(特別寄稿)トランプ政権「反ロシア」への転換か ?

2017年03月30日 06:01

編集部より:本稿は、今年からアゴラ研究所のフェローに就任した渡瀬裕哉さんのオリジナル寄稿です。親ロシア路線だったトランプ政権に軌道修正の兆しが…。本邦で最も早くトランプ外交の変化を占うエントリーです。

Flickrより

トランプ政権とロシアの関係への風当たりは強くなる一方だが・・・

トランプは大統領選挙期間中からロシアとの共謀が疑われる状況となっています。現在、民主党へのハッキングで得られた情報の公開タイミングなどについて、トランプ陣営とロシア政府としていたのではないかという嫌疑がかけられて捜査対象となっています。

周知の通り、就任数週間でトランプの大統領選挙時からの外交アドバイザーであり、トランプ政権の国家安全保障担当補佐官であったマイケル・フリンはロシア大使との接触に関して副大統領に虚偽の報告を行ったために既に更迭されました。

トランプの側近であるジェフ・セッションズ司法長官は同じロシア大使との接触に関して議会で虚偽の証言を行ったことで追い詰められており、2人目の選対本部長であったポール・マナフォート氏はウクライアナの親ロ派のヤヌコビッチ元大統領からロビーイングの資金を受け取っていたことで追及を受けています。

最後までフリンの更迭に乗り気ではなかった娘婿のジャレド・クシュナー大統領上級顧問の議会証言の実施が取り沙汰されるなど、トランプに近い立場の人物が次々とロシアとの関係を疑われて吊し上げられている有り様です。

FBIはトランプ政権関係者とロシア政府との関係について捜査を進めており、仮に「黒」ということになった場合、政権を揺るがす大きな問題となることは間違いありません。

また、上記のような疑惑とまではいかなくとも、ティラーソン国務長官は来月NATO外相会談を欠席しながら訪ロする予定となっており、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部長もロシア側の軍責任者に面談しています。これらは主にISISなどを巡る対応に関して協力関係を確認する意味合いがあると思いますが、トランプ政権の親ロ方針に沿った行動を行っています。

旧ソ連圏の第一級研究者が国家安全保障会議・欧州ロシア上級部長

しかし、現在トランプ政権の対ロ政策方針、特に東アジアにも影響を与える可能性を示唆する人事の手続きが進んでいます。

フィオナ・ヒル氏(ブルッキング研究所サイトより)

それは「フィオナ・ヒル NSC欧州ロシア上級部長」の人事です。ヒルはブルッキング研究所米欧センター部長&上級研究員であり、ジョージ・W・ブッシュからオバマ初期までの2006~2009年に国家情報評議会ロシア・ユーラシア担当官でした。反プーチン派・反ロシア派の筆頭格であり、オバマ政権の弱腰やトランプ政権の融和姿勢を批判してきた経歴を持っています。さらに米英の二重国者でもあります。

ヒルは大統領選挙におけるロシアの干渉についても言及しており、トランプ政権内では政権批判を行ったスタッフが首になることもあるトランプ政権の方針を堂々と批判した人物が同役職にノミネートされることは異例と言えます。また、前政権時代は欧州とロシアの担当者が分かれていたこともあり、それらを統合する形で外交・安全保障のスタッフの責任者が任命されることは欧州情勢全般に影響を与えることを意味しています。

彼女へのオファーはフリンが追放される前に、フリンの代理を務めたキース・ケロッグ氏によって行われた人事ですが、各種報道ではトランプ政権はヒルを登用することで親ロ的であるという批判を避ける思惑があるとも報道されています。トランプ政権のロシアとの融和姿勢は民主党だけでなく身内の共和党内からも反対意見が噴出している状況です。

日米露の三極研究及び北方領土問題の専門家としての側面も

ただし、ワシントンポストなどの一部の報道でなされている「反プーチン」の人事であると理解することは早計です。彼女自身はネオコンのような教条主義的な反ロシア勢力というよりもタフネゴシエイターのようなイメージのほうが近いように感じられます。したがって、その方向性はネオコンのようにプーチン支配を瓦解させるというものではなく、是々非々の交渉の中でロシアをコントロールすることを志向するものになるでしょう。 

ちなみに、フィオナ・ヒルは米国の第一級の旧ソ連圏を扱う研究者ですが、その研究業績の中には日本人から見ても興味深いものがあります。彼女の研究内容にはCoordinator of the Trilateral Study on Japanese-Russian-U.S. Relationsが含まれており、日米露の三極関係に関して1992年からハーバード大学における研究レポートのコーディネーターを務めています。

また、橋本龍太郎元首相、ボリス・エリツィンによる領土返還交渉に米国側から関与していた人物としても知られており、日本や極東情勢についても見識が深い人物です。ただし、日本政府のように領土問題に甘い見通しは有しておらず、ロシア側の餌であって実行されないものであることを再三にわたって指摘してきた人物でもあります。

フリンが更迭されたことで極東アジアにおける日米露関係の進展は一旦滞る可能性がありましたが、ヒルがトランプ政権に加わることによって何らかの動きを見せてくるようになるものと思われます。昨年に見られたように百戦錬磨の交渉相手であるロシアに対して不確かな状況で対ロシア融和政策を推進してきた日本政府は、米国側から現実志向の厳しい外交姿勢に転換するように要請される可能性もあります。

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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