カジノ推進本部の前にギャンブル依存症対策推進本部の設置を

田中 紀子

第1回の会合が開かれた特定複合観光施設区域整備推進本部(17年4月4日、首相官邸サイトより:編集部)

昨日、安倍首相がIR推進本部の初会合を開かれました。

カジノ解禁に向け規制など検討 IR推進本部が初会合(朝日新聞デジタル)

この記事をご覧頂ければお分かりの通り、ここに任命された有識者8名の方は、これまでもずっとIR推進に尽力されてこられた方々であって、ギャンブル依存症の専門家や当事者及び家族などの関係者は入っていません。

【IR推進会議有識者の皆様】
熊谷亮丸(大和総研チーフエコノミスト)
桜井敬子(学習院大法学部教授)
篠原文也(政治解説者)
武内紀子(コングレ社長)
丸田健太郎(公認会計士)
美原融(大阪商業大教授)
山内弘隆(一橋大院商学研究科教授)
渡辺雅之(弁護士)

ギャンブル依存症対策については、現在別建てでギャンブル依存症対策法案が検討されているので、そちらでということなのかもしれませんが、それにしてもIRだけは随分と用意周到にかつ、迅速に検討され、ギャンブル依存症対策については、全く見えていません。

政府は、なんとしてもIRを秋の臨時国会に出したいのだと思いますが、だとしたら、ギャンブル依存症対策についても、早急に、対策について検討会議を開いて頂きたいと思います。

これまでギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議が開かれ、与党の論点整理もありましたし、各党のプロジェクトチームも立ち上がりました。

けれども、各党バラバラで検討されたものを、どうやって横串を指すのかも見えていませんし、内容だって不十分です。

現在、出ているギャンブル依存症対策は、アルコール健康障害対策基本法で既に決まっていたものに、急遽ギャンブルを突っ込んだようなものが多くなっています。

しかしながら3月31日に発表された最新の調査でも、ギャンブル依存症罹患者は2.7%、280万人という結果が出ており、これはアルコールの同様の調査の3倍近い数字となっています。にもかかわらず、社会的リソース、専門家など、ギャンブルの支援体制は、アルコールに質、量ともに遠く及びません。

そのギャンブルのずっと先を行く、アルコールの支援体制も不十分だということで、「アルコール健康障害対策基本法」は生まれたのです。そこにかぶせるような対策を打っても、土台がないのですから、それは無理な話です。

更に、最大の問題はここです。
皆様、この「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」のホームページをご覧下さい。

ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議

出席者が、現在の公営競技等の管轄省庁の大臣となっています。
ここでギャンブル依存症対策が話し合われたとしても、既得権を持つ関係省庁の長に、痛みを伴うような対策が打ちだせる訳がないじゃないですか。
その証拠に、論点整理には、私たちがずっと訴えてきた、規制と振興を行う省庁が同じでは、対策など推進できないという主張も、ギャンブル依存症対策費は、ギャンブル産業の受益者負担で行うべきという意見も、取り上げられていません。

そして未成年者の入場制限の徹底なども、タスポのようなものを作って欲しいと訴えてきたにも関わらず、「未成年者等の購入禁止等に係る注意喚起や警備を徹底」とされています。だったら今と変わらないじゃないですか。
その他、議員の先生方に、 PTでお願いした諸々の件に対し、最終的に閣僚会議であがってきたものは、実に当たり障りのないものとなっている感が否めません。

ハッキリ言って、利益を享受している方々だけで考え作る法案で、本当に改革を伴う対策が打ち出せるのでしょうか。安倍総理のおっしゃる「クリーンなカジノ」が作れるのでしょうか?

そもそも「アルコール健康障害対策基本法」は、アルコール依存症の支援に長年関わって来られた、医師や援助職、当事者、家族でたたき台を作り、賛同して下さる政治家の先生を巻き込んで、議員立法で成立させた法案です。

それに対して、ギャンブル依存症対策法案は、依存症に関わる支援者、当事者、家族にヒアリングが行われただけで、閣僚会議で全てが決められてしまうのでしょうか?
この法案がどうやって決められるのかすら、まだ全く見えていません。

ギャンブル依存症対策法案は、IR推進派のための対策であってはなりません。
あくまでもギャンブル依存症に苦しむ、当事者、家族、そして社会全体のためになるものでなくてはならないのです。

ギャンブル依存症対策法案の透明性かつ、迅速な対応、そして勇気ある大改革に取り組むことが明示されるまでは、IR推進は有り得ないと思っております。世論も同じ思いではないでしょうか?


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2017年4月5日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。