他人の気持ちをおしはかること)という言葉が出てきたのは非常に興味深い。アゴラでも池田信夫氏が取り上げて注目が集まっている。郷原信郎氏も参戦され、官僚の世界における「忖度」の状況をリアルに解説された。

もちろん「忖度」は官僚や政治家の専売特許では無く、大企業でも重要なスキルだ。ただ、大企業の「忖度」は、使い方によっては得する人・損する人が出るところがちょっと違う。

あなたの「忖度」は得か損か、是非とも考えてみて欲しい。

上司の気持ちをおしはかる「忖度」=得する人

郷原信郎氏が「官僚は「忖度」で評価される。」と記事で書かれていたが、これは大企業でも同じである。「あたりまえ体操」で見抜くリーダーの資質という記事で書かせていただいたが、大企業のマネージャーはマネジメントスキルを評価されてその職に就いた訳では無く、年功序列で何となく順番が回ってきただけのおじさんがほとんどである。

だから、「3倍速PDCAでC社に勝つ」「世界一の設計部隊になる」「3年後に売り上げを20%UPします」「開発日程は厳しいが、○○は品質・コストで絶対に妥協しない」と、社員全員が「絶対に無理」と感じる目標や方針がバンバン出てくる。

ただ、厄介なことに言っている上司は案外本気だったりする。それは、若手時代に高度経済成長時代を経験してきたので頑張れば何とかなると本気で信じている場合だったり、単純にバカだから「数字は大きい方が良いに決まってる」という場合まで様々である。

だから、「○○課長、その目標は厳しいです。なぜなら~」と名探偵コナンよろしく「真実はいつもひとつ」と主張する勘の良い社員は嫌われる。

「絶対に無理な方針だけど、○○課長はバカだから本気でできると思ってるんだ」と課長の本心を「忖度」し、「いよっ!流石○○課長。素晴らしい方針です」と言える社員は得する人だ。どんどん出世していく。

私はメーカー勤務時代、「研究所が開発した有機ELを用いたデバイス開発」というう、地雷臭しかしないテーマに抜擢された。私は研究所の有機ELが酷くできが悪いこと、他社で開発が進んでおり特許もたくさん押さえられているが、実用化の目処が立っていないことを知っていた。そのため、会社を思ってこそ、課長とチームリーダーに状況を説明し、仕事を断るべきと主張した。

しかし、そのテーマは当時の社長が有機EL好きだったため始まったものであり、しかも失敗してもお咎め無しという条件であったため、O課長は「おいしい」と思ったのだ。みんなで気楽に試作品を作り、「頑張ったけど駄目だった」と報告して万々歳という青写真だった。

しかし、課長とチームリーダーは「可能性は0%では無い、始める前から諦めるとは社会人失格だ。お前はチームからは外さないが、会議には一切呼ばない、資料も渡さない」と意味不明の供述をした。そして、テーマメンバーになったまま仕事は一切無く、暇を持て余すという屈辱の日々を過ごした。そして半年後に部署を追い出されることになる。

私はO課長の「忖度」に失敗した。その結果、仕事の全てを奪われ、部署を追い出されることになった。

そして、O課長の「忖度」に成功したチームリーダーHは、人事評価で高得点をたたき出し、その年に管理職に昇格した。まさに「忖度」で得する人である。

なお、有機ELテーマはその後、たった一年で中止になった。

上司の上司の気持ちをおしはかる「忖度」=損する人

こうしてO課長の「忖度」に失敗して部署を追い出された私だが、実は私も「忖度」をしていたのだ。

私が「忖度」したのは当時の事業部長Eさんであった。事業部長Eさんはかなり気さくな方であり、若手の直談判や突飛な行動にもかなり理解を示してくださる方であった。

有機ELテーマが始まる直前の3月、事業部長Eさんを始めお偉いさんが勢揃いする、新人による成果発表会があった。それは会社の新人ほぼ全員が参加するものであり、ペアリーダーと呼ばれるベテラン社員のマンツーマンの指導を半年受けながら課題に取り組むというものである。

