教育勅語という毒饅頭を誰が食べる

2017年04月07日 06:00

「教育勅語」(Wikipediaより:編集部)

答弁書を閣議決定する不思議

愛国主義教育を看板に掲げた森友学園の騒動で、学校や学園における教育勅語の扱いに反省ムードが高まるだろうと思っていましたら、逆なのですね。安倍政権は「憲法や教育基本法に反しない形で教材として用いることまで否定されることではない」との政府答弁を閣議決定しました。なぜわざわざこんなことまで、閣議決定するのだろうか、真意は何なのだろうか、首を傾げます。

日本の歩みを勉強する過程で、「過去にこのような間違ったことをしていた」と、学校で教育することは必要です。当然、教育勅語についても、「明治憲法下で教育勅語が制定され、日本の学校教育における軸になった。敗戦後、間もなく国会でこれを失効させる決議を採択した。戦前、忠君愛国主義を支え、日本を戦争へ駆り立てる役割を担った」という教訓を、歴史から学び取らねばなりません。

いまさら「教材として用いることを否定しない」と、なぜいうのでしょうか。そんなことを言おうと言うまいが、歴史上の事実としてすでに教科書に載っています。しかも、そんな当たり前のことを「閣議決定」するとは、おおげさ過ぎます。学校で教える歴史上の事実をわざわざ閣議で決めるなんて、妙ですね。そんなことをしないで済むように教科書検定という制度があるのと、違いますか。

歴史に逆行する錯誤の閣僚発言

想像するに、森友学園問題を契機に愛国主義教育に逆風が吹くのを警戒して、それに歯止めをかけたい政治勢力が動いたとみられます。稲田防衛相が国会で「教育勅語の核の部分は取り戻すべきだ」と、歴史の流れに逆行する答弁をしたのが、その一例です。そこで、稲田氏のような時代錯誤の言動を封じ込めていくというポーズを見せるために、菅官房長官が「勅語を教育現場で積極的に採用する考えはない」と、公式発言したのかもしれません。

その反対の解釈もできます。稲田氏のような国家思想を持つ自民党議員は相当数、いるはずです。籠池騒動でドロを塗られたと思った愛国主義教育派が形勢挽回のために、「教材として用いることまで否定されない」という文言を、国会答弁に潜り込ませたと推察しますね。「教材として用いることはあり得る」として愛国派をなだめるのを主眼としたと、私は考えますね。つまり愛国主義教育の擁護に軸足を置いている。安倍首相の意向も働いているでしょう。

稲田氏を始め、安倍政権の多くの閣僚が参加している右派の政治・思想組織「日本会議」は、憲法改正、天皇制、愛国心、靖国参拝問題などになると、にわかに活気づきます。その影響がきっとあるのでしょう。籠池氏も「日本会議」のメンバーだといいます。不可解な閣議決定の裏には、安倍首相の本質を考える上で、重要な政治的な意味を持っているのです。

日本を破局に導いたと歴史は裁く

教育勅語には12の徳目が書かれ、いつの時代にも通用するものもあります。親孝行、夫婦愛、兄弟愛、友人同士の信頼関係、勉学、知識の向上などそうでしょう。徳目の中には重大な問題点があります。「国の危機の際には、国のために力を尽くし、永遠の皇国を支える」であり、神格化された天皇中心の国家主義が仕込まれています。今も学ぶべき徳目が盛り込まれているといくら弁明しても、基本的な骨組みは歴史的な誤りであり、敗戦後に否定されたものです。

それを今の時代に復活させようとするのは、いわば毒饅頭を児童、生徒に食べさせようとするに等しい行為です。饅頭の餡子の部分には、国民的な美徳が詰め込まれているけれども、饅頭全体を食べようとすると、復古調、戦前への回帰、国家の中心に存在する皇室などをまるごとに飲み込むことになります。

ついでに言えば、教育勅語の制定後しばらくして、西園寺公望文部大臣が「勅語はあまりにも国家中心主義に偏りすぎており、国際社会における日本国民の役割などに触れていない」と批判し、自ら改訂版を起草したそうです。結局、改訂版は日の目を見ることなく、日本は戦争の破局へと突入していったのです。

皮肉交じりにいえば、教育勅語には、現在も効用がある箇所があります。学園建設の各種の補助金を詐取しようとしたともみられる籠池氏などは、教育勅語を率先して復唱し、「人格の向上に努める」、「法律を守る」、「言動を慎む」の徳目の部分では、励んでもらいたいところです。交渉記録を破棄してしまったと、平然としている財務省担当者にも同類項の人たちがいます。生徒、児童より、まず政治家を含む大人たちに勅語を実践してもらいたい項目はあるのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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