「こども保険」とは何のリスクに対する保険か

池田 信夫

小泉進次郎氏などの自民党議員が「こども保険」を提言したが、意味がよくわからない。アゴラに投稿された鈴木隼人氏の記事も意味不明だ。

今、高等教育無償化の検討が始められています。しかし、幼児期については月額5千円から1万5千円の児童手当が支給されますが、さらなる支援の拡充は見込まれないのが現状です。

そこで、「お金の悩みで結婚や出産をあきらめることのない社会」を実現するために、保育・幼児教育をサポートする施策として提案したのが「こども保険」です。

これは児童手当の財源を税でも国債でもない方法で調達しようということだろうが、なぜ「保険」なのか。保険とはリスクをヘッジするもので、年金は長生きのリスク、医療は病気のリスクをヘッジするものだが、子供を産むのはリスクではない。出産は自分でコントロールできるので、保険の対象ではありえない。民間の子供保険は、単なる貯蓄である。

したがってこども保険の実態は増税であり、小泉氏もいうように、消費税の用途が決まっているので財源を他に求めるだけの話だ。幼児教育を充実するという目的はいいが、新しい財源は必要ない。私学助成と国立大学法人への国庫補助1兆5000億円を使えばいいのだ。大学教育が人的資本を増やす根拠はないからだ。

幼児教育という理由は政治的には便利だろうが、実態は単なる所得再分配なので、ベーシック・インカム(BI)のような非裁量的な再分配が望ましい。これは子供にも個人として分配されるので、今の社会保障財源をすべてBIに切り替えれば、年間36万円ぐらいの児童手当を支給できる。

ただ、これはフローの所得を再分配するだけで、金融資産の60%以上を60歳以上が保有している資産の再分配ができない。だからBIの財源としては、金融資産に一律に課税でき、子供の社会保障負担も減らせるインフレ税がいいのではないか。

いずれにせよ小泉氏が日本のリーダーになるころは、財政は完全に行き詰まっているだろう。国債を2000兆円も3000兆円も発行すると、いずれ金利上昇とインフレが来る。実際の選択は、消費税か(意図的あるいは意図せざる)インフレしかないのだ。長期的に考え直すなら、マイルドなインフレ税を設計することも一案だろう。