私はそのころM君という新人のペアリーダーをしており、M君の新人課題発表会に同席した。私はM君の発表を目立つものにするべく、「舘 ひろし」をテーマに黒服に銀のサングラスという格好で登場し、コント風の演出(親友Yの監修済み)で場を盛り上げた。

その結果、事業部長Eさんには「良い発表だった」とお褒めいただいた。ちなみに、O課長も絶賛してくれた。

しかし、チームリーダーHにはなぜか勘に触ったようで、「会社を何だと思ってるんだ」と説教された。私は「器ちっちぇー」と無視していたが、この事が意外に尾を引いた。

チームリーダーHは、有機ELテーマで私を「会議には一切呼ばない、資料も渡さない」根拠の一つとして、新人課題発表会での態度を持ち出してきたのだ。

そして、絶賛してくれたはずのO課長はチームリーダーHの気持ちを「忖度」して、「うむ。私もあれは良くないと思っていた」と同調した。

面倒なので反論しなかったが、私が新人課題発表会でコント風の演出をしたり、有機ELテーマに反対したりしたのは、事業部長Eさんの気持ちを「忖度」したからである。

先ほども書いたように事業部長Eさんは気さくな方なので、お笑い風の演出には寛容な方であった。また、事業部長Eさんは事業部の方針発表において、

「我が事業部は、上司の言うことを聞くだけの部下を評価しない」

「上司の言うことに反対して、結果を残す部下を最も高く評価する」

という方針を明確に発表されていたのだ。

私は課より上位である事業部の方針に従い、また事業部長Eさんの気持ちを「忖度」し、チームリーダーHの言うことに反対して結果を出したのだ。

そして、私は部署を追い出された。まさに「忖度」で損する人である。

成長したけりゃ「忖度」なんて気にするな

このように、大企業にも「忖度」の文化は息づいているが、官僚の世界とは少し趣が違うと思う。

森友学園の問題では、安倍首相の利益を「忖度」したのではと言われているが、会社において社員がトップ(社長、事業部長)の利益を忖度することはほとんど無い。

大企業の権力構造では、良くも悪くも中間管理職である課長クラスに人事評価が一任されている。そして、年功序列で何となく順番が回ってきただけのおじさん課長が考えていることは「退職まで無難に過ごすこと」であり、どんなにトップが改革や成長を訴えても、巧妙に課長が骨抜きしていく。

したがって、会社の利益を真剣に考え、トップの気持ちを「忖度」する優秀な社員は、課長にとっては秩序を乱す厄介者である。だから、人事評価で損する。

そして、そんなバカ課長の気持ちを「忖度」し、「いよっ!課長、流石」と心にも無いことを言える社員が人事評価で得する。

しかし、人間として、社会人として、技術者として、本当に得している人はどちらであろうか?

私は確かに元メーカーで損する人であった。しかし、会社の利益を真剣に考えていた結果、多数の商品開発や技術開発に参加し、100件を超える特許登録という実績を成し遂げた。そうやって、今もフリーランスとして頑張ることができている。

一方、得したはずのO課長とチームリーダーHであるが、事業部が業績不振のために取り潰され、大阪から神奈川に単身赴任をしているらしい。他の「忖度」で得したはずの社員たちも、会社を辞めることになったり、新築の家を売却して神奈川に引越したりしているとのことだ。あれ、損してんじゃーん。

昭和の時代のように、上司の気持ちを「忖度」すれば老後まで安泰だった時代はもう終わった。

これからはそんなみみっちい「忖度」ではなく、会社や日本社会、果ては世界の利益を「忖度」し、大きなビジネスや技術開発に挑戦する人こそが、得する人になっていくだろう。


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宮寺 達也
パテントマスター/アゴラ出版道場一期生

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