【映画評】人生タクシー

2017年04月19日 06:00

イランの首都テヘラン。ジャファル・パナヒ監督が運転する1台のタクシーに、さまざまな乗客が乗り込んでくる。死刑制度について議論する女性教師と路上強盗、海賊版DVDを売って一儲けを企むビデオ業者、ある女性は夫が交通事故に遭ったと泣き叫び、金魚鉢を抱えた老女2人は何やら急いでいる。さらに、映画の題材に悩む小学生の姪っ子まで。個性豊かなな乗客たちが繰り広げる人生模様から、知られざるイラン社会の“今”が見えてくる…。

ジャファル・パナヒ監督がタクシー運転手に扮してテヘランに住む人々の人生模様を切り取る異色のドキュメンタリー風ドラマ「人生タクシー」。アッバス・キアロスタミ監督の愛弟子のジャファル・パナヒ監督は、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの世界三大映画祭を制覇したイランの名匠だ。だがパナヒは、2010年に、反体制的活動を理由に“20年の映画製作禁止令”を言い渡されている。つまり母国イランで映画を作っちゃダメ!と法的に言われてしまっているのだ。もちろん勝手に出国するのも禁止である。だがパナヒはそんな圧力には屈しない。自らタクシーを運転し、ダッシュボードに置かれた監視カメラで撮影した映像を通して、厳しい情報統制下にあるイラン社会を映し出した本作には、ドキュメンタリー風でありながら、かなり綿密な演出が感じられる。タクシーには、さまざまな境遇の人々が乗り込んでくるが、その会話はどれも軽やかでユーモラス、同時に鋭く深いもので、飽きさせない。特に監督の実の姪で、小学生の少女が“国内で上映可能な映画”を撮ろうと頭を悩ませるエピソードは秀逸だ。少女らしい無邪気さと大人顔負けの聡明さを併せ持つこのタフな少女が、カメラに映るものの裏と表をしっかりと体現し、汚い現実を覆い隠してしまうイラン映画の情報統制を鮮やかに皮肉ってみせる。

それにしてもタクシーというのは実に映画的なモチーフだ。「ナイト・オン・ザ・プラネット」では社会の縮図を、「タクシードライバー」では都会の孤独を、「月はどっちに出ている」では方向音痴のタクシードライバーの恋模様を描いた。一定の空間(狭い車内)に現れては消えていく乗客と常にそこにいる運転手という構図は、人生そのもののように感じてしまう。一時期、自宅に軟禁されていたパナヒの日常の詳細は分からないが、映画製作禁止令をものともせず、理不尽な圧力への怒りを映画愛に昇華し、驚くべき方法で秀作映画を作っては届けてくれる。監督にはただ一言、“ありがとう”と言いたい。
【75点】
(原題「TAXI」)
(イラン/ジャファル・パナヒ監督/ジャファル・パナヒ、他)
(風刺度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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