英国のメイ首相の総選挙前倒し発言受けて、何故ポンドが買われ株は売られたのか

久保田 博幸

英国のメイ首相は18日、ロンドンの首相官邸で緊急会見を行い、2020年に予定されていた総選挙を前倒し、今年6月8日に実施したい意向を明らかにした。総選挙を前倒しして実施するには、議会の3分の2の賛成が必要となるが19日の英国議会下院では、最大野党の労働党も賛成したことで採決の結果、必要な3分の2を超える支持を得て、総選挙の前倒しが決まった。メイ首相の総選挙前倒しの意図とは何か。その前にメイ首相の発言を受けての金融市場の動きを確認してみたい。

外為市場では、ポンドが主要通貨に対して大きく「上昇」した。英国は昨年6月の国民投票でEU離脱を決定した。今年3月にメイ首相がEUに離脱を通知し、原則2年間の交渉に入っていた。この間、ポンドはドルなどに対して下落した。これにはメイ首相のハードブレグジット(英国がEUから完全に離脱する強硬路線)・リスクが影響していたと思われる。

ハードブレグジットとは移民抑制などを優先し、単一市場からの離脱もいとわない政策のことであり、リスク回避の動きとしてポンド売りとなったが、ロンドン株式市場はポンド安、つまり自国通貨安を好感して上昇するという現象も起きていた。為替市場と株式市場では英国の将来に対しての認識の違いもあったのかもしれない。

今回のメイ首相の総選挙前倒し発言を受けてポンドが買われたのは、政権基盤が強固されるため不透明感の払拭も意識されていたようである。しかし、ロンドン株式市場は下落したがもこれはポンド高によるものとされた。つまり2012年11月の東京市場での円高株安修正のように大きなポジションの巻き返しが起きた可能性がある。また今回の外為市場やロンドン株式市場の動きを見ると、ハードブレグジットリスクの後退を意識させるものとも見えなくもない。

ここで問題となりそうなのが、メイ首相が総選挙を前倒しをしたい理由となる。日本の2012年12月の総選挙は民主党政権が追い込まれて実施したものであったが、今回の英国の総選挙の前倒しはメイ首相が起死回生を狙ったものといえる。与党勢力を伸ばして政権基盤の安定を図ることが目的となろう。これでハードブレグジット路線をより強固なものにしたいものとみられる。ただし、現実路線(ソフトブレグジット)ら向けた修正を図っている可能性も指摘されている。

元々メイ首相はソフトブレグジット路線を探っていたものの、EU側の強固な姿勢もあってハードブレグジットを選択せざるを得なくなった。このため与党保守党内でも分裂が生じた。またスコットランドでは独立の是非を問う2度目の住民投票の可能性も指摘されている。このタイミングで総選挙に打って、とりあえず勢力基盤の安定を図るにはチャンスとみていたと思われる。

英国債の動きをみると今回は買い進まれ、18日の英国の10年債利回りは一時1.0%割れとなった。選挙は水物でもあり、英国の政治の先行き不透明感の強まりを考慮すると、リスク回避により英国債は売るべきか買うべきかは悩ましいところであろう(19日の英国債は売られている)。フランス国債は大統領選挙に向けた不安もあって売られる場面もあった。18日の英国債が買われた理由としては、リスク回避というよりも政権安定を意識した買いの可能性もある。

ただし、18日のメイ首相の総選挙前倒し発言受けた市場の動きは一時的なものとなることもあるため、今後のポンドやロンドン株式市場、英国債の動向も注意したい。ちなみに英国債や米国債が買われたことで、19日に日本の10年債利回りはゼロ%に低下した。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。