【映画評】ジャッキー ファーストレディ 最後の使命

渡 まち子
Jackie

1963年11月22日、テキサス州ダラス。ジョン・F・ケネディ大統領がパレードの最中に群衆の目の前で暗殺された。妻でファーストレディであるジャクリーン、通称ジャッキーは、最愛の夫の死を悲しむ間もなく、リンドン・ジョンソン副大統領の大統領就任式の立ち合い、葬儀の準備、ホワイトハウスからの退去などの業務に追われる。犯人への怒りにかられながら、夫が事件直後からすでに過去の人のように扱われることに憤ったジャッキーは、夫の存在と彼が築いたものを永遠に歴史に残そうと決心する…。

ジョン・F・ケネディ元大統領暗殺直後の妻ジャクリーン・ケネディの行動と心の葛藤を描く異色の伝記ドラマ「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」。JFKを描く映画や、JFK暗殺事件を扱った映画は数多いが、本作は、アメリカ史上最も有名なファーストレディ、ジャッキーに焦点を当て、JFKが歴史的な偉人として記憶されたのは、暗殺直後のジャッキーの才覚があったからだというスタンスで描いていて、その解釈は非常に興味深いものだ。裕福な家庭に生まれ、フランス留学や、新聞社で記者として働くなど、知性派のジャッキーは、同時に美術品を好み、流行を左右するファッションアイコンでもあった、才色兼備の女性である。目の前で最愛の夫を殺されるという悲劇の中で、ほぼ本能的にJFK伝説をプロデュースした手腕は、確かになかなかのものだ。犯人のしたことを世界中に見せるため血のついた服を着続ける。安全を考慮する周囲の意見を制して堂々とカメラの前に姿を現す。政府やケネディ家の意向に反してまで、自分が最もふさわしいと考える葬儀のスタイルにこだわる。それらすべてはJFKを過去の人にさせないという強い意志があったからだ。

実際は、桁外れの浪費癖や、リンカーン大統領(JFKと同じく暗殺されている)の葬儀スタイルを模倣するなど、俗っぽさも多大にあるのだが、ケネディ伝説を後世に残すためにとった葬儀のイメージ戦略は、見事に成功したのだから、やはりジャッキーという女性は非凡な人物だったと言わざるを得ない。何よりもジャッキーを演じたナタリー・ポートマンのなりきりぶりが素晴らしい。クローズアップが非常に多いが、人々の前で見せる毅然とした顔と、ホワイトハウス内で一人でいるときの脆く不安な表情など、せりふがなくてもしっかりと物語る丁寧な演技は見事である。稀有な運命を背負ったファーストレディの喪失感を静かに熱演したポートマンの気品が最大の見所だ。
【75点】
(原題「JACKIE」)
(米・チリ・仏/パブロ・ラライン監督/ナタリー・ポートマン、ピーター・サースガード、グレタ・ガーウィグ、他)
(歴史秘話度:★★★☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月2日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。