10年前の小委員会案と現在の共謀罪関連法案を比較検討

2017年04月13日 20:30

インターネット等で情報収集される方が比較検討の対象とされるのは、多分、11年前の通常国会に提出された内閣提出の共謀罪法案原案と今国会に提出された共謀罪関連法案だろう。

この二つだけを比較すると、確かに対象犯罪がかつての法案よりも大幅に削減されており、かつ、計画にプラスして準備行為が行われることが処罰要件として付加されているから、政府原案にあった当初の共謀罪の構成要件が大幅に変更されたと見るべきだ、これはかつての共謀罪法案とはまったく別の、新しい「テロ準備罪」法案だ、ということになるのだろう。

政府当局者は最後までそういう説明で押し通すつもりだろうし、自民党もその路線で頑張るはずだ。

確かに対象犯罪を277にまで絞ったのは、法務省と外務省の大英断であり、準備行為を処罰要件として明記したことも従前の法案を漫然と踏襲するよりは進歩である。

さはさりながら、というのが、私の基本的なスタンスである。

11年前の通常国会で私は2度にわたって政府原案の修正案を策定し、自民党、公明党のそれぞれの党内手続きを経て正式に国会に与党の修正案として提出し、さらには第三次修正案として提出すべく用意した新修正案を策定し、通常国会終了直前の法務委員会の議事録の末尾に「組織犯罪処罰法改正法与党側修正試案」として添付してもらった。

これらの修正案や与党側修正試案は、法務委員会等における与野党の様々な質疑や当時の世論を十分に踏まえたもので、当時の状況において与野党の合意を得るためにもっとも適切なものだったのだろうと私自身は思っている。

これらの修正案や修正試案には、対象犯罪を絞り込むための基本的な考え方や、対象団体を組織的犯罪集団と明記したうえで、法律の運用の適正を図るための「運用上の留意事項」も既に織り込まれていたのだから、私の立場から言うと、今国会に提出されている共謀罪関連法案とかつての共謀罪法案とは根本的な違いはないな、ということになる。

結局共謀罪法案についての国会での審議は、11年前の通常国会で終了しており、国会での議論はその後実質的に進展しなかったのだが、実は自民党の法務部会の中ではその後も検討を続けており、重要な進展が10年前の2007年2月20日にあった。

自民党法務部会の中に条約刑法検討に関する小委員会(委員長笹川堯)を設け、私が事務局長になって共謀罪に関する議論を整理し、自民党と法務省、外務省等との意見のすり合わせを行い、2007年2月20日の小委員会で成案を得るところまで行っていたのである。

この通常国会に提出されている内閣提出の共謀罪関連法案と比較検討していただくのなら、私としてはこの小委員会案と比較検討していただきたいものだと願っている。

当時の取りまとめの記録が残っていたので、取り急ぎ皆さんの参考に供したい。

            記
「条約刑法検討に関する小委員会」における検討結果

1 本小委員会における検討の経緯及び趣旨
① 経緯

国際組織犯罪防止条約は、国際的な組織犯罪の防止・処罰のための各国の法整備や国際協力についてのグローバル・スタンダードを定めた国連条約であり、世界130か国が締結し、我が国以外のG8諸国はすべて締結済みである。我が国でも、平成15年の通常国会で同条約の締結について承認がなされ、間もなく4年が経過するが、条約刑法が成立しないため、未だ同条約の締結に至っていない。

我が国は、来年(平成20年)にはサミットの議長国を務めることとなっており、テロ・組織犯罪の防止・処罰のための国際的なネットワークの構築において、積極的な役割を果たす必要がある。そのため、条約刑法についても、幅広い国民の理解を得て、速やかに成立させる必要がある。

② 検討の趣旨

条約刑法については、これまでの国会審議等を通じ、国民から様々な意見が示されており、その中には、「組織的な犯罪の共謀罪」の対象犯罪が600を超えることなどから、一般の国民が広く処罰の対象とされるのではないかとの不安の声も多かった。「組織的な犯罪の共謀罪」は、組織的かつ重大な犯罪の共謀に限って処罰の対象とするものであり、このような不安は誤解に基づくものも多い。

しかし、「組織的な犯罪の共謀罪」について広く国民の理解を得るためには、国際的組織犯罪防止条約が、国際的な組織犯罪を防止し、これと戦うための協力を促進することを目的とするという原点に立ち返り、その対象犯罪については、現実にテロ組織等の組織的な犯罪集団が実行するおそれがあり、ひとたび実行されると重大な結果が生じてしまうため、その防止のために、実行前の謀議の段階で処罰することが真に必要であると考えられるものに限定することが適当である。

③ 検討の結果

本小委員会では、このような考え方から、対象犯罪の絞り込みなど、「組織的な犯罪の共謀罪」の修正について検討を行い、有識者、関係省庁、日弁連からのヒアリングも行った上で、別紙「テロ等謀議罪の対象犯罪(案)を含む修正案を取りまとめたものである。

2 修正案の概要

本小委員会において取りまとめた修正案の骨子は、別紙「犯罪の国際化及び国際化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案に対する修正案要綱骨子(素案)」のとおりであり、その要点は、以下のとおりである。

① 「組織的な犯罪の共謀罪」という名称の修正

テロ等の重大な組織犯罪が実行されて甚大な被害が発生することを防止するために、謀議の段階で処罰を行うものであることが明確になるように、「テロ等謀議罪」という名称に修正することとする。

② 対象犯罪の限定

国際組織犯罪防止条約が、国際的な組織犯罪を防止し、これと戦うための協力を促進することを目的とするものであることを踏まえ、「テロ等謀議罪」の対象犯罪は、現実にテロ組織等の組織的な犯罪集団が実行するおそれがあり、ひとたび実行されると重大な結果が生じてしまうため、その防止のために、実行前の謀議の段階で処罰することが真に必要であると考えられる犯罪に限定することとし、そのような犯罪の類型として、「テロ犯罪」、「薬物犯罪」、「銃器等犯罪」、「密入国・人身取引等犯罪」、「その他、資金源犯罪など、暴力団等の犯罪組織によって職業的又は反復的に実行されるおそれの高い犯罪」の5つの類型を挙げた上、各類型に該当すると考えられる犯罪を具体的に列挙することとする。

このような考え方に基づき、対象犯罪の限定についての具体的な案として、別紙「テロ等謀議罪の対処犯罪(案)を取りまとめた。

③ 「テロ等謀議罪」の対象となり得る団体の限定

「組織的な犯罪集団」、すなわち、結合関係の基礎としての共同の目的が「テロ等謀議罪」の対象犯罪等を実行することにある団体のみを対象とするものとすることにより、対象となり得る団体を限定する。

④ 「共謀」の意味の明確化

「具体的な謀議を行い、これを共謀した者」という表現に修正し、具体的な謀議がなければ「共謀」には当たらず、例えば、目配せをしただけでは「共謀」に当たることはないことを明確にする。

⑤ 「共謀」だけでは退歩も勾留も処罰もされないものとすること

「共謀」に加えて、「実行に必要な準備その他の行為」が行われない限り、処罰できないものとし、また、これが行われたという嫌疑がない限り、逮捕・勾留をすることもできないものとする。

⑥ 運用上の留意事項の明記

「テロ等謀議罪」の規定の適用に当たっては、思想・良心の自由等、憲法の保障する自由・権利を不当に制限してはならないこと、また、労働組合その他の団体の正当な活動を制限してはならないことを明記することとする。

(以下、略)


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2017年4月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。

